金髪と最強と厭穢
「――――ほう」
「存外に運が良い」
「いや」
「鍛えているか」
「八峡」
東院一は空を飛びながら最下の戦闘を眺めていた。
士柄武物を構えながら八峡義弥は荒く息を吐く。
飛び出て来た厭穢、確かに八峡義弥は攻撃を受けた筈。
なのに、八峡義弥は厭穢の背後に立ち、構えていた。
「――――」
(び、ビらせんな、コラ)
(つか、早ェ、コイツ)
(人、の形って事ぁ)
(かなり強ェな)
八峡義弥は厭穢を見る。
基本的に厭穢は人間に近しければ近しい程に。
その力を秘める様になる。
力の圧縮、と言うよりかは、起源へと戻る行為。
人間は神に近しいフォルムとしてこの世に授かった。
神とは超常の存在。厭穢は人間ではなく、神に近づこうとしているに過ぎない。
つまり、人間の形状こそが、厭穢の最終形態とも言えよう。
焦げた色の甲殻。
口元には鋭利な牙が生え揃い。
その背中には翅が生えている。
八峡義弥に向く事は無く。
まるで案山子の様に立ち尽くす。
「おいッ」
「何時まで空に浮かんでやがる」
「さっさと降りて来いやッ!」
八峡義弥は東院一に対して声を荒げた。
東院一は椅子に座る仕草をして、空で胡坐を掻くと。
「何故妾が」
「蟲如きと同じ土俵に立たねばならぬ」
「その理屈だと」
「八峡さんも蟲扱いしてんぞ!」
「良いから降りて来いやッ!」
そう叫ぶと同時。
厭穢が初期動作も無く。
丸太の様に太い脚部を、八峡義弥に向けて回し蹴る。
予期せぬ速度、八峡義弥の腹部に重き一撃が掛かろうとした最中。
「ッ―――」
ドクン、と、八峡義弥の心臓の音が高鳴る。
同時に、八峡義弥の意識は段々と加速していく。
認識出来る一秒を十分割に。
その十分割した一部を更に十分割に。
その行為を繰り返し、静止に近い時間を八峡義弥は認識する。
(コイツ)
(何の厭穢だ?)
(人の姿をしやがって)
(茶色いからゴキブリって所か?)
(あんな早い速度)
(飛蝗かゴキブリぐらいじゃねぇのか)
(クソ)
(間近で見るとマジで気持ち悪い)
(触りたくねぇな……はぁ)
そう思考する。
その間に八峡義弥の体には厭穢の脚部が砂粒程の距離を殺していく。
(何度も使えるワケじゃねぇ)
(これを覚えたのは最近だし……)
(死ぬ程火照るから)
(嫌なんだよ、クソが)
意識を加速させた八峡義弥。
しかしそれでは肉体は付いて行かない。
意識と肉体は別物であり、意識が早くとも、それに肉体が対応しきれない。
今にでも迫る厭穢の攻撃。例え解除しても八峡義弥は避け切れずに攻撃を受けてしまうだろう。
だから、八峡義弥は。
(70から85のペース)
心臓がどくん、どくん、と意識に付いていく。
思考を行えば行う程に、脳を活発にさせる為に血液が脳へと送られていく。
そうなれば、肉体は動かずとも、心臓だけは八峡義弥の思考に追いつく。
一秒は八峡義弥にとっては約六十秒の感覚。
心臓が鼓動を刻む。八峡義弥の意識に合わせて心臓が高鳴る。
それを秒間70~85のペースで行う。それが発動条件であった。
意識を解く。厭穢が攻撃を行う。
しかしそこに八峡義弥は居ない。
「か、はッ」
息を吐く。気分が悪そうに表情を青くさせる八峡義弥。
厭穢の背後に八峡義弥が居た。
それが、先程の攻撃を避けれた理由であった。
「〈縮地〉か」
「面白いものを使う」
傍目で見る東院は、八峡義弥の技術を看破するのだった。
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