金髪と最強と蟲嫌い
「んで」
「お前これから仕事か」
八峡義弥はそう聞いた。
東院一は八峡義弥を見ずに空を眺めている。
「おい」
「聞いてんのかよ」
そう言うと東院一は天を指差す。
八峡義弥はその指差した場所をふと見上げた。
其処には空があった、月があり、星があった。
それ以外には何もない。
何も無いが、東院一は言う。
「アレが妾だ」
そして今度は東院は八峡義弥を見る。
深紅の瞳が八峡義弥を見詰めている。
そして東院一は下を指差した。
その指に向けて八峡義弥は顔を向ける。
其処には地面があった。
石があり、汚れがあり、細かく言えば微かな塵があった。
「これが貴様だ」
「天と地の差」
「気安く話しかけるな」
八峡義弥はその言葉に青筋を浮かべる。
東院一の指差す通りに顔を動かした事が馬鹿らしくなった。
「あ?」
「お前さ」
「いくら背が低いからって」
「理想を持ち掛けちゃいかんよ」
「天を衝く程の身長も無ぇ癖によ」
八峡義弥は東院一を見下す。
そして自分の背丈と東院一の背丈を見比べる様に手で身長差を測る。
八峡義弥の身長は約百八十二㎝。
この世界の女性は元の男性よりも十センチ程低くなっている。
例えば永犬丸統志郎は元男性であれば身長は約百八十五㎝だったが。
現在、女性である永犬丸統志郎の身長は約百七十五㎝である。
基本的に十センチ低くなっているから。
東院一はただでさえ元の世界の男性であれば、身長は約百五十三㎝程であるのに対して。
此処に居る女性の東院一の身長は約百四十㎝程であった。
小学生レベルの身長である。
「好い加減にしろ貴様」
「妾を小さいと呼ぶな」
「はいはい」
「俺の質問に答えてくれりゃ」
「すぐにでも呼び方を止めてやるよ」
と、八峡義弥は交換条件を出す。
それに対して東院一は舌打ちをすると。
「厭穢を討伐だ」
「貴様には縁もゆかりもない話だろうに」
「ふぅん」
「で」
「何の厭穢?」
と八峡義弥は聞き返す。
厭穢にも種類は様々ある。
人間の恨みから誕生した厭穢。
人間に対する恨みを持つ自然が世界に訴える事で誕生する厭穢。
基本的に人間の負の感情から生まれる厭穢は弱いが。
自然から出来る厭穢は自然縁の力を持つ為に地力が違う。
八峡義弥の様な弱者である場合は、後者よりも前者の方が都合が良かった。
「虫の厭穢だ」
「そうか分かった」
「じゃあな、さらば」
八峡義弥は虫を聞いて即座に逃げようとした。
ただでさえ小さな虫でも気味が悪いと言うのに。
人サイズの虫など見たくもないのが八峡義弥の本心であった。
「待て」
「なんだ貴様」
「虫が苦手か?」
ふふふ、と笑みを浮かべる東院一。
その笑みは邪悪であった。
相手の嫌がる事を徹底的にしそうな表情であった。
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