夢と呪いとクズ
あさがお寮に戻って来た八峡義弥。
お使いの材料を祝子川夜々に渡して部屋に戻る。
今日は色々な事があったが、本当に疲れた。
八峡義弥は適当に床に転がって目を瞑る。
(明日)
(クレカ届くかね)
早く新しいベッドが欲しい所であった。
八峡義弥はそんな事を考えながら。
目を瞑っていたら、段々と眠気が訪れて来た為に。
それに準じて八峡義弥は眠りに落ちたのだった。
ぐるぐる、と。
意識が落ちていく。
夢の中は何時も暗い。
最近は呪いの様な夢しか見ない。
其処に立つ自分が見殺しにした人物が睨んでいる。
何かをしろと告げているが、八峡義弥はそれが何なのか分からない。
何度も何度も、怨嗟の声が響く。
八峡義弥はそれを受けて、しかし動じる事は無い。
「懐かしいね」
「そういや俺は」
「この呪いが怖かったっけか」
怖い、いや、厳密に言えば。
この呪いを受けている間が地獄の様な日々であった。
八峡義弥の眠りを妨げる負の感情、それが圧となって八峡義弥の心臓に圧し掛かった日を跨ぐにつれてその重みは段々と重くなり、やがて八峡義弥はその重みに苛まれていく。
一時はどうか許して欲しいと願う程に、八峡義弥はその呪いを恐れた。
だが今となっては違う。
祓ヰ師としての仕事を熟して、呪い以上に怖いものがあるのだと分かった時。
八峡義弥はその呪いを恐れる事は無くなった。
こんなのはただの幻覚痛、実際に自らの体が死傷しているワケではない。
ただの呪いの言葉は自分を責めるだけのもの。
その呪いは自分を卑下して、自分と言う価値を落とす為のもの。
昔は自分の価値を見出せなかった八峡義弥はこの呪いに心底悩み果てたが。
しかし今は違うのだ、何故ならば八峡義弥は価値を得た。
もう誰も、八峡義弥を無価値と呼ぶ者は居ないだろう。
だから、こんな呪い、悪夢を見た所で、八峡義弥が苦痛に歪む事は無い。
「見殺しにしたのは」
「悪いと思ってますが」
「……俺は俺以上に」
「大事な物を見つけたんすよ」
「なんですんません」
「此処で消えて下さい」
そう言うと、八峡義弥は握り拳を作る。
その夢の呪いを、八峡義弥は思い切り殴った。
そこで夢は消えた。呪いは薄れて四散した。
怨嗟の声は聞こえない。
涼やかな無の音だけが耳に残る。
「つまんねぇ夢だわ」
「まったく」
「たまんねぇな」
そう言って八峡義弥はただ夢の中で待つ。
その夢が終わるのを、自分自身が覚めるのを待つ。
やがて意識が薄れて、八峡義弥はこの夢が終わるのだと感じると。
その夢は消えて、八峡義弥は夢から帰還するのだった。
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