第五話 九重花久遠編・弁当

 

 陰陽道おんみょうどう五行体系ごぎょうたいけい木統もくとう咒術式じゅじゅつしき枯棘からばら」。


 この大きな花は、成長すると破裂して、種子を周囲に撒く。


 突き刺さった場所から、生命の源を吸収し、新しく花を咲かす。


 人体に突き刺されば、血液や神胤が吸収、厭穢に刺されば、呪いが吸収される。


 泥から咲く蓮の様に、汚れたものから咲かせる花は、心をときめかせる。


 ……大体の、厭穢その他は、祓い終わりましたね。


 お疲れ様です、八峡さん。お怪我の方は、無いでしょうか?


 掠り傷が多いですね、ですが、上々です。死ぬ程ではありません。


 しかし、傷口から感染、など可能性があります。


 ので、お薬を塗っておきましょう。


 九重花家が扱う傷薬、化膿止めと、止血効果、そして怪我の回復が、早くなります。


 ―――ぬり、ぬり、ぬり。―――。


 これで、明日の朝には、治っています。


 瘴気も、完全になく無くなりました、ので、ここで一つ。


 恋人らしい、事でも、してみますか?


 あの、お弁当、作って来たんです。これ、私が、頑張って作りました。


 と言っても、急ごしらえなので、夕食後の残り物ですが。


 お夕食は、基本的に私が作ってますので、恋人の手料理、と言う条件は、クリアしている、と、思います。


 あの、残飯だと思われるかも知れませんが、食べてくれますか?


「戦った後だし、その前に吐いたし、丁度腹減ってた」では、食べていただける、のですね?


「箸くれ」と、なれば。頑張らせて頂きます。「あの、箸は?」では。どうぞ。


「何しようとしてんの」これは、一般的に言う、あーん、と、言う行動です。


 恋人なら、誰もがやる行為だと、聞いてますが。


「恥ずかしいんだけど」そうですか?私は、恥ずかしくないですが。「無表情だもんね」表情が硬いのは、仕様です。


 どうぞ、八峡さん、あーん。


 ―――ヒョイ―――。


 ………?なんででしょうか。まったく、鼓動が高鳴らないです。


 恋とは、体中が火照り、顔が熱くなると聞いていましたが………。


 八峡さん、もう一度、行きますよ。


 はい、あーん。


 ―――ヒョイヒョイ―――。


 ………やはり、胸が、高ぶらない。


 もしや、ごはんを詰める量が、少ないからでしょうか?


 八峡さん、今度は、ごはん半分、おかず半分を詰め込みます。宜しいですね?


「宜しくないです」そんなこと言わずに。あ、逃げようとしないで下さい。


 陰陽道五行体系・木統咒術式「蔓喰つるばみ」。


「植物の蔓が。体をッ」この蔓は頑丈ですので、そう簡単には抜け出せません。


 さあ、行きますよ、八峡さん。あーーーーーーーーん。


「やめッ」やめません。


 ―――ヒョイヒョイヒョイヒョイヒョイヒョイッ!―――


 ………何故でしょう。何も、感じない。何がダメなのでしょうか……。


 ……?八峡さん、どうしたのですか?咀嚼しなければ、息が詰まって死にますよ?


 ………し、死んでる?「ひんでふぁいしんでない」あ、良かったです。


 しかし、何が悪かったのでしょうか。


 もう少し、勉強する必要が、ありますね。

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