メイドと金髪と個室
「おいおい」
「結構ヤバイんじゃねぇのか?」
八峡義弥がそう言って敷居を跨ぐ。
とことこと歩き出す辰喰蔵人。
前を向いたまま八峡義弥の言葉に疑問符を浮かべた。
「一体何が」
「やばいと言うのだ?」
その言葉に八峡義弥は口を開き。
出掛かった言葉を飲み込んだ。
(……危ねぇ)
(病気で頭がイッた)
(なんて)
(死んでも言えねぇ)
不謹慎ではあるが。
確かに、元来の辰喰蔵人ではありえない事だった。
誰かを自分の家へと招く事など。
本来辰喰蔵人は姉一筋。
姉以外の何物もいらず。姉のみを愛する姉狂いでしかない。
他人に興味は無く、俯瞰し見下してすらいる。
それが例え同期の仲間であろうとも、その態度が変わる事は無い。
だが、一体どういう風の吹き回しなのか。
辰喰蔵人は八峡義弥を部屋に入れている。
不思議な事であった。不可思議であり、摩訶不思議である。
「おい」
「一体」
「何がやばいと言うのだ?」
と、再度聞いてくる辰喰蔵人。
八峡義弥は口を開いて適当な言葉を口にする。
「あのな」
「女が男を家に招くってのは」
「普通は」
「そういうお誘いなんだよ」
と、八峡義弥は濁して言った。
その言葉を聞いて辰喰蔵人は、あぁとだけ相槌を打って。
「なんだ」
「貴様」
「私とそう言う関係を」
「期待しているのか?」
と、聞いてくる。
八峡義弥はまさしく耳を疑った。
あの辰喰蔵人が冗談を言うなど、決してありえない。
だが、しかし。
辰喰蔵人が唐突にギャグセンスを磨こうとした可能性もある。
いや、限りなく低い可能性ではあるが。
それでも、八峡義弥はそのギャグに応えなければならない。
そんな使命感が抱いた。
そして何時もの様に、八峡義弥は口を開いて軽口を叩く。
「あ?」
「そうだな」
「お前は美人だからな」
「俺は男だし」
「そういう展開になれば良いなんて」
「思ってるぜ?」
と、そう言った最中。
辰喰蔵人は足を止めた。
そして少し八峡義弥に顔を向けて。
「そう、か」
と、意味深な事を言う。
そしてそのまま、再び歩き出した。
「え、あ……ちょ」
(冗談、だよな)
(冗談を冗談で返したんだよな?)
(なら俺が笑い飛ばすべきか?)
(いやでも、なんだこの雰囲気)
(笑い辛ェ……)
(つか帰りてぇ……)
切に願う八峡義弥。
辰喰蔵人は八峡義弥を連れて屋敷に案内すると。
そのまま個室へと通される。
なんんでもない、其処は客室だった。
辰喰蔵人は座布団を敷いて八峡義弥に指差すと。
「其処に座って待っていろ」
「今、茶を出そう」
と、だけ言って辰喰蔵人が出て行く。
八峡義弥は一人残された所で。
(……帰りてぇ)
個室の中、一人そう呟くのだった。
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