金髪と厭穢と無差別術式
無差別術式。
古今東西、あらゆる術式の基礎を寄せ集めた万能術式。
聞こえは良いがその実、厭穢に対して有用に至らぬ弱者の能力と蔑まれる。
当時の市民が厭穢による魔の手から逃れる為に考案された護身用の術式であり、これを本格的に使用する祓ヰ師は存在しない。
確かに品揃えは豊富だろうが、圧倒的な火力不足が目立ち、その術式の効能時間は極端に短い。
あくまでも初心者・及び市民が扱える為に比較的神胤の使用量を抑えた代物。
最終的には、この術式は一般公開されており、祓ヰ師同士が争い、再戦する場合、確実に対策が取られてしまう。
故にその術式を体得したものは、祓ヰ師内では最底辺に属するものとして蔑まされる。
が、八峡義弥はこの術式に使い道を見出した。
遣い方次第では強者を屠る一撃を秘めると、そう八峡義弥は判断し、無差別術式を体得。
その結果、八峡義弥は。
「が、ばッ、はッ」
瀕死状態に陥っている。
無差別術式・火零。
神胤を火に変換。
対象に火を当てる事で、肉体を炙る様に焦がす火傷状態に陥らせる。
蟲ならば火が弱点だろう、と言う八峡義弥の浅はかな考え。
それは実は当たっているが、八峡義弥の術式は、着弾するよりも先に厭穢が制した。
「はッ……あ」
「ん、だ、今……の」
八峡義弥は吹き飛ばされていた。
そのまま森林、大樹に背中を強打して、耳や目、口から血を流す。
―――りりり、りん、り、りりり。
そんな鈴の様な声が、厭穢の口から発生していた。
その音は、夜中に良く聞く音であり。
(こおろ、ぎッ)
八峡義弥は、その蟲の正体を口にした。
その厭穢、それは、蟋蟀であった。
蟋蟀の厭穢。
その脚力は凄まじく、鳴る音は衝撃波と化した。
八峡義弥は攻撃をする際に衝撃波によって吹き飛ばされて、これによって肉体は酷い損傷を受ける事となる。
「あー……」
「ひ、ぎッ」
「ふ、あッ」
立ち上がろうとする八峡義弥。
しかし、体にはうまく力が入らない。
蟋蟀の厭穢は足に力を溜める。
動けない八峡義弥にトドメを刺すつもりなのだろう。
肥大化する太腿、思い切り跳んで八峡義弥の体を蹴り千切るらしい。
「無差別、術、し、」
「ひ、こぼッ」
八峡義弥は、渾身の力を振り絞る。
腕から流れ出る炎。
それを必死になって構えた。
八峡義弥は相打ちを狙う。
死せども、敵に傷を付ける。
ただでは死なぬ、その意志を見せつける。
無論、厭穢にはその八峡義弥の意志など知らぬ。
八峡義弥が蟋蟀の厭穢に触れる寸前に蟋蟀の厭穢は八峡義弥を殺せる。
無意味な行為だと、意識があるのならばそう思うだろう。
「無意味な行為だ」
同時に、その女もそう言った。
八峡義弥に対して、ではない。
それは、蟋蟀の厭穢に対してであった。
「良い闘志」
「それでこそ八峡よな」
指を振るう。
それだけで蟋蟀の厭穢、その両足が削れる。
「さて」
「たまには」
「童心に返り」
「蟲の手足を捥ぐのも」
「悪くはない」
東院一が地面へと下る。
減滅術式が蟋蟀の厭穢の足を削いだ。
地面に横たわる蟋蟀の厭穢。
東院一は近づき、蟋蟀の厭穢に指を構える。
寸前、蟋蟀は啼いた。
敵である東院一を殺す為、衝撃波を放つ。
「煩わしい」
「これは歌か?」
「心に響かんな」
しかしその衝撃波は。
東院一が周囲に張った虚によって相殺される。
減滅術式はエネルギーすら零にしてしまう。
「歌うとはどういうものか」
「妾が教えてやろう」
そうして、東院一が指を払う。
厭穢の腹部が削がれた。
「ッ――――ッ!」
甲高い声。
それは悲鳴である。
それを聞いた東院一は。
「良い」
「それが歌だ」
「冥途の土産に」
「体得するが良い」
心地良さそうに、笑うのだった。
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