金髪と最強と居ない狂人
「……んだよ」
八峡義弥はふと東院一のその目線が気になって言う。
東院一は八峡義弥の士柄武物を見て言った。
「貴様は」
「その矮小な士柄武物を扱うのだな」
と、八峡義弥はそれを聞いて首を横に傾ける。
「どういう意味だ?」
そう言うと東院一は八峡義弥の質問に答えた。
「女の貴様は」
「巨大な士柄武物を使っていたが……」
「貧弱な貴様には」
「それしか使えないと言う事か」
と、東院一は八峡義弥を煽る様に言った。
「一々ムカつくな」
「……で、女の俺が」
「……女の俺って可笑しいな」
「……えぇと、女の方の俺が」
「俺とは違う士柄武物」
「使ってるのか」
そう八峡義弥は言う。
八峡義弥は基本的に長物は使用しない。
理由は至極単純であり。
使いこなせないからだ。
槍や刀は、初心者が扱うには技量が足りない。
ただ振り回すだけならば、槍や刀は適任だろう。
少なくとも一般人ないしアスリートならばなんとかなるだろうが。
祓ヰ師、外化師、厭穢らには通用しない。
だから、八峡義弥は長物は使わない。
その代わり、比較的使用しやすいナイフを扱う。
理由は単純、扱いやすいからだ。
刃は短いがその分軽く力を籠めやすい。
小回りが利き、一度ナイフを振って元の構えに戻すまでそう時間が掛からない。
そして何よりも八峡義弥はナイフの扱いには長けていた。
それは、八峡義弥が常日頃からナイフを持っていた、ワケではない。
皮肉と言うべきか、癪と言うべきか。
八峡義弥には刃物の扱いに適した人物が居た。
決して八峡義弥にその扱い方を教える事は無かったが。
八峡義弥はその相手の動きを見ていた。
その動きを死を賭してまで覚えて、扱いに長けていった。
結果、八峡義弥は刃物を扱う事が得意になったのだ。
刃物の扱いに適した人物。
それは無論、贄波阿羅教師の事であり。
(あのオッサンが居たから)
(技量は十分に盗み取れた)
(けど……この世界の俺が)
(刃物の扱いに長けてない)
(だったとしたら……)
(もしかすりゃこの世界には)
(あのオッサンは居ないのかも知れねぇな)
と、八峡義弥は推測するのだった。
今まで贄波阿羅教師とは犬猿の仲ではあった。
相手はそうは思っていないかも知れないが。
少なくとも八峡義弥は贄波阿羅教師を嫌っていた。
しかし、今となっては。
あの教師が居たからこそ八峡義弥は生きる術を見出した。
(……いや)
(そこまでじゃねぇけどな)
そう八峡義弥は頭の中で否定するのだった。
が、恩義を感じる事は無いにせよ。
感謝くらいはしても良いと、思いつつあった。
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