金髪と最強と傲岸不遜

 首を絞められる八峡義弥。

 誰であるか口にしようとしても、喉が抑えられてその名前を口に出す事は出来なかった。


「ぐ、ぼべ」

「どヴぃ、なぎゃッ……」


 八峡義弥は今にでも意識を失いそうだった。

 何か喋っている。女はそれを感じ取ると八峡義弥の喉から指を引き剥がす。

 八峡義弥はそのまま地面に倒れ込んで深くせき込む。


「ぐはッ、はッ」

「かッ……ひ、ぃッ」

「はっ……はっ……ぁ」


 息を吸って吐く。

 呼吸を整えると八峡義弥は涙目になりながらその女を睨む。


「相ッぃ、変わら、はッ」

「……あっ、は」

「相変わらず」

「理不尽、じゃねぇか」

「クソ野郎……いや」

「東院ちゃんよォ」


 そう言うと、女はきひ、と笑う。


「その物言い」

「どうやら本当に貴様」

「八峡の様子だな」


 その女、狂気を宿す祓ヰ師は。

 確実に93期生の中では最強に属し。

 恐らくは、学園最強にも値すると噂された祓ヰ師。

 名を東院といながらく

 減滅術式、あらゆる事象や物質を消滅させる虚を作る祓ヰ師だ。


「貴様の苦痛に歪む表情は」

「物凄く不愉快であるぞ」


 その傲岸不遜さ。しかし言い返すには度胸と覚悟が必要となる。

 あらゆる常識を文字通り覆す東院一と言う存在は、如何なる人物であろうとも強縮して恐縮し、反抗する者は実力を見せつけられて萎縮して畏縮する。


 口答えすら許されない。それが東院一と言う絶対主義者なのだが。


「誰が不愉快にさせたと思ってんだ」

「殺すぞチビ野郎」


 八峡義弥はそんな事おくびもせずに言い返す。

 東院一は眉を顰めて八峡義弥に近づくと。


「貴様」

「このわれをチビと言ったか?」


 鋭い眼光が八峡義弥を射殺す。

 八峡義弥は両手を挙げて反抗する意志はないと告げながら。


「悪い」

「訂正するわ」

「チビ野郎じゃなかったな」

「チビ女だったわ」


 直後八峡義弥の頭部にひりつく感覚があった。

 それは八峡義弥の危機察知能力であり。

 八峡義弥は即座に屈むと風が裂ける音が響く。


「うおッ」

「危ねぇな」


 回避してそう言うのだった。


「黙れ下郎」

「妾をチビ呼ばわりするでないわ」

「次言えばその首を刎ねてやる」


「出来ない癖に言うなよ」

「東院ちゃんよぉ」


 完全に舐め腐った態度で八峡義弥はヘラヘラと言うのだった。


「その態度」

「次に妾の前で行うのならば」

「その命無いと思え」


「おぉ」

「そりゃ慈悲深い」

「じゃあ次は無礼の無い様に」

「申し訳ありませんでした東院様」

「どうしようも無い事実ではありますが」

「貴方のお背丈がドチビで御座いまふはふぁあッ」


 地面が抉れた。

 八峡義弥は驚いてその場を飛び跳ねるのだった。

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