多禮千年世編
第一話 多禮千年世編・始まり
ねえ。
ねえ、ねえ。
……ふふ、呼んでみただけ。
貴方って、良く眠るんですもの。
まるで、死んだみたいにね。
だから、少し心配になって。
起こしてみたくなったの。
「あんた、誰?」なあに?それって冗談?
私は多禮、
貴方の先輩で、貴方の幼馴染。
そして貴方を誰よりも大切に思う女の子。
忘れちゃった?それとも、やっぱり冗談?
「そうだっけ?」そうよ。可笑しい事を言うのね。
もしかして記憶喪失とか?お昼寝で記憶を失うなんて、穴の空いた風船みたい。
貴方の名前は、分かるかしら?
「俺は、八峡、義弥」そう、八峡義弥。
人が居る前では、私は貴方を義弥くんと呼んで。
そして誰も居ない場所では、よーくんって呼んでる。
貴方も私の事を、ちぃ姉って、呼んでくれるでしょ?
「そう、か……そうだった」えぇ、そうですとも。
私も貴方も同じ学園の生徒で、お昼ご飯を食べた後にお昼寝をしてたの。
「悪い、膝枕……」別に良いの。私がしたいから、そうしただけだから。
昔と違って体は大きくなったけど、貴方の頭を撫でる感触は、昔と変わらない。
「感触?」えぇ、貴方の髪は少し硬いけど、私の手に良く馴染む。
逆に聞くけど、私の膝枕の感触はどう?
「膝枕……いや、分からん」そう?柔らかいとか、滑らかだとか。
あとは……黒タイツが妖艶、女の匂いで興奮する、とか。
「それ言う奴は変態だろ」そうね。でも私は貴方の匂いが好きよ。
興奮、とまではいかないけど。懐かしい匂いがするから。
長閑ね、ずっとこんな時間が続けば良いのに。
「そうだな……」……あぁ、本当に、良い天気………。
――キーンコーンカーンコーン………――
……そろそろ、時間ね。
お昼休みが終わったらお仕事があるから。
名残惜しいけれど、今は少しだけ、我慢をしましょう。
さあ、立ち上がって。お仕事を頑張らないと。
けど。お仕事を始める前に。
よーくん。はい。
「……両手広げて、何してんすか?」これも忘れたの?
ハグ。抱擁。つまりは抱き締めて。
貴方の匂いを覚えていたいから。
貴方の体温を感じていたいから。
だから、よーくん成分を補充するの。
「……」なあに?その目。いつもやってる事なのに。
もしかして、引いているの?悲しいわ。
泣いちゃうかも知れない。ぐすんぐすん。お姉ちゃんを泣かして楽しい?
「すいませんすいません、すんませんした」悪かったと思うなら、行動で示してちょうだい。
「はいはい……これでいいすかね?」だめ。もっとギューってして。
「こんな感じすか?」んー……よーくん。あったかい………。
んーーー。……………。――――。
「長いな」んー?もう大丈夫。
ありがと。よーくん。これで午後も頑張れるわ。
よーくんも、一緒に居てくれたらお仕事も捗るのだけれど。
「仕事って、何をしてんすか?」知らないの?
私、生徒会の会長をしているのよ。
生徒会長・多禮千年世。
よーくんも、生徒会に入る?
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