誰得おまけ「第九話のその後」


 思川百合千代、葦北静月、贄波璃々。

 この三人は友人関係にあった。


「話を戻すけれど」

「今度の日曜日で良いのかしら」


 贄波璃々は髪を掻き揚げて言った。

 葦北静月を慰めた後。

 三十分ぐらい談笑をして漸く解散する最中に贄波璃々が話をぶり返した。


「うん」

「その日なら」

「私、空いてるから」


 今度の日曜日、その日は葦北静月の新しい服を買う予定だった。

 友人三人でのショッピング。

 祓ヰ師にしては珍しい友好関係だろう。


「僕も新しい服」

「買っておこうかな」


「そうね」

「私も」

「靴でも見ようかと思ってたの」


「色々と見て回ろうと思うけど」

「食事とかする時って」

「荷物、嵩張っちゃうよね」


 あはは、と笑う葦北。

 思川百合千代はそれに同意するが。


「あら」

「私は別に」

「界守が居るもの」


 界守綴。

 贄波璃々に仕える下ネタ大好きメイド。

 基本的に彼女が贄波璃々のブランド品を持つ係をする。


「あー」

「そっかそっか」

「じゃあその日」

「界守さん来るの?」


 葦北が贄波璃々に伺う。


「そうね」

「荷物を運ぶ係だから」

「勿論、呼ぶけれど」


「いいなー」

「私も絡繰機巧遣おうかな?」


 葦北静月は後ろで待機している絡繰機巧に目を向ける。

 鋼の巨体、それが荷物を運ぶのには少し目立ち過ぎる。


「別に」

「貴方たちの分も」

「持たせる様にしておくけど」


「いやいや」

「そんなのは悪いよ」

「でも」

「荷物が嵩張るのは少しね」


 思川百合千代は苦笑する。


「あ」

「ならさ」

「荷物持ち雇おうよ」


 と、葦北静月が提案する。


「荷物持ち……と言うと」


 思川百合千代は一人の人物を思い浮かべた。


「……八峡を呼ぶの?」


 贄波璃々は言う。

 時々八峡義弥を荷物持ちとして雇う事が多々あった。

 それは三人とも経験しており、全会一致で八峡義弥の顔を思い浮かべたのだ。


「あれを呼ぶの?」

「危険よ、襲われてしまうわ」


「うーん、そうだね」

「八峡、性豪らしいし」


「二人とも酷くない?」

「あー、でも」

「いやらしい目で見て来るの」

「ちょっと恥ずかしいね」


 先程の八峡義弥が女性の胸をガン見する話によって評価は下がっていた。

 皆、一度八峡義弥に一言言わなければ気が済まない程にであるが。


(……私も酔狂ね)

(そんな八峡でも)

(気になってしまうもの)


(八峡はえっちだし)

(皆嫌ってそうだよね)

(私は……好きだけど)


(まあ二人は)

(八峡の良さを知らないから)

(そう言えるかも知れないけどね)


 ……三人は友人である。

 しかし共通して、三人は八峡義弥に好意を抱いている。

 つまり、この三人は、八峡義弥を取り合う恋敵なのだが。


「……まあ」

「八峡に会ったら」

「荷物持ちを言い渡しておくわ」

「きちんと」

「胸を見た事に対して追及するけれど」


「そうだね」

「人間として最低だけど」

「まあ荷物持ちをするのなら」

「許してあげてもいいけどね」


「それじゃあ」

「予定はそんな感じで」

「璃々ちゃん」

「これからお仕事でしょ?」

「頑張ってね!」


 そうして、葦北静月と思川百合千代と、贄波璃々は別れるのだった。


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