第二十三話 全滅
「ソノコッ!」
贄波璃々がそう叫ぶ。
その已祟、〈鬼哭剣禅豪王〉を叩き潰す為に、獣の様な俊敏さを見せる〈ソノコ〉が立ち向かう。
「ダヴェルノォオオ!!」
声を荒げて向かう〈ソノコ〉。
〈鬼哭剣禅豪王〉は太刀を振り、〈ソノコ〉の体を切り裂くが。
「イダイィイイイイ!!」
それでも〈ソノコ〉の体には掠り傷程度しか傷つける事は出来ず、その傷も贄波璃々が贈る神胤によって再生されていく。
(おいおい)
(なんだよそりゃ)
(規格外にも程がある)
猪膝灯丸がそう思った。その直後に石鎌が猪膝に向けて振られる。
八峡義弥は休まず攻めを続けていた。
それを後退して回避すると同時に猪膝灯丸は術式が書かれた紙を投げる。
炎の亡骸が実体化され、三体が八峡義弥に向けて走っていく。
「ォラァ!!」
八峡義弥が握り締める匕首の士柄武物で切り裂き、石鎌で切り殺す。
一体を殺した所で残る二体が八峡義弥の体を包み込んだ。
「ぎ、」
「あぁああああああ!」
「あああああああ!ッつうぅうぅううううっ!!」
炎の亡骸に抱き締められた事で、八峡義弥の体が燃え盛る。
「八峡ッ!」
贄波璃々が叫んだ。その声に釣られて〈ソノコ〉も一瞬だけ動きを止める。
「し、ねやゴラァ!!」
左腕に神胤を循環させる、瞬間的に肉体強化された左腕で燃え盛る炎の亡骸、その頭部を握り潰す。
そしてもう一人、抱き締めている炎の亡骸、その頭部を握り拳で三度殴り付けた所で炎の亡骸を無理やり引き剥がす。
「て、ぇ、痛ェ」
「やべぇ、ま、やッ、く、そがッ!」
「あぁクソがァ!!」
八峡義弥は肉体に火傷を作りながらも、奥歯を噛み締めて痛みを我慢。
士柄武物・石鎌を握り締めて、猪膝へと向かって行く。
「八峡」
「下がりなさい!」
「私がやるから!!」
贄波璃々が八峡義弥に意識を向けている時。
「イダァアアアアアア!!」
〈ソノコ〉が叫んだ。
贄波璃々が〈ソノコ〉に顔を向けると、〈鬼哭剣禅豪王〉が、〈ソノコ〉の左腕を切断していた。
「くっ」
「問題ないわ」
「けれど」
「良くも」
「私の可愛い」
「〈ソノコ〉を!!」
贄波璃々は神胤を大量に送る。
それだけでソノコの肉体が修復、三秒程で傷が全快した。
(ありえねぇって!)
(やべえやべえ!)
(こいつらやべぇ!!)
猪膝灯丸は慌てだした。
己よりも五つ歳が低い祓ヰ師。
自分は五年程先に祓ヰ師の技術を積んで来た。
だから、五年も違う技術の差がある筈だ。
だが。
「熱烈なハグしやがってよぉ!!」
「上等だオラ!」
「テメエの顔面に熱いキスしてやらァ!」
「但しその頃にゃあよぉ!」
「テメエは蒼褪めた死体になってるけどなぁ!!」
「キケケ!」
「ギャヒャヒャヒャヒャ!!」
(こっちはこっちでやべえ!)
(なんだよその悪役が吐きそうなセリフは!)
(来春先生早く来いって!)
(マジでマジで!!)
猪膝灯丸の願いは叶う事は無い。
遠賀秀翼と来春広葉の戦い。
それは既に決着が付いている。
「どうだ?」
「俺のとっておきは」
「対策出来たか?」
人造天魔である兵劔試號が来春広葉の肉体を貫いている。
機械の体が蠢き、包帯の先から人形の顔が覗いていた。
「……実に」
「良い
「これで」
「対封魔刀用の
「思わぬ収穫だ」
「……解せんなぁ」
「もうじき殺すが」
「何処にそんな余裕がある?」
遠賀秀翼が聞く。
来春広葉は初めて感情を剥き出しにするように。
「私が死んでも」
「私が居る」
「今の私は」
「存在する私の」
「一部でしかない」
「私は」
「私では無い」
「私は」
「私でしかない」
「……つまり」
「他にも代わりが居る」
「そう言いたいのだろう」
「ならば」
「名乗らせてもらおう」
遠賀秀翼はそう言った。
彼の考える限り、来春広葉は一人ではない。
この来春広葉が死亡しても、他に来春広葉が存在する。
だから名乗る。再び、来春広葉と出会う為に。
縁を作り上げる。
「遠賀家次期当主」
「鬼陰流媒介術式を継承せし者」
「遠賀秀翼」
「何れ全てを殺す」
「俺の已祟を破壊した罪は重いぞ?」
それを聞かされた来春広葉は、カッカと体を動かした。
どうやらそれは笑っているらしい。
「良いだろう」
「覚えておく」
「遠賀秀翼」
「また逢おう」
「それでは」
「去らばだ」
カチリ、と。
来春広葉の肉体から音が聞こえた。
遠賀秀翼は慌てる事無く。
兵劔試號を操作してその機械の体を投げた。
そして、投げた先に当たる直前に、来春広葉は爆破した。
肉体には、爆弾が仕掛けられていたらしい。
「……アミーゴ」
「戻ろう」
遠賀秀翼は、封魔刀を仕舞い、能力を解除する。
そして、八峡義弥たちの元へ戻るのだった。
そうした理由で、来春広葉は撃破された。
だから、猪膝灯丸が希っても来る事は無い。
その代わり、狂気に達した八峡義弥が迫り来る。
「来春先生早くしてくれッ」
「来春先生ッ!」
猪膝灯丸は懐から護身用の士柄武物を取り出す。
この距離で媒介物を使っても意味が無いと悟ったのだろう。
あるいは、もう媒介物が無いのか。
どちらにしても、八峡義弥と直接戦闘するほか無かったが。
「ヤッダナァアアアア!」
回復した〈ソノコ〉が叫ぶ。
鬼哭剣禅豪王の両腕を掴み、力を込めて、〈ソノコ〉が切断された腕と同じ様に、鬼哭剣禅豪王の左腕を引き千切った。
「食べても良いわ」
「〈ソノコ〉」
「思う存分に」
贄波璃々は言った。
〈ソノコ〉は喜び、口を開いて乱杭歯を見せつけると、鬼哭剣禅豪王の頭部を覆い、食らいつく。
「あ」
と猪膝灯丸が言った。
その隙に八峡義弥が石鎌で首を裂く。
血が噴き出して、猪膝は自らの首に手を当てる。
「ば、がばぶぁ」
「ぎひゃははひゃ!」
「何言ってんのか分かんねぇよォ!」
八峡義弥は匕首を猪膝に向ける。
最後の抵抗として猪膝は士柄武物を振り回すが。
その手は遅く、八峡義弥は簡単にその攻撃を捌くと。
腹部に三度、匕首を通らせた。
「はっはぁ」
「いゃアダメだダメだァ!」
「キスしようと思ったけどよォ!」
「趣味じゃねぇや!」
「ギィーッヒャッヒャッヒャ!!」
その言葉を最後に、猪膝灯丸は地面に転がる。
これで外化師は、全て、全滅した。
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