第七話 九重花久遠編・ごっこの終わり
口付け。
それは、接吻、とでも言いましょうか。
唇と、唇を、重ねて愛を確かめ合う。恋人の定番。
これでも、恋心が抱かなければ、………私は、恋をする事は出来ない。
「そう簡単にキスして良いのか?」私は、婚約者によって破瓜を遂げる。
口付けくらいは、私の意志で、したいではありませんか。
顔ですら朧気な男より、顔の良い、八峡さんの方が、幾らかマシです。
「そりゃ得した」そうです、得をしたと、思いになって下さい。
それでは、八峡さん、準備は、宜しいですか?
…………いきます。………んっ…………。
……………。
……依然として、心は凪を保つ……。
どうやら、私は、恋を知る事は、出来ない様です。
……少し残念ですが、同時に、これで諦める事が出来る。
八峡さん、ありがとうございます。これで、私は、この結果に満足をする事が出来ました。
これで、悔いなく嫁ぐ事が出来ます、……………ご協力を感謝します。
では、戻りましょうか………?校門前に、車が、止まりましたね。
………なんでしょうか、あの男は、何処か、見覚えがありますが…………。
あ、そうです。あれは、私の、婚約者、でした。
何をしに、この学園へ、来たの、ですか?
…………私の、顔を、見に、ですか。………なんですか?
顔は良いが、着る服は致命的……ですか。貧乏な服……汚らしい……、そう、でしょうか?
……………………いえ、文句など、ありません。
私は、あなたに、歯向かう気など………あ、八峡、さん?
何故、私の、前に?……この男は、誰だ?ですか、この人は………この、人は。
「こいつの恋人だよ」っ!?や、八峡、さん?急に、何を。
「お前が誰だか知らんが、人の恋路を邪魔すんな」あ、あの、急に肩を抱いて、あの………。
「俺の女に手を出すんじゃねぇ」あ……………。
――――。
……なんですか、これは。
――――――ドクッ。
………何故、私は、緊張をしている、のですか?
―――――――――ドクンッ。
……………何故、私の体は、こんなにも、熱を帯びている、のですか?
―――――――――――――ドクンッ、ドクンッ。
……………………何故私は、こんなにも、顔が、赤く………。
――――――――――――――――ドクンッドクンッドクンッ………。
………鼓動が止まない。息が荒々しい。
この人に、触れられるだけで、こんなにも、体が強張ってしまう。
声を出そうにも、喉に張り付いて、言葉が表せない。
瞳を瞑れば、その人の顔を、思い浮かべてしまう。
瞳を開けば、何処に焦点を合わせて良いのか、分からない。
心臓が刻むこの音は、何よりも耳に響く。
しかし、煩わしいと、思う事は無い。
この熱は、私の常識を溶かす、そして、私の心を滾らせる。
感情と欲求は結び付き、思考回路はあなたに染まる。
あなたが欲しい。あなたを感じたい、と。
私が、私でなくなる、そんな感覚。
そう、ですか。これが、そうなのですね。
これが、………恋、なのですね。
私は今、あなたに、恋をしている。
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