金髪と最強と森林前


 そして八峡を乗せた車は、県を跨いで郊外の森林前へと運ばれる。

 真夜中の森林。涼しげな風が流れる中。その辺りには奇妙な静けさがあった。

 虫や鳥、獣と言ったものが棲む筈の森には、少なからず、生活の音が流れている。

 しかし、その森林には一切、生活と呼べる音は聞こえなかった。


 同時に、その森林には言葉では言い表せない気味悪さがある。

 八峡義弥は目を細める、車を下車すると、嫌そうな表情をして東院に行った。


「マジさぁ……」

「勘弁しろって……」


 森林前に迫ると、八峡はその場でしゃがんで頭を抑える。

 そんな八峡義弥に対して愉悦を感じ入る狂気があった。

 ニマニマと八峡の姿を見て嬉しそうにする東院一。

 八峡義弥は顔を上げてその憎たらしい顔に噛みつく様に吠える。


「普通さぁ」

「本当に連れてくるなんて」

「そんなバカいるか?」


 此方は嫌がっているのに、とそう八峡は東院を睨んで言う。

 東院はどうやら、そんな負の感情を撒き散らす八峡義弥が気に喰わないのか。


「何をぶつくさ言っている」

「気味の悪い奴め」


 東院はそんな八峡を見て心の底から嫌悪感を表す表情を浮かべた。

 そんな東院の表情を見て、八峡はため息混じりに呟く。


「…… 居たわ、ここに」

「どうしようもねェ馬鹿がここにひうゃふぁひあっ!!」


 そして吃驚な声を上げる八峡義弥。

 八峡義弥の足元が一気に崩壊していた。

 それは東院一が減滅術式を扱った証拠であった。


「ふ」


 八峡義弥が飛ぶ様を見て、先程の気味悪そうな表情は一気に愉快に変わる。


「ふはは!」

「貴様は面白いくらいに」

「良く跳ぶものだ!」

「どれ、もっと高く跳ばしてやろう!」


 ご機嫌な様子で八峡義弥の足元に減滅術式を放つ。

 八峡義弥の足元が円形状に削れていき、八峡義弥はタップダンスを踊るかの様に足を上げ下げした。


「やめっ」

「やめろやマジにッ!」

「このッ」

「クソ女がッ」


 そう叫ぶ八峡義弥。

 しかし東院一は止めようとはしない。

 結果、八峡義弥は東院一の玩具。

 いや道化として活動し続ける他なかった。


「はぁ……」

「クソッ」

「いや」

「もう分かった」

「覚悟決めるわ」

「クソがよぉ……」


 そう言って八峡義弥が嫌々と立ち上がる。

 頬を叩いて八峡義弥は懐から士柄武物を取り出した。

 護身用の士柄武物。名前など無いそれは、ただ厭穢を切る為に存在した道具であった。


「なんだ」

「貴様」

「それが武器か」


 東院は八峡義弥の護身用の士柄武物を見て言う。


「当たり前だろ」

「俺はこういう小さいのしか」

「使わないんだよ」


 と、八峡義弥は言って。

 東院は物珍しそうに眺めていた。


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