第二十話 破壊
「テメエどっから入って来た」
(外化師っつったな今)
外化師。
禁忌条約による協会の同盟を行わなかった祓ヰ師の事を、関係者は外化師と呼ぶ。
禁忌条約が生まれる前まで、祓ヰ師は非人道的な行為を行い続けていた。
人体実験や厭穢を使った実験。非道な行為、残虐な行為を繰り返した。
それを止める為に禁忌条約が作られた、これを守らぬ者は以後外化師と選定され、咒界における討伐対象になる。
数多くの同盟を行う祓ヰ師は居たが、時代の流れ、その変化を受け入れられず自ら外化師に落ちた者も居る。
「言ったね」
「うん」
(まさかとは思ったけど)
(祓ヰ師が来るとはね)
(折角の工房が台無しだ)
猪膝灯丸は心の内で舌打ちをした。
此処は彼の隠れ家であった。外化師が幽世に棲む事は別段珍しい事でもない。
(地面が揺れてる)
(つまりは)
(壊れかけてる)
(目の前の二人)
(核を壊した奴)
(最低でも三人居る)
(面倒だね)
(来春先生の方は……大丈夫か)
猪膝はそう思考を張り巡らせて。
(まずは出口の確保)
(それが第一だ)
(祓ヰ師の目的は)
(まあ、当然ながら)
(幽世の破壊)
(その目的が達成された以上は)
(争う必要は無い)
(そう考えるべきだろうけども)
猪膝は懐から紙を一枚取り出す。
そして、猪膝は笑みを浮かべて二人に問うた。
「あのさぁ」
「一応確認だけど」
「已祟の討伐で来たんでしょ?」
「なら俺たちは討伐内容に入ってないからさ」
「一先ず、一緒に外に出ない?」
と、そう提案した。
八峡義弥は少し考えて。
「お嬢」
と、贄波璃々に回答権を託した。
こういった祓ヰ師と外化師の事情は。
まだ祓ヰ師になりたての八峡義弥には分からない事だ。
だから、生まれた時から祓ヰ師である贄波璃々の方が経験が豊富。
その回答を託すと、贄波璃々は口を開いて。
「冗談でしょう?」
「見逃したら」
「祓ヰ師の名折れよ」
「それに」
「例え共同したとして」
「貴方」
「口封じの為に私たちを殺すでしょうに」
と、贄波璃々は理知的に答える。
その回答を聞いた猪膝は「それもそうか」と苦笑交じりに笑うと。
「なら」
「俺は外化師らしく」
「あんたらは」
「祓ヰ師らしく」
「殺し合うしか無いじゃんか」
その言葉を最後に。
外化師・猪膝灯丸は千円札の様な白い紙を投げつける。
その紙には紋様が描かれていた。怨霊を縛り付ける咒が施されている。
投げ付けられた紙には事前に神胤が宿っている。
恐らくは、既に神胤を流し、猪膝の手から離れる事で怨霊が具現化するのだろう。
その怨霊はこの空間内に滞在する炎の亡骸であった。
しかしその怨霊の歩行速度は先程の怨霊とは違う。
少なからず外化師に飼われていたのだから多少なりの育成でもされていたのだろう。
「俺が行くッ」
八峡義弥が叫ぶと同時に士柄武物・隻蘇で迫る炎の亡骸を切り付ける。
先程投げ付けた紙は全部で五枚。そして出現する炎の亡骸は五体居る。
「八峡」
「邪魔ッ」
八峡義弥が一体殺した所で、贄波璃々はそう叫んだ。
その言葉は八峡義弥に怒りを抱かせたが、しかし残り四体の炎の亡骸、その移動速度では八峡義弥が斬るより早く囲まれてしまうだろう。
通路が狭い為に、八峡義弥が前に居ては、〈ソノコ〉の巻き添えを喰らう可能性があった。
「クソッ」
「……あ?」
八峡義弥が仕方なく下がろうとした時。
猪膝灯丸が更に一枚、紙を取り出して呪文を口にしている。
「釈下天門招界道抜閂―――」
その言葉は聞き慣れた呪文だった。
八峡義弥は一度離れようとした足を踏み締めて、思い切り加速する。
そして炎の亡骸の上に飛び、肩を蹴って猪膝灯丸に接近した。
「八峡ッ!?」
予想外の行動に贄波璃々は八峡義弥の名を叫ぶ。
だが、もう進んでしまった以上は仕方が無かった。
「ソノコッ!」
贄波璃々が叫ぶ。
「オネエヂャァァァアア!!」
ソノコが叫びながら突き進む。
八峡義弥は猪膝灯丸を止める為に隻蘇を構えて、突きを繰り出そうとするが。
「臨禪―――」
「―――〈
猪膝灯丸は、紙に莫大な神胤を注入させて已祟を出現させる。
神胤によって構築されるのは、人型の已祟。
着物姿に、枯れ果て骨と皮だけになった、木乃伊の剣士。
肩に担ぐ一振りの太刀は刃毀れしている。
気怠そうに太刀を構えると。
「ッ」
腹部に感じる視線。
それは已祟が放つ殺気。
八峡義弥は贄波阿羅との訓練で培った危機察知能力によって。
咄嗟の行動を取る事が出来た。
秒を跨ぐ事無く、強い衝撃が隻蘇を砕いた。
「がッ」
隻蘇の刀身、その破片が舞う。
八峡義弥は勢い良く地面に衝突する。
八峡義弥は即座に態勢を立て直す。
先程の一撃。八峡義弥の腕は痺れている。
恐らく、士柄武物・抉旋よりも強い衝撃。
(一振りでこれかッ!)
八峡義弥は剣豪の已祟を見てそう思った。
先程の炸裂は、あの剣豪の已祟が真横に振った剣撃。
ただ一振り、それだけで、隻蘇は砕けた。
通常の太刀以上の耐久性を持つ隻蘇が砕けると言う事は。
その剣豪の膂力は、鋼を破壊する程の威力を秘めている事になる。
「……やっべ」
「お嬢」
「マジで」
「やべぇぞっ」
「相手」
「強ぇわッ!」
八峡義弥は叫びながらも、服から士柄武物を取り出す。
一振り、匕首に似通った士柄武物。
それは八峡義弥が持つ士柄武物の中で最も硬度のある士柄武物だった。
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