第九話 多禮千年世編・独白
ただ一振り。それで終わる。
灰塵の刃は問答無用で敵を焼却する。
その代償として、大切な人の記憶から、私が抜け落ちていく。
よーくんの記憶から、私が消えていく。
あの日、よーくんが私との過去を忘れてしまった様に。
これが最後。その一撃は呆気なく。よーくんは私と居た記憶を忘れていく。
あーあ、これで終わりね。なんて、独り言を言って。
彼の命を救う事で、彼は私をきれいさっぱり忘れてしまった。
もう、よーくんは私の事を思い出してはくれないだろうから。
私は彼にさよならをするのです。もう一度やり直せば良いと言う人が居るだろうけど。
私はか弱い女の子。忘れられた女なんて、ショックが大きくて泣いてしまうわ。
よーくんに涙なんて見せたくはないし。それ以上に、これでよーくんは幸せになれるから。
……私が祓ヰ師となって、他人を不幸にする力を神胤に変える事で効力は微弱になったけれど。
それでも私に近づけば危害が加わる、よーくんは、私のせいで大怪我を負った。
私はそれが嫌だったから、よーくんとの関わりを恐れたけれど。
そんな事、気にする必要なんてないと、よーくんは私に触れてくれた。
だから私はそんなよーくんが好きだったけれど。それはもうおしまい。
あなたを、また不幸の底に落とすくらいなら、私の事を忘れていてくれた方がいいもの。
あなたが幸せでいてくれれば、私はそれで幸せだから。
一生一緒に居たかったけど残念。仕方がないものね。
……あー。もっと、一緒に居たかったわ。
バニーガールとかスクール水着とか、せっかく用意したのに。
よーくんの困った顔、好きだったな。
よーくんのつっこみ。もっとされたかったな。
……これで終わりかぁ。ぐすんぐすん。
分かっていたのに、涙が出ちゃう。覚悟していたのに。
もう涙を拭く人間なんて、いないのに。
………ッ。グスッ…………。
―――あなたが、私を忘れてしまった世界。
―――それでも私はあなたが居るから生きていける。
―――あなたに触れた感触と熱と鼓動を反復して。
―――あなたが忘れている私だけの記憶を思い出に。
―――死が私を殺すまで。生き続ける。
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