誰得おまけ「ニッチだと思うから本編にしない戦闘のその後」

 戦闘が終了して八峡義弥は倒れる。

 もう猪膝灯丸が立ち上がる事は無い。

 敵は排除した、だから八峡義弥は安堵と共に気を抜く。


 それと同時に、痛みを紛らわす為に無理に引き上げたテンションが下がっていく。

 そうなれば、後は地獄の始まりだった。


「あぁああチクショウッ痛いぇあ!」

「焼けるッあああああッ、焼けぇあッ」


 八峡義弥は叫ぶ、先の炎の亡骸に抱き着かれた際、火を押し付けられた。

 その部分の服は燃えて皮膚が焼けた。火傷の痕があれば水膨れがあり、焼け爛れが出来ていれば皮膚が焼け焦げている部位もある。


 八峡義弥は背中に地面を付けた。

 転げ回りたい程の痛みだが、火傷部分に触れると気を失う位に痛みを発する。

 だから八峡義弥はその場に留まりながらも喚き続けた。


「落ち着きなさい八峡ッ」

「体は既に焼けているからッ」


 贄波璃々は見当違いな事を言う。

 冗談にも聞こえるそれは、しかし八峡義弥には通用せず。


「ペッ、かはッ」


 八峡義弥は自らの手を口に近づけて唾液を吐いた。

 それを首筋に塗りたくる。火傷の痛みを和らげようとしているらしい。


「クソッ、熱ェクソッあぁ!!」

「ヒリヒリしやがッ、がッ、いひぃ!!」


 必死になって唾液を出す。だが八峡義弥から分泌される唾液量は少なく、全ての部位に唾液を塗る事は敵わない。


「足りねぇッ、俺のじゃッ、クソッ!」


 八峡義弥は痛みで顔を歪ませて、うっすらと涙を零しながら、贄波璃々を見た。

 そして、ダメ元で八峡義弥は贄波璃々に頼み込む。


「頼むお嬢、ツバァ付けてくれッ」


「は?!」


 当然、贄波璃々は驚愕した。

 自らの唾液を付けて欲しいと懇願しているのだ。


「痛ェ、痛ェんだ、クソッ体中ッ」

「俺んく、口ん中、渇いて」

「あぁああぁ、痛ェ、クソがッ、はっ!」


 八峡義弥は痛みに悶えて苦しみ叫ぶ。

 喉が張り裂ける程に荒げて、ガラガラになった声で再び贄波璃々に願う。


「たす、たすけて、たすけれ、」

「あぁ、ひ、ひっ!」


 痛みに涙を零す。

 その痛々しい表情に贄波璃々は半ば自棄になった状態で。


「あぁもうっ!」

「うで出してッ!」


 と、八峡義弥の腕を掴んだ。

 舌先で頬の内側や歯茎の裏を舐めて唾液を分泌。

 唾液たっぷりな舌先で、八峡義弥の腕に唾液を付着させていく。


「あむ、はむ……ぇろっ」


 彼女の舌先に八峡義弥は悶えた。

 傷口に塩を塗り込む様な痛み。


「はっ、あっ、痛ェ、あっ、あっ!」


「はふぃひょうふ?ひゃはい」


 贄波璃々は八峡義弥の腕を舐めながら心配して言う。

 八峡義弥は腕を上げた。そして自分で彼女が舐めた場所を舐め出す。


「うで、うでぁ良いッ」

「腹っ」

「はらァ頼む、服ァ擦れて」

「痛ェ、ぎひっ」

「ふッ、ふーッ、あぐッ」


 唾液の届かない場所、腹部を舐めて欲しいと願う。

 唾液を掌に付ければなんとか塗れなくもないが。

 唾液が渇き、掌の摩擦で火傷を刺激するのが恐ろしかった。


「お腹っ?」

「え、えぇ分かったわっ」


 贄波璃々は八峡義弥の言う通りに、今度は腹部を舐め出す。


「れろっ、はむ、ちゅ……」


「しっ、ひっ、いッ、ぎひッ」


 痛みに悶える八峡義弥。

 しかし、璃々は舌を動かす加減を覚えたのか、優しく八峡義弥の傷を唾液で包み込む。


「ふ、あ、はっ……あぁ」


 八峡義弥は痛みが和らぐ度に、安堵の息を漏らした。


「ん、どふぉ?やふぁい」


 贄波璃々が八峡義弥を見た。

 腹部に舌を這わせて、八峡の顔を伺う為に上目遣いになる。


「あぁ……和らいできた」

「ッ、けどまだッ」

「まだ、痛ェ」

「もっと舐めてくれ」

「もっと……頼む……」


 そう懇願して、贄波璃々が必死に舌を動かす。

 その最中であった。


「何をしてるんだ?」


 背後から、敵を倒した遠賀秀翼が二人の光景を見ていた。

 遠賀秀翼から見れば、八峡の背中があり、彼女が四つん這いになって必死に頭を動かしている。

 それはまるで。


「おいおい」

「幽世の中で前戯かよ」

「ロック過ぎやしねぇか?」


 前戯。その言葉を聞いて贄波璃々は顔を上げると、八峡義弥の胸板に手を置いて押した。


「ばっ?!」

「何言ってるの!?」

「治療よ治療!」


 贄波璃々は慌ただしくそう訂正した。

 しかしそれが逆に怪しく見える。


「治療と言う名の」

「プレイか?」


「どうしたらそうなるのよ!!」


 顔を真っ赤にして贄波璃々が叫ぶ。

 恥ずかしさで頭から湯気が出そうだった。


「ほらッ!」

「八峡も」

「違うと言いなさい!!」


 贄波璃々は倒れた八峡義弥に視線を向ける。

 しかし八峡義弥に反応は無い。


「……八峡?」


 八峡義弥は白目を剥いていた。

 先程の突き倒す一撃が、火傷に刺激して痛みの許容量を越えさせたのだ。


「ちょっ」

「嘘でしょう!?」

「八峡、やかいー!!」


 贄波璃々は叫んだ。

 先の一撃で八峡義弥が死んだと勘違いしたのだ。

 そして、八峡義弥を連れて幽世を抜けて。

 そのまま学園の医療施設へと運ばれる。

 次の日、八峡義弥は退院するのだった。



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