第二十二話 封魔
遠賀秀翼の表情を見たのだろうか。
来春広葉は包帯で覆われた顔を遠賀秀翼に向ける。
「何故?」
「そう問いたい様子だろう」
「事実を述べるとすれば」
「幽霊は私には通用しない」
「……と言うよりかは」
「私は、全ての系統術式に対応出来る」
「この絡繰機巧に弱点は無い」
と、そう言った。
先程の稲妻は、対幽霊戦に用意されたものらしい。
何故、一瞬で破壊されたのかは、来春広葉は伏せる。
だが遠賀秀翼は、何故一瞬で壊されたのか、その原因を思い浮かべた。
もしも、已祟が一瞬で斃される、または炸裂、または媒介物が破壊される。
実際に起きた事件や前例、過去の媒介術式が起こした失敗を即座に並べて答えを模索し、そして辿り通く。
「……成程」
「先程の稲妻は」
「生気か」
遠賀秀翼はそう来春広葉の能力を見破る。
それは、遠賀秀翼の握り締める折れた刀身が砕けた故だった。
(媒介術式)
(これに弱点があるとすれば)
(急激な生気の吸収による自壊)
(生気は、吸収した後)
(活動する為に貯蓄しなければならない)
(だが、已祟には貯蓄する器が無い)
(だからこそ、媒介術式は)
(已祟が生気を溜め込む器が必要になる)
(それが媒介物)
(已祟を育成する場合)
(やってはならない事)
(それは生気を十分に与える事だ)
(一気に生気を与えてしまえば)
(許容量を超えて媒介物が先に壊れてしまう)
(已祟を強化する場合は)
(少しずつ生気を与えて許容量を増やし)
(慣れてくればまた量を増やしていく必要がある)
(つまり)
(あの稲妻は許容量を超える程に生気が充満していた)
(それを喰らってしまったがゆえに)
(キャパオーバーで自壊した)
(と言うわけだろう)
(バッテリーを過充電して破裂する様なものだ)
そう理由を付けて納得して、砕けた刀を捨てる。
「先程の」
「お前の言葉を信じるのならば」
「どの已祟を使用しても」
「同じ様なもの」
「と、言うワケか」
(しかしそれはブラフの可能性がある)
(先程の已祟は)
(怨霊を喰らい満腹状態だった)
(先程の戦闘で使った羅宇童子を出すか)
(アレは先の戦いで)
(半分以上生気を失っている)
(が…それでも)
(破壊されてしまえば)
(俺の駒が消える)
(それは避けたい)
(童子を出すのは却下)
(ならば)
(奥の手)
「の」
「一つ手前を使うとしよう」
遠賀秀翼はそう言うと同時。
背中に手を回して、其処から包帯を巻かれた代物を取り出す。
十五㎝程の、定規の様な物。
「媒介物か?」
「
「これは武器だ」
するすると、その包帯を解いていく。
すると、其処には定規の様な短いモノは無く。
段々と、遠賀秀翼の下半身程の大きさになっていく。
その包帯は士柄武物であり、覆うものの面積を阻める特性を持つ。
そして、その包帯から出てきたのは、一振りの太刀だった。
「士柄武物か」
「しかし」
「対策は出来ている」
来春広葉はそう言って、腕の一本を伸ばす。
その腕は大槌だった、どうやら士柄武物特化であるらしい。
「
「と」
「言った筈だが?」
「
こめかみを指先で突き、そう言うと。
更に遠賀秀翼は、ショルダーから掌で覆える程の木箱を取り出す。
それは、来春広葉は見た事があるものだった。
何処で見たか、頭の中で模索して、答えを出す。
「臍帯箱か」
それは、臍の緒を入れる容器である。
遠賀秀翼は口笛を吹いて正解と言うと。
「
と、言って退けた。
遠賀秀翼は媒介術式による憑依術を行う。
臍帯箱を媒介にして入れた幽霊を、自らの肉体に移す行動に出た。
(幽霊を憑依?)
(幽霊は効かないと説明した筈)
(何の意味がある)
と来春広葉は心の内で喋る。
遠賀秀翼は止まる事無く、憑依術を行い続ける。
「〈
「〈
「〈
「〈
「〈
その口上は、来春広葉は知っていた。
嘗て昔、この地に天魔が蔓延っていた時代。
それら天魔を討伐する為に幕末の頃に結成されたある組織。
「それは」
「封魔拔刀隊か」
「成程、ならば、それは」
そして遠賀秀翼に、封魔拔刀隊のとある隊士が憑依されると。
先程包帯に包んだ一振りの太刀を握り締める。
「―――封魔刀かッ」
ニヤリ、と笑う遠賀秀翼。
その劔は、隊士以外の人間が使用する事が出来ない。
「〈
「〈
隊士の。
隊士による。
隊士の為の。
人造天魔が封印された封魔刀。
「
その
「〈
人造天魔試作機剣・兵劔試號。
それを、遠賀秀翼は扱う。
その体には、嘗ての兵士の魂が眠る故に。
「系統術式」
「それらに対策をと言ったな?」
「ならば封魔刀はどうだ?」
「対策をしているか?」
「していたとしても」
「関係無いがな」
遠賀秀翼は刀を構える。
刀身から出て来る兵劔試號。
硬き甲冑に身を纏い、天魔の肉片で人型に作られたそれは、嘗ての時代・禁忌条約が設けられなかった無秩序による残虐非道な実験の成果であった。
「これを使う封魔師は」
「中々居ないだろう?」
「俺のとっておきだ」
「存分に味わうと良い」
遠賀秀翼は笑みを浮かべる。
そして、刀を握り締めて、来春広葉に立ち向かうのだった。
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