金髪と最強と羽交い絞め
「おい」
「離せよ」
八峡義弥は東院一の手から逃れようとする。
しかし東院は力を込めて八峡義弥の肩を強く握り締めると。
「面白い」
「来い」
と、八峡義弥を引き摺る東院は、黒塗りの高級車へと搭乗させようとする。
「ざけんなコラッ!」
「離せやボケッ」
「ふふ」
「貴様がそんなに慌てるなど」
「面白い、愉快だ」
「もっとその姿を」
「妾に見せるが良い」
「マジで勘弁しろって!」
八峡義弥はそう言った。
昔は別に蟲など嫌いでは無かったが。
元の世界で、ある女性との関わりによってトラウマとなっていた。
運転手である白スーツの結界師が黒塗りの高級車の扉を開く。
「ちょッ!」
「アンタもグルかッ!」
「あぁ!やめ、ッ止めろォッ!」
そうして八峡義弥は抵抗するが、東院一に羽交い絞めされて動く事が出来ずにそのまま扉が閉められた。
東院一が八峡義弥の体を拘束している。その際に彼女の胸と八峡義弥の背中が三つ着しつつあった。
(こいつッ)
(巻いてない?!)
狩衣を着込む彼女、東院一。
現代の代物を毛嫌いしている風潮がある彼女は、どうやら女性モノの下着を好んで着用する事は無いらしい。
八峡義弥は静かになる。唐突に口を閉ざす八峡義弥、抵抗もやめた為に東院一はつまらなさそうな表情を浮かべた。
「なんだ」
「もう終わりか」
と、そう興味を無くして八峡義弥から離れる。
八峡義弥は後部座席に座り直して東院一を見る。
相変わらずの残虐性ではあるが、それでも男の時とは比べて愛嬌がある。
童顔な彼女は黙っていれば美少女だ。
あと性格を隠せていればより美少女に近づく。
「……」
「なんだ」
「妾の顔を見て」
「気色悪い奴め」
相変わらずの暴言。
八峡義弥は途端にこの女が残念美人に思えて来た。
その性格と暴言さえどうにかなれば貰い手くらい居るだろう。
だから八峡義弥はふと考え付く様に口を開く。
「お前はクソだが」
「顔は良いよな」
八峡義弥は珍しくそう誉め言葉を口にする。
東院一はさも当然と言いたげに鼻を鳴らすと。
「ご機嫌取りか」
「貴様もつまらんものになったものだな」
「いいや」
「男の貴様は」
「精々そのくらいしか」
「脳の無い存在と言うわけか」
落胆する様に東院一が言う。
「顔は良いが」
「お前はクソだ」
言葉を繰り返す様に八峡義弥は言う。
その言葉に眉間にしわを寄せて東院が指先を天に向ける。
減滅術式の発動合図であった。
「まあ待て」
「無策でお前に噛み付く程」
「俺ァ脳無しじゃねぇぞ」
そう八峡義弥が言うと。
東院一は面白そうに指を引っ込めた。
「ほう」
「なら語るが良い」
「貴様を屠るのは」
「内容次第だ」
と、東院一は言うのだった。
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