第四話 相談

 やあ、八峡くん。どうだったんだい?新しい士柄武物は?

 

……へえ、隻蘇せきそかい。そりゃまた古風な士柄武物を買ったんだねぇ。

 使い心地はどうだい?きっと君に馴染むものなんだろうね?


『なんつーか、ボロい』………ん?そんな筈は……ちなみにそれは、種類はなんだい?


純参差じゅんさんさ』んー、はむはむ……それふぁねふぇやふぁいふん。もぐもぐ………。


『お前何喰ってんの?』んぐ………あぁ、おやつのどら焼きだよ。甘くてとぉっても美味しいんだ。


『今食う事か?』ごめんねぇ。お腹が空いてて……で、その士柄武物だけれども。


 どうやらそれは、安物の隻蘇みたいだね。隻蘇は一振りの刀だけど、量産型なんだ。


 士柄武物の歴史は古くてねぇ、最も多く生産されたのが戦国時代で、その頃には多くの剣士や鍛冶師が居たものさ。


 その隻蘇を打った鍛冶師・伐鍼ばっしんは全ての刀剣類に隻蘇と銘を刻み、優劣を決めたものでねぇ。


 純参差・純弐差じゅんにさ純弌差じゅんいっさ純刻じゅんうちの四つの階級が存在しているんだ。


 キミが持っているその隻蘇はその中でも一番粗悪品が混じる純参差、つまり、三流の剣術師が使うものなんだよ。


『つまり、騙されたのか?』うん、そうなるね。しかし、うーん……ボクが頼んだのに、どういう了見なんだろうか、道具小路先生は。


『ん?どういう意味だ?』ん?うふふ、なんでもないよ。それじゃあ八峡くん。また明日にでも話をしようね?


 ボク、仕事帰りだからさ。『そうか、悪かった』キミが謝る程でもないよ。相談なら、何時でも乗るからさ。


 ………さてはて。どういう事なんだろうねぇ。ボクが頼んでいるのに、あんな粗悪な武器を持たせるだなんて。


 あれじゃあ、八峡くんが浮かばれないじゃないか。まったく、これはもう、ご立腹だよ。


 道具小路先生の相談を聞くのは、今後やめておこうかなぁ。


 それとも………トラウマを植え付けてあげようか。


 うふふ、帰ってからのお楽しみだねぇ。


 んー、けど。そのお陰で、八峡くんがボクを頼りにしてくれた事実もあるし……。


 一応、話だけは聞いておこうかな。まあ、妻子が人質に取られたくらいの理由じゃないと、許してあげないけれど。


 さあって……早く帰ろうかなぁ。こんな場所に居ても、殺風景でつまらないし。


 ……あぁ、忘れてた。キミの心臓を持って帰らないとね。いやぁ、ついうっかりしてたよ。


 こらこら、厭穢たち、もう十分に食べたでしょ?ちゃんと心臓は残しておいてくれたかい?


 そうそう、これだよ。うん、聞き分けが出来て良い子たちだねぇ。


 じゃあ帰ろうか、早く八峡くんの所に行かないとね。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る