界守綴編

第一話 界守綴編・家政婦



しや……ま……義弥……様……。


――――義弥様。


ようやくお目覚めですか。


既に朝食の準備は整っております。


その前にまずは服を着替えましょう。


お手伝いしますので、両手を上にしてください。


あ、逃げないで下さい。ボタンが外せないではありませんか。


起立して……そう、くすぐったい?失礼しました。


上は着脱完了。続いて下の方を脱がせて頂きますが………。


失礼、生理現象ですか。ですが私は軽蔑などはしませんのでご心配なく。


下は自分で脱げる?駄目です。私にお任せを……あっ。


何故私が外に放り出されるのですか。義弥様。義弥様っ。


―――どんどんどーんっ―――どんどんどーんっ―――ッ!!


………仕方ありませんね。『形象術式・開』ッ。


―――ガチャリ。


義弥様、あぁっ、既にズボンは装着済みですか。


仕方ありませんね……ではせめて上だけでも………。


…………?なにか?


『扉は鍵を掛けた筈』?私にとってその様な事象など意味はありません。


形象術式……我が界守家が宿す術式は文字を実現化させる能力。


扉に「開」と書けば如何なる頑丈な扉でさえも容易に開く事が出来ます。


それよりも……上はまだ着てはなりません。


何故?と言う疑問を持つのは、少々意外と申されましょうか。


それとも、鳥頭と侮蔑の言葉を吐けば良いのでしょうか?


現在、貴方様は監察対象として学園で保護されております。


私は貴方様を監視する係を受け持った監察官、界守けもりつづりと申します。


そして貴方様は、大変な禍憑を宿しているのです。


それは別次元に存在する、邪神と呼ばれるものから受けた恩恵。


今は限りなく0に近い数値の禍憑ですが、もしも、その禍憑が1に近づけば、この地に邪神が降臨される。


その邪神は世界を指一つで崩壊出来る程の驚異的な力を宿す上位の不従万神まつろわぬかみ、もしくはそれを超える存在なのです。


義弥様は、邪神がこの地に近づく1に近い存在。


故に、禍憑が1に至らぬ様に、様々な工面をさせていただく所存です。


それでは、これまでの経緯を説明した所で……体に、字を綴らせて頂きます。


……………………………。


うばう」……「なくす」……「しめる」………「たつ」……「ことわる」……「おろそか」……「」………「ふうじる」……「から」……「うえる」………「かわく」………「しずめる」………「きよめる」………「はらう」………「いさめる」………「よわらす」…………。


このくらいで良いでしょう。可能な限りの字を使い、禍憑の数値を限りない0に治めます。


………くすぐったかった?それは申し訳ありません。肌に直接書かなければ効力が無いので。


それでは服を着て下さい。手伝いますので。


いらない?そうですか………「とめる」。


体が動かない?それは大変な事です。まずは先に服を着ましょうか。


え?着れない、困りましたね。では私が着させてあげましょう。


逃げるのは無駄ですよ。


さぁ…………服を着るのです。

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