第八話 多禮千年世編・さようなら

 

 今日の仕事が終わったら、何をしましょうか。


 よーくんは何をしてるのかしらね。私の事を考えてくれてるのかしら。


 もっと、もっと。よーくんと、思い出を作らなきゃ。


 過去の事よりも楽しく、記憶に残る様な思い出を………?


 なにかしら、外が暗い……これは、幽世……?。


 八十枉津学園を中心に外界から隔絶されている。


 授業で誰かが発動した?その場合は事前に連絡がある筈。


 ……最悪の想定をするならば、八十枉津学園を襲撃しようとしている?


 厭穢は稀に人間と契約して肉体を乗っ取る事があるわ。


 脆い人間の肉体を得る代わりに、理性と知恵を得る事が出来るから。


 だとしたら……大変。よーくんが、危険だわ。


 急がないと……あの子にもしもの事があれば………。


 ――――ダッ!


 どこ、何処に居るの?よーくん。


 ……校舎内に見知らぬ人間。……呪力を感じる以上、それは関係ないと言えないわね。


 悪いけど死してもらいましょうか。


 拔劔ばっとう―――氷雨ひさめ・『不灼零泉ふしゃくれいせん』ッ!!。


 ッ―――急がないと、よーくん。よーくん……。


 ―――――――ッ。なに、この禍々しい気迫は。


 先の呪力を秘めた相手とは桁が違う……ッ。


 もしも、あそこによーくんが居たとしたら。


 ………抜かざるを得ないようね。


火継ひつぎ』あと何回使える?


 ――――。


 ――――――――――残リ、一振リ。


 ………そう。出来る事なら、使わずに済めば良いけれど。


 行きましょうか。もし、あの子が居れば。


 その時、私は、あなたを使う。


 それが、契約ですものね。


 ―――――心の底から願います。


 どうかその場所に、よーくんが居ませんように。


 そうすれば、私は彼を探す事が出来る。


 アレを倒す為に、刀を抜かなくても良くなる。


 まだ……よーくんと一緒に居れる。


 けれど、私の願いなんて、何処にも届かない。


 この世界に願いを叶える神は居ないのだから。


 ―――――よーくん。


 此処に、居たのね。


 まだ生きていてくれて、本当に良かったわ。


 だって、あなたの居ない世界で生きる事なんて、出来ないもの。


 この世界であなただけが私を救ってくれた。


 不幸を押し付ける嫌味な女を、あなただけが一緒に遊んでくれた。


 あなたが私の宝物。私の大好きな幼馴染。私の愛して止まない弟。


 もしもあなたと生涯を共に出来れば、それはどんな奇跡や幸福よりも素敵な事だけれど。


 それでも、やっぱり、この世界に、そんなものは無いのね。


 ねぇよーくん。私は……あなたの事を憶えているわ。


 例えあなたが、私を忘れても。私は、あなたを憶えているから。


 だから、あなたの為に、私はこの剣を振るう。


 その代価が如何に重く残酷であろうとも。


 あなたを脅かす全てに、私は刃を向ける。


 ……さようなら、愛しい人。さようなら。


 さようなら。さようなら。さようなら。


 ………『火継』。私の記憶を焼却しなさいな。それがあなたと契約した事だから。


 契誓ちぎり、かわす――――。


 ―――封魔刀。

 それは、天魔を封じる剣。

 天魔の能力に応じて、それに相反する能力が発現する異能の刃。

 しかし本来の用途は、天魔を封じ、その力を使役する事にある。

 天魔を調伏させてその力を扱うか、天魔と契約を交わし、代価を払う事でその力を酷使する。


雲外蒼天如何に空を覆うとも雨過天晴雨が大地を濡らしても旭日昇天やがて天には旭が昇り烈日赫々激しく大地を照り示す―――』


 契誓は天魔との契約を現す。口上にて契約を完遂させる。


『――――晴天百光せいてんびゃっこう日緋色ひひいろ火継ひつぎ。』


 その名こそ、刃に宿る天魔の銘。

 炎を司る魔人・晴天百光せいてんびゃっこう日緋色ひひいろ火継ひつぎ

 彼女は封魔刀に宿る天魔の全能を振るう為にある契約を施した。

 八峡義弥。彼女の大切な人間。その記憶から、多禮千年世の思い出を抹消することだった。


 ――――そう。だから、これが最後。


 あなたを守る為に、私はあなたとさよならをする。










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