第五話 界守綴編・添い寝


 義弥様。本日は義弥様の部屋にて警戒態勢を取らせて頂きます。


 屋敷の周りには形象術式による式神らが見張っております。


 が、今回影を通して攻撃してくる輩も居る可能性がある為、寝ずの番をします。


 さぁ義弥様はお眠り下さい。私が傍に居るから集中して眠れないのであれば、形象術式で安眠をお届けしますが?


 ………「大丈夫」了解しました。それでは義弥様、良い夢を。


 電気は消しますか?それとも点灯しておいた方がよろしいですか?


「消して良い」では義弥様。おやすみなさい。


 ――――パチンッ――――。


 ――――――――――。


 ――――――――――――。


 ――――義弥様?


 ……………………脈はある。大丈夫。眠っておられる。


 ――――――。


 ――――――――。


 ――――。


 ……義弥、さま?


 ……………寝言か………脈もある…………。


 …………………もどかしいな。


 この離れた位置では、義弥様の体温が分からない。


 生きているのか分からない……………。


 ―――――――ガサッ、ゴソッ――――。


 ………ふぅ………義弥様失礼します。


 ……こうして抱いておけば、いざとなれば盾にもなる。


 同時に義弥様が生きているのか、肌で分かる。実に効率的だ…………。


 ……………「やすめる」。これで私の体力は持つだろう。


 しかし………こうして見れば、義弥様は少し、大人びておられる。


 ………弟と重ねていたが、やはり、少しだけ違うものなのだな。


 ―――ゴソッ―――。


 ッ、義弥様、起きていらしたのですか。


 これは護衛です。例え侵入者がこの部屋に来ても、私が盾となる事が出来ますので。


 ………「自己犠牲か」と言われれば、はい、と申し上げます。


 私は昔、贄波教官の元で厭穢狩りをしていました。


 その時には、新入生として入学した弟もおり、時に二人で厭穢を対象とした任務にもあたった事もあります。


 ………ですが、私は其処で弟を失いました。同時に私は厭穢の瘴気に呑まれてしまい、恐れてしまったのです。


 失う事に対して、異常なほどまでに、私は恐怖を抱いてしまう。


 あの時、御邪衆が貴方を狙い、傷を受けた時も、私は守るべきものを失う恐怖に我を失ってしまったのです。


 未熟だとお笑いになるでしょう。


 ですが、私は、もう二度と、誰かを失いたくはないのです。


 だから私は、誰かを守る為に、護衛としての職に就き、そして今では、貴方を監視し、守護する者となった。


 …………言うなればこれは、死した弟の為の罪滅ぼし、と言った所です。


 それでも貴方を守りたい、その気持ちは本物です。


 ですから、どうか。手を振り解く事無く一夜を明かしては貰えませんでしょうか?


 …………ありがとう、ございます。


 義弥様。それでは今一度。


 ――――おやすみなさい。

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