第二話 多禮千年世編・カイロ

 よーくんよーくん。


 だーれだ?


「ちぃ姉?」分からない?


「いや、ちぃ姉でしょ」ヒントが欲しい?


「だから……」ヒントは強くて綺麗で優しくて、貴方の為になんでも出来ちゃう女の子。


 貴方の匂いが大好きで、貴方の寝顔が大好きで、貴方の頑張る姿が大好きな、可愛いお姉さん。


「……ちぃ姉でしょ?」んー?正解はねー。


「うォっ!?」はい、後ろからぎゅーっ。


 正解はー、貴方の大好きなちぃお姉ちゃんでした。


「なんで急に抱き締めるんすか」正解者に対するごほうび。


 んー……あったかい。「俺じゃなくてちぃ姉のごほうびだろ」んー?だってお姉ちゃん、頑張ったんだもん。


「だもんって……」よーくんだって、抱き締められるの好きでしょ?


 家族みたいなものだけど、それでも女の子に抱き締められるのは嬉しいじゃない?


「けどさ……」ねえ、分かる?


 お姉ちゃん、よーくんを抱き締めてるから、胸が熱いの。


 集中して、よく感じて?お姉ちゃんの胸。背中でも良く感じるでしょう?


「………カイロ?」あれ?もう分かっちゃった?


 うん。カイロしてるの。昼間は暖かったから必要ないと思ったけど、夜に近づくと、やっぱり寒くなるものね。


 みて、白い息だって出ちゃう。はーっ。はーっ。


「耳元で息吹くなよ」くすぐったい?ふふ、よーくんの弱点見つけちゃった。


 ふーっ「来ると分かってたら効かんわ」そう?なら……はむっ。


「なっ!?」はむはむ。かぷっ。


「耳を咬むなっ!」よーくんの耳、冷たい。


 ずっと外に居て待ってくれたの?


「あー……まあな」嬉しいわ。私の為に待ってくれるなんて。


 まるで忠犬ね。よしよし忠犬ヨシ公。はいお手。


「しない」しないの?これじゃあお姉ちゃんが滑ったみたいじゃない。


「みたいじゃなくて滑ったんだろ」ぐすんぐすん。お姉ちゃん悲しいわ。


 よーくんはノリの良い可愛い子だと思ってたのに。ぐすんぐすん。


「あー、すればいいんだろ、すればよぉ」してくれるの?じゃあ、はい、お手。


「はいはい」ふふ、やっぱり冷たい。


「ちぃ姉は暖かいな」教室で仕事をしてたから。


 よーくんの手、今温めてあげるね。よいしょ。


「って何すんだよッ!」なにって、私のカイロで温めてあげようと思って。


 カイロ、直接触った方が暖かいでしょ?だから私の服の中によーくんの手を入れてあげたの。


「直接じゃなくて、渡せば良いだろ」カイロ張るタイプだから。


 お姉ちゃんは気にしないから「俺が気にする」でも、お姉ちゃんは気にしないから。


「だから」お姉ちゃんは、気にしないの。


「いや」お 姉 ち ゃ ん は 気 に し な い 。


「………分かったよ」ごり押しってやっぱり正義ね。


 どう、暖かい?「はいはい、暖かいすよ」良かったわ。


 でもその触り方だと手の平しか暖まれないから一回手を出して。


「? あいよ」一回、ボタンを外して………はい、もう一度、セーターの中に手を入れてみて。


「あいよ……あ?なんか感触が違う」はい、ぎゅーっ。


「……ッ!アンタまさか」うん、いまよーくんの手は、お姉ちゃんの胸の谷間に挟まってるの、お姉ちゃんが服の上から胸を圧迫してるから暖かいでしょ?


「バッ!何してんだッ」あ、待って。動かしたら下着が壊れちゃう。


 よーくんはお姉ちゃんに下着なしで下校しろと言いたいの?


「マジで勘弁してくれ、こんな所誰かに見られたら……」いいじゃない。きっと仲の良い姉弟みたいって思われるわ。


「姉弟でもこんな事しねーよ!」じゃあ、きっとバカップルって思われるわ。よーくんと私、なんだかお似合いね。


「もういいよ……疲れた」そう?お姉ちゃんの勝利、やったわ。


 ついでにもう片方の手も「しねーよ」しないの?


 じゃあ、これでおしまいね。


 残った冷たい手は……お姉ちゃんの手で温めてあげる。


 帰りましょう?あさがお寮に。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る