第三話 術式開示


 ボクは神様じゃないよ。


 人の心の痛みを取るのはあくまでもボクの術式だから。


 陰陽術式、陰陽師が臨核による神胤生成から生まれた術式とは違う別の術式。


 通常の術式が鍛錬による……技術による産物であるのならば。


 陰陽術式は、元々その人間が持ち得る異能と言う事になるだろうね。


 ボクの術式は悖反はいはん太極たいきょく。陰と陽、二つの相反する属性を使用する事が出来る術式。


 光と影、火と油、熱と冷、この様に決して相容れない二つの属性を扱う。


 ボクの属性は継接つぎはぎ削剥そぎはぎ。何かを張り付ける事が出来て、何かを剥がす事が出来る陰陽術式・悖反太極さ。


 この力がボクの地位を確立してくれる。例えば、人間の悩みやトラウマと言った負の感情を引き剥がす事が出来る。


 決して拭えないトラウマ。常に頭を悩ませる心の病気を、ボクは拭い取る事が出来る。


 それが教祖と呼ばれる所以でねぇ。ボクを崇めてお金をくれる人も沢山居るってワケなのさ。


 そしてもう一つ。ボクが教祖様って呼ばれるのは、力を欲する者がそう呼ぶからでね?


 引き剥がした負の感情、それらは集まるとどうなるか分かるかい?


 ヒントは厭穢。……うん、そうだよ。負の感情は集うと、世界の膿に変わる。


 膿んだ場所から厭穢が生み出されるんだ。つまりボクの術式は厭穢を産む術式でもある。


 そしてね、その厭穢を自分自身に貼り付けると、その厭穢はボクと服従関係になる。


 あぁ、これはボクじゃなくても、他の人に貼り付けても同じ事なんだけどね。


 まあ、その力を欲してボクを崇める人も居るって事なのさ。


 さて、外化師さん。キミは厭穢憑きと呼ばれる、人間や祓ヰ師に害を成す指名手配犯だけれども。


 うふふ、実力の差が分かって絶望しているのかなぁ?


 キミが契約した厭穢は一体、でも、キミが見えているボクに憑く厭穢は、その数十倍以上。


 圧倒的戦力差の前で恐怖すら覚えているね。


 うん。思った通り面白い顔をしているよ。


 さて、一つ質問をするけれど。キミの討伐には、生死は問わない事になっている。


 つまりボクはキミを殺すけれども、必ず部位を残さないといけない。


 そこで、キミに選ばせてあげるよ。首と心臓、どっちを残して欲しい?


 ボクとしては心臓が良いと思うよ。首だけだと、なんだか絵面が不味いからさ。


 うふふ、十秒だけ待ってあげるよ、さあ。選んでみて?


 ……ん?着信、……うふふ、八峡からだ。


 残念。もう十秒は与えられないねぇ。もう仕事を終わらせないと、電話に出れないから。


 それじゃあね外化師さん。ボクは電話に出る事にするよ。


 ―――やあ八峡。今かい?今、丁度暇になった所だよ。うふふ。

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