第七話 多禮千年世編・夢

 

 んー。よーくん。


 今日は一緒に寝てくれるって言ってくれたけど。


 まさか同じ部屋と言うだけで、同じベッドで眠る、と言う訳では無いのね。


「狭いから」まあよーくんなら、そう言うのは分かり切った事だから。


 だから、思い切ってベッドを持ってきました。


「何処から?」担いで来たの。えらい?


「戻すの大変だぞ」いいの。よーくんと一緒に眠れるのなら、私はなんでもするもの。


 それじゃあよーくん。こっちに来て。一緒に眠りましょう。


 今なら大サービスで多禮千年世の子守唄が聴けちゃいます。お高いと思うでしょう?なんと無料で聴けちゃうのです。


「いや別に良い」そう?じゃあ私が眠るからよーくんが子守唄を歌ってくれる?


「面倒くせぇ」じゃあ大人しくお姉ちゃんの歌声でお眠りなさい。


 昔はあなたのお昼寝の為によく歌ったものだわ。「あ?そうだっけ」そうよ、まあ憶えていないのも無理はないのだけれど。


 それじゃ、横になって。私があなたの隣で歌ってあげるから。


 ふーんふーん、ふーん……まずはハミングから始まるの。んんっ。それじゃあ始めるわ。


 らん、らんらん、らーん、らんらんらん………。


 …………………。


 彼以外の人間なんてどうでもいい。


 私は幼い頃から呪われていた。親戚、家族、住民……殆ど人間は私を忌み嫌い、私も彼らを嫌っていた。


 私が傍に居ると、不幸になるのだと言う。


 私は生まれ持った呪いを宿し、それが周囲の人間に不幸を与えるのだと言う。


 そういったわけで、私は多くの人間に嫌われた。


 石を投げつけられたり、田んぼに落とされたり、ごはんは一日に一食あるかどうかも分からない。


 そんな生活を続けていれば、当然ながら人間に対する不信と言うものが生まれるわけで。


 私は、私以外の人間が死ねば良いと思っていた。


 けど彼だけは違う。不幸な私を知らないのか、一緒に遊んでくれた。


 呪いなんて知らないと言いたげに、不幸な私を、ただの私として見てくれた。


 それが彼。私の想い人。


 不幸を与える私を救ってくれた凄い子。


 他の人間は死ねば良い。それは今でも変わらない。


 けど、彼の居る世界なら、私は住んでいられる。


 それは、例え彼が私の全てを忘れても、私はそう思えるわ。


 ……………………。


 ん……少し、寝ちゃってたみたい。


 よーくんは……ぐっすり、眠ってるのね。


 ねぇ、よーくん。よーくんは昔の事、憶えているかしら?


 ……きっと、あなたは憶えてないでしょうね。


 それでもいい。私はあなたを大切に思っているから。


 んっ………ちゅっ…………。


 ………いつかこうして、ほっぺじゃなくて。


 あなたの方から、私の唇を奪ってはくれないかしら。


 ………無理ね、そんな夢物語は。


 おやすみ、よーくん。


 また明日。あなたの目覚めた世界で逢いましょう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る