第十八話 戦闘
遠賀秀翼は八峡義弥と贄波璃々を連れて、扉の前に立つ。
「は?」
「エレベーター?」
「火葬場にあるのかよ」
八峡義弥の認識では、火葬場はただ死体を焼く所でしかない。
「あるにはあるんでしょう」
「此処、駐車場があるし」
「エレベーターで移動するんでしょう」
贄波璃々はそう言った。
遠賀秀翼はボタンを押してエレベーターを動かす。
「じゃあなんだよ」
「俺たちは駐車場に行くのか?」
「ノットだアミーゴ」
「俺たちは今から」
「幽世に突入する」
幽世。
その言葉を聞いて八峡義弥は隻蘇を握り締める。
「おいおい」
「幽世って……」
「ありゃあ」
「厭穢が放つモンだろ?」
異形の生命体、厭穢。
それらは世界に干渉し、自分だけの世界を作る事が出来る。
曰く、幽世とは厭穢の腹の中。
少なくとも八峡義弥の認識はそれであるが。
「あまりにも強い已祟であれば」
「世界を歪ませる程の力を持つ」
「長年建物に取り憑いた奴だ」
「幽世を展開するぐらい」
「ワケないさ」
遠賀秀翼はそう言った。
それと同時にエレベーターがやって来る。
「と言っても」
「已祟が作る幽世は」
「何かしらの条件があるがな」
遠賀秀翼がエレベーターに乗り。
八峡義弥と贄波璃々も同じ様に乗り出す。
「これでどうするんだ?」
「エレベーターのボタン」
「見てみろ」
遠賀秀翼がエレベーターを顎で指す。
八峡義弥はボタンを確認すると。
「……赤?」
エレベーターには、一階のボタンと、駐車場に向かう地下一階のボタン。
そして、赤と書かれたボタンがあった。
「これが幽世に行く為の条件だ」
「このボタンは」
「已祟が作り上げたモノ」
「このボタンを押してしまえば」
「後は幽世に繋がる様になる」
遠賀秀翼はボタンを押す。
そして扉が閉まると、グ、ググ、と振動しながらエレベーターが降り出す。
エレベーターに乗る八峡義弥は、足場が心許ない不安定さを感じていた。
「こえー」
「やめなさい」
「情けない事を言うのは」
贄波璃々は八峡義弥を嗜める。
遠賀秀翼はショルダーから煙管に触れる。
「アミーゴ」
「気を付けろよ」
「唐突に已祟が来るかも知れん」
「準備をしてくれ」
「この狭い空間」
「俺とフロイラインは」
「術式が使えない」
エレベーターと言う密室。
もしも術式を使えば圧縮されて身動きが取れない。
どちらも怨霊を具現化して戦う祓ヰ師だからだ。
「了解だ」
「お前らは」
「俺が守ってやるよ」
八峡義弥は隻蘇を握り締める。
更に背中からもう一振り、石鎌の士柄武物を取り出す。
グオン、グオンと動くエレベーターは止まり、扉が開かれると。
火が扉の先から伸び出す。
八峡義弥はそれを見てギョッとした。
それは人の手だ。燃える肉体。口や目から淡い炎が巻き上がる。
それが、何十体も整列して、八峡義弥たちを待ちわびていた。
ギョッとしてビビった八峡義弥だが、士柄武物を強く握り締めて立ち向かう。
「上等だコラッ!」
「雑魚狩りじゃぁ!!」
隻蘇を振るう。
炎の亡骸の首を断つ。
それで消滅する炎の亡骸。
八峡義弥はエレベーターに炎の亡骸を向かわせない様にエレベーターの前に立つ。
「一旦上がれ!」
「体制建て直せッ!」
「無理だ」
「もう幽世に居る」
「已祟は俺たちを逃さない」
エレベーターのボタンは一貫して〈開〉のボタンが光り続けている。
ずっとエレベーターが開き続けていた。
炎の亡骸が八峡義弥に向かう。
一斉に押し込む様に、八峡義弥はこの士柄武物では斃せないと分かると、それらを捨てて背中に手を回す。
八峡義弥が取り出したのは、棍棒だった。
それを炎の亡骸の腹に当てると。
「頸を出せ―――抉旋ッ!!」
その言葉と共に、棍棒の先端から穂先が飛び出した。
その威力は計り知れず、士柄武物を掴んでいた八峡義弥が吹き飛ぶ程の威力。
超高速で飛び出た穂先は、炎の亡骸の上半身を吹き飛ばし、更には背後に居る炎の亡骸を地面に斃した。
「ぐぎぎッ」
士柄武物・抉旋は内部に秘めた神胤を炸裂させる事で穂先を飛び出させる士柄武物。
しかしその威力は鉄パイプの中に栓を抜いた手榴弾を入れる様なもので。
八峡義弥は士柄武物から手を剥がす。
腕は痺れて使い物にはならない。
(やっぱ俺)
(この士柄武物)
(苦手だわ)
涙目になりながら八峡義弥が寝転ぶ。
しかし炎の亡骸は、後方に居るものらは無事ですぐに立ち上がる。
そして八峡義弥へと向かって来るが、八峡義弥は立ち上がろうとはしない。
「もう十分だろ」
「術式」
「使える程には開かせたからよぉ」
「俺ァちょっと休憩だ」
「バトンタッチ」
そう言って八峡義弥は座り込んだまま。
贄波璃々と、遠賀秀翼が開いた八峡義弥の前に立つ。
「十分だアミーゴ」
「此処から先は」
「えぇ」
「任せなさい」
贄波璃々が神胤を空間に放つ。
遠賀秀翼も煙管に神胤を流し込む。
そして、贄波璃々は屍子流傀儡術式〈ソノコ〉を展開し。
「
「釈下天門招界道抜閂」
「臨禪―――〈
遠賀秀翼は、煙管を媒介に鬼陰流媒介術式を発動するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます