第六話 九重花久遠編・恋人ごっこ

 八峡さん。


 昨夜はお疲れさまでした。


 身構えないでください、昨夜は、私も、失敗しました。


 今回は、そう過度な、行動を追求する、ではなく、一つ一つ、行動を重ねていこうと、思います。


 それでは早速、恋を知る為に、恋人が行う行動を、やってみましょうか。


 まず、恋人は「ぺあるっく」、と、言うものをするみたいです。


 なので、此方を編んできました。「あ、あん……は?一晩で?」……?はい、何か、可笑しい事でも?


 まあ、それよりも、着て、くれますか?「俺は良いけど、お前和服じゃん」……?はい、何か、可笑しなことでも?


「お前が別に良いってんなら良いけどさ」ありがとうございます。それでは、私も……。


 ―――ゴソ、ゴソゴソ……―――


 ………お揃いですね、……私は何も感じませんが、八峡さんは、何か、感じますか?


「恥ずかしい」それは恋の反応ではないですね、私は、素敵で良いと思いますが。


 少し、時間を掛ければ、恋心、と言うものが浮かぶかも、知れません。


 なので、この状態で、少し、歩きましょうか。


 あぁ、そうです。


 歩く際には、恋人は、手を繋ぐ、らしいです。


 ですので、どうぞ、私の手を、握って下さい。


「え、普通に?それとも」………?手を握るとは、握手をする、様なのではないのですか?


「恋人繋ぎって奴があってだな」………なるほど、要するに、指を絡め合わせる様に握る、のですね。


 では、その様に繋いでみましょう。どうぞ。


「これで良いか?」……八峡さんの手、暖かいですね。それに少し大きくて、皮膚が硬い、です。


「お前は冷たいな」体温が低い、と。良く言われますので。夏になれば、私は重宝される、と思います。


 保冷剤として、寝付けない夜に、抱き枕として使っていただければ。


 ………あぁ、そうですね。夏頃には、私はもう、あなたの傍には、居ない。


 つまらぬ事を、言ってしまいました。今はただ、こうして、歩きましょう。


 ――――トコ、トコ、トコ―――――


 校門前まで、来てしまいましたね。しかし、何も、感じません。


 八峡さんは、何か、感じましたか?「特に何も」そうですか。


 こうなれば、あとは一つ、恋人がやる、行動があります。


 なんだか、分かりますか?八峡さん。


 もし、これを行って、それでも、恋と言うものが分からなければ。


 私は、それを最後に、恋を知る、事を、止めようと思います。


 これ以上、八峡さんに、ご迷惑をおかけする訳にも行きませんし。


 私の我儘に、八峡さんを付き合わせて、申し訳ないと、そう思っています。


 それでも、私は、恋、と言うものを、知りたかったのです。


 …………それでは、八峡さん。恋を知る為の最後のコトをしましょう。


 私は、今から、あなたに………。


 …………口付けを、します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る