第三話 多禮千年世編・過保護

 

 失礼します。贄波先生。


 義弥くんに付いてお話があります。


 お時間の程、宜しいでしょうか?


「時間は無い」お酒を飲む時間はあるようですね。


「何の話だ」明朝、八峡義弥及び三名の生徒が県外へと派遣されました。


 その内容は厭穢狩りであるらしいですね。


「それがどうした」何故、その様な危険な場に、義弥くんを派遣したのでしょうか。


「……何か問題でもあるのか」大ありです。彼はまだ入学して一年も経っていない。


 通常、一般家系の生徒は学園内での訓練指導を行う事が鉄則では無いのですか?


「訓練した所で、死ぬ奴は死ぬ」だから実戦で経験を積めと?


 そんな事の為に、義弥くんを危険な場所に放り込んだと?


 彼は優秀じゃありません。しかし、努力次第では化ける存在です。


 軽率に実戦投入を行いそれで死亡すれば今後の支障や戦力の減少は目に見えています。


「お前が贔屓にしてるだけだろ」当たり前です。


 見込みのある人間を贔屓にするのは何処の世界でも同じでしょう。


 私はあの子を大切に育てている。


 家族として、恋人として、姉弟として、夫婦として。


 これは決してあの子と幼馴染だからと言う理由ではありません。


 私は彼を愛している。


 一人の男性としてではなく、血の繋がった弟として思っている。


「普通逆だろ」逆ではありません。家族以上の絆はありませんから。


 そして何よりも、弟の方が禁忌感があって興奮します。


 弟と姉との関係……それを超えてはいけないと思いつつも一線を越えてしまう事に酷く興奮を覚えます。


「最低だなお前」どちらにしても、私は八峡義弥を男として弟として愛してますから。


「……まあお前の愛は分かった、で、つまりお前、何が言いたいんだ?」義弥くんの居場所を教えて下さい。


 私が彼の元へ行きます。彼が死んでしまう前に。


「死ぬ事前提かよ」それ以外にも、理由はあります。


 この派遣メンバーを見れば、貴方の娘さんも居るみたいじゃないですか。


 贄波先生とは似つかない程に美人さんです「はっ倒すぞお前」もしかしたら、義弥くんを篭絡するかも知れない。


 ……義弥くんは優しい子だから、その誘いを断れない。


 私が悪い子から義弥くんを遠ざけないと。だから私が、八峡くんをよしよしナデナデしに行くんです。


「俺はアイツが嫌いだが、同情はする」彼もきっとあなたの事は嫌いですよ。


「光栄な事だ」話を戻します。今回の派遣場所を教えてください


「……行きたければ行けば良いさ」ありがとうございます。


 これでよーくんの居る場所に行ける……。


「でもここから十時間は掛かるぞ………って、居ないし」


 ―――タッタッタッタッタッタッ―――


 よーくん。


 よーくん。よーくん。


 よーくん。よーくん。よーくん。


 よーくん。よーくん。よーくん。よーくんっ。


 待っててね、よーくん。いま、お姉ちゃんが迎えに行くから。

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