第十話 終わり

 ………はぁ………ハァ………唯我顕彰………。


 転生者は前世を武器に戦う。具体的に言えば、現世の自分に前世の自分を引き出す事が出来る。


 前世の記憶や、前世に体得した技術や力量を引き出す初期術式・〈自我継承じがけいしょう〉。


 前世で体得した能力、前世で使用した武器、前世の自分の肉体の一部を喚び出す中期術式・〈唯我顕彰ゆいがけんしょう〉。


 そして、前世にて自分の肉体を完全顕現したり、特定の能力を前世以上に引き出す終期術式・〈真我万象しんがばんしょう〉。


 それ以外にも……前世にて自分が存在した世界、自身の心理をそのまま現世に転生させる術式・〈道理ことわり〉なんてものもあるの。


 これが、転生術式の能力。わたしは中期術式の唯我顕彰までしか使えないけれど。


 あなたには十分過ぎた代物かしら?


 私は地兇龍ちきょうりゅう。前世の頃の名前。全ての運気を吸い上げて、その他の全てに対して凶を押し付ける邪龍。


 不幸にも、あなたは私に傷一つ付ける事は敵わず………逆に私はあなたに対しての攻撃は全て急所に当たっている。


 ………ごめんなさいね。けど、あなたが悪いのよ?私の好きな彼を奪っておいて………私を不幸な気分にさせるからいけないの。


 でも、大丈夫。これで私は、幸せになれる。私も、彼も、幸せになれるから。


 だから、あなたは心配せずに、死んでも大丈夫だから、ね?


 それじゃあ、バイバイ…………。


 …………。


「姉さん」あら、くーろん。ダメじゃない。ちゃんと始末しておかないと。


 お陰でお姉ちゃんが代わりにやってしまったわ。


「……ごめんなさい」いいの。あなたは頑張ったものね。でもこれで、もう何も、障害は無いわ。


 ふふ、楽しみね、早く明日にならないかしら。


 あぁ……やかい、やかい……私の幸福、その象徴。


 邪魔な存在はもう無い。何処にも無いの。私の幸せがそこにある。


 あぁ……はやく明日にならないかしら?


 私の時間は短いもの。この体が朽ちて死ぬまでに……。

 一生分の幸せを、受け取らないと。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る