第3話 霊山禊編・学園生活一か月目

 

 八峡様。


 こんにちは。


 今日も良い天気ですね。


 八峡様はこれからお仕事ですか?


 ………仕事から帰って来た所でしたか。


 これは失礼を。お疲れでしょう。本日は挨拶だけで、また後日改めさせて頂きます。


 ………いえ、別にこれと言った用事はありません。


 あの、少し、お話などが出来れば、と思いまして。


 はい、先日お貸しした、小説のご感想などをお聞かせ願いたく………。


 そんな、睡眠を削られては困ります。八峡様の体は一つしかありません、この程度の事でお体に支障が出てしまっては………。


 ……この程度で俺の体が壊れるか? それは痩せ我慢と言うものです。


 ですが………ぇと、本当に、よろしいのですか?


 でしたら、落ち着ける場所に移動しましょう。休憩室が近くにありますので、お茶でも飲みながら雑談を。


 ………………。


 八峡様、飲み物は何に致しますか?


 ココアですか。暖かいのにしますか?冷たい方ですね。分かりました。


 八峡様?え、私の飲み物ですか?……私は喉が渇いてないので……。


 ………遠慮はしてないです、あの、りょ、緑茶ですか。


 ………………。


 緑茶が気に入らなかった訳じゃないですっ。ただ、私の我儘に付き合って下さるお礼に好きな飲み物を差し上げようと………。


『女に奢らせる野郎が居るか』、だなんて。


 あの、……ぁ。ありがとう、ございます。


 私、八峡様と出会った頃から、少しずつ変貌していますから。女性として見られる事に、少しだけ嬉しさを感じてしまいます。


 頬が赤いですか?みないでくださいッ、恥ずかしいじゃ、無いですか………。


 ……そうですね。折角お時間を取らせて頂きましたし、雑談をしましょう。


 私がお貸しした「空絵」は胸を締め付けられる描写がありますが、最終的には主人公が救われるお話です。けれどその救いは他者の視点から見れば不幸ですが、彼にとっては幸福であり充足を得ている。


 特に人を殺した所から暴動に紛れ込む描写は思わず背筋がぞくりとしてしまうシーンでした。


 八峡様はどうでしたか?


 …………成程、主人公の方が気に入らない、ですか。確かに、如何に子育てによる疲れや支援の打ち切りによる精神の疲労であっても、妄想の肥大化によって他者を傷つけるシーンは好まれません。


 …………「君たちには理解出来ないだろう。それが差別だからさ」『この台詞だけは気に入った』、分かります。小説としての「空絵」を表している言葉ですよね。


 ………………………。


 クスクス―――こうして雑談が出来る事に、幸せを感じてしまいます。


 八峡様。


 宜しければまた、こうして雑談の機会を持ち寄ってもよろしいでしょうか?


 ありがとうございます、八峡様。


 今後は、貴方との会話が私の幸せとなると思いますので。


 貴重なお時間を割いてくれた事に感謝を。



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