第九話・クリスマス


 クリスマス。聖なる夜。


 今日はボクとお兄ちゃんだけの特別な日。


 そして、これからのボクとお兄ちゃんの特別な日になるんだ。


 ……大丈夫かな?ううん、きっと大丈夫。


     お兄ちゃん、早く来ないかなぁ?


    …………………。


    ……呼び鈴の音、お兄ちゃん?


「……よぉ」お兄ちゃんだ、待ってたよ!


「少し時間が掛かった」でも来てくれた。


 たった五分の遅刻でも、ボクは怒らないよ。


 さ、入ってお兄ちゃん!お兄ちゃんの為に、ボクがご馳走を用意したんだ!


「おぉ…すげぇな」うん、丹精を込めて作ったから、お兄ちゃんの口に合うと嬉しいなぁ。


「……俺だけか?」ん?うん、そうだよ。お兄ちゃんだけ。


「親とかは?」今日は居ないよ。このお店も貸し切りなんだぁ。


「そうか……」えへへー、早く座ってよ、お兄ちゃん!


  「あ、ああ……」えーっと、ボクは、お兄ちゃんの隣に座るね。


 ボクが食べ物をよそってあげるから、好きな物が欲しければ、ボクに言ってね?


「まるで王様みたいだ」あ、そうだね。でも、お兄ちゃんは客人だから、丁重に扱わないと。


 まずはチキンでしょ?サラダに……あとはミートパイっ!はい、どーぞ!


「……じゃあ、いただきます」お兄ちゃん、味の方はどうかな?


「……あー、美味い」そっか、えへへ。良かったぁ!


  食べて飲んでいーっぱい騒いで、思い出を作ろうね!


「お。おう」


 あぁ……楽しいなぁ。好きな人が傍に居るだけで、こんなにも楽しいんだね。


 ……お兄ちゃん。デザートのクリスマスケーキ。切り分けたから。


「悪いな」ううん。そんなの気にしないで。はい、あーん。


「……一人で食えるぞ?」ボクがしたいの。ね、お兄ちゃん。あーん。


「……あ、あーん」んー?おいしい?「……あぁ」お兄ちゃん、甘い物が嫌いって言ってたから、甘さ控えめのクリームケーキなんだ。


「あー、そうか」だから、お兄ちゃんのお口に合ってよかったよぅ。


「……ふう、もう腹いっぱいだ」そうだね、お兄ちゃん。


  もう、九時だ。……ねえ、お兄ちゃん。「ん?」ボクね、お兄ちゃんに出会えて良かったと思ってる。


 ボクを受け入れてくれるお兄ちゃんが、ボクに優しくしてくれるお兄ちゃんが、ボクは、大好き。

「………投刀塚」お兄ちゃん。ボクのこと、あき……ううん、あさひって呼んで?


 それが、ボクの本当の、名前だから。


「……あさひ」うん、お兄ちゃん。


 恥ずかしいから……目を、瞑ってくれないかな。


 うん、そう、そのまま………んっ……えへへ。


 お兄ちゃんに、キスしちゃった。


「……」


 ………え?


 なんで、唇を拭くの?


「……悪い、旭」


 わ、悪いって、何が?


 なにが悪いの?


 ボクの、何が悪いの?


 …………え?


      

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