第五話 教祖の仕事

 はあ。長時間の乗車も疲れたものだねぇ。


 けど仕方が無いか。ボクは八十枉津学園の学生だから、ある程度、学園のルールに従わなくちゃならないんだから。


 ……八峡に会う前に、一度お風呂にでも入って、身を清めておこうかな?あぁそういえば……道具小路先生の件があったけ?


 そっちは後で聞くとして……あぁ、運転手さん、この山です。はい、山を一つ改築して作られたのが、〈ぱらいぞ〉の本拠地になってるんです。


 そのまま進んで貰って……あぁ、人だかりが出来てますねぇ、全部、ボクの信者ですね、はい。


 うぅん。邪魔だなぁ……仕方が無いですね、はい、この辺りで十分です。お疲れ様でした、お帰りにはお気を付けください。


 さて……「教祖様だァ!」「教祖様ぁ!」「どうかお慈悲をォ!」「娘を治して下さいッ!」「教祖様ぁ!」


 ………はあ。うるさいなぁ……はいはい、分かってますよ。今日は疲れてるので、抽選で三名程選んで禊の間に連れて来てください。


 私は着替えて来ますので………はあ。


 教祖っていう仕事も、楽じゃない。


 だって、毎日、誰かの為に働かないといけないんだから。


 けど、それがボクにしか出来ない事。それに、お金が簡単に手に入る。


 それを投げ出す真似は、馬鹿でもしないだろうね。


さて……教祖用の服に着替えたし……仕事を始めましょうねぇ。


 …………で?貴方は、私に、何を望むのですか?


「教祖様」はいはい、教祖様ですよ。


「私の……娘が強姦されました」はいはい、それで?


「毎晩魘されています」なるほどなるほど。それで?


「どうか、娘の苦しみを、取り除いて下さいッ!」ふぅん。なるほど。そうですね……では誠意を見せてください。


「娘の為に家を売りました」なるほど。


「娘の為に臓器を売りました」それは凄いですね。


「全財産を、お包みしました……お納め下さい」………はい。確かに、お金は揃ってますね。


 それでは貴方の娘の苦しみを取り除いてあげましょう。「あ、ありがとうございますッ!!」………それじゃあ、娘さん、こちらにどうぞ?


 陰陽術式・悖反太極〈削剥〉………はい、これで、貴方の娘さんを蝕むトラウマや嫌な記憶は全て取り除きました。大丈夫ですよ?娘さんに、強姦された記憶はから。


「ありがとうございます……ありがとう……」ああ、私に触れない方が良いですよ。


 削いだ穢れが取り付いてしまう。さあ、もう大丈夫です、お帰りなさい。


 はあ……これで今日の仕事は終わりになります。お疲れ様でした。

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