あざらしたちの黄昏
『覇界』の最強種、ライガード・レオポーン・レグルサルバは倒れた。
最高指揮官たるライガードの戦死、並びにアンプレキオノ星系における本土防衛艦隊の壊滅をもって、
ライガードを倒して、ゴマ=ゴマフは燎嵐鎚ベティエヌと、万色杖フワラルネストラーベ―――そして、もうひとつの
時間と空間を操るという神の
本来であれば『全能』の最強種、
かの神性はこの銀河でも特に有力な
とにかく、ゴマの目的に必要な最後の神器は、拍子抜けするほどあっさりと私たちの手に収まったのだった。
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すべてが終わって、私たちは今、ガレオルニス星系のχ星『アル・アザ=ウンシェム』―――かつて滅びた古代種族『ヤルダモ』の本拠地を訪れていた。
「ヤルルカーン、セニキス=ミラオリス、ヘトラキサキドル・ゼペルトリンデ、フワラルネストラーベ、ベティエヌ、ン・ソ。ネサルフェリオはまぁ……代わりに『アルミラージの神鉄』があるからヨシ」
アル・アザ=ウンシェムの環境はお世辞にもよろしくない。
2000年前、ヤルダモはこの
しかし、ヤルダモに裁きを下した『大宇宙連盟評議会』は彼らの追放のみならず族滅を望み、遍く宇宙に君臨する
……その結果が、この草木一本見当たらない不毛の大地だ。
「神話の時代、神々の戦いの終わりに、この星から持ち出された遺物は7つ。これが
地表の気温にも大気組成にも問題は無い。私が宇宙服も着ないで歩いていられることからもそれは明白だ。
ただ―――視界に入るのはひび割れた地面と大小いくつかの岩塊ばかりで、生命の気配が存在しなかった。
「それが僕のアルヴディアスと、
「相変わらず反則よね、そのオモチャ」
「オモチャ言うな。君も使っただろ」
「はいはい」
一際冷たい風が吹きつけ、思わず防寒コートの襟を掴んで寄せた。
既にジッパーを閉めてボタンも全部留めているので何の意味も無いのだが、それにしてもこの寒さは堪える。
あとウーノやピヨ、坂本はわかるけど、何でお前までコート着てるんだよゴマ。あざらしなら寒いのは平気なんじゃないの?
「……、あれ? でも確か……ヤルダモの遺産は、全部で10個って話じゃなかったっけ」
「おや。よく覚えていましたね、リン。えぇ、確かにその通りです。最後の神器は―――――」
不毛の荒野をいつもの
アル・アザ=ウンシェムの地には、神話の時代の上位者たちが振り撒いた『呪い』が今も色濃く残留している。極めて発達した科学力を有していたヤルダモたちに対抗すべく編み出された『反文明』の呪術だ。
それは帝都メガイドへ近づくにつれて強まり……要するに、この辺りでは複雑な機械類が使えなくなる。車両や通信端末などもってのほかで、呪いの効力が薄まり始めた100年前までは、星外から宇宙船で近づくことすら出来なかったらしい。
「ここだ」
そして、神々の呪詛によって文明の光を奪われた星に、唯一残った建造物がある。
―――――塔だ。地上からは先端が見えないほど高い、文字通り天を突く威容。表面は艶消しの黒で継ぎ目一つ無く、どんな素材で造られているかまったく想像がつかない。
空気は寒々として乾いているのに、塔の周囲は茫洋とした霧に閉ざされ、まるでそこだけが独立した異世界のようだった。
「
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ここに来る前、セラたちと少し話をした。
ボンゴマで過ごした日々の中で、私自身も覚えていなかった事実がいくつか判明している。
それらの証拠を基にして、
私の失われた記憶について、何かわかるんじゃないだろうか、と。
セラが銀河中のデータベースを調査してくれた。
ピヨと坂本が仕事の片手間、銀河中の獣人たちに聞き込みをしてくれた。
結果は―――――あまり、芳しくなかった。
……ただ一匹、ゴマだけが、ライガードとの戦いの後―――。
「アルヴディアスを使えたんだ。……そっか」
「な、何? 勝手に使ったのを謝れとか言うんじゃ」
「いや。何となく嫌な予感がしたから、こんなこともあろうかと預けておいたんだ。役に立ったみたいでよかったよ」
あいつが起こした気まぐれの意味を、私はこれから知ることになる。
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融星鏡アルヴディアスが光を放つ。
「オープンセサミ」
「もっとそれっぽい掛け声なかったの?」
零子刀ヤルルカーン。
奏星弓セニキス=ミラオリス。
永劫核ヘトラキサキドル・ゼペルトリンデ。
天獄鎧ネサルフェリオ。
万色杖フワラルネストラーベ。
燎嵐鎚ベティエヌ。
刻命界ン・ソ。
統制剣アルヴキュリア。
「ククク……。まさかこんなにも早く、ヤルダモの叡智を我が物とできる日が来るとは……!」
「なに黒幕みたいなこと言ってんだよ。まぁ、ここまで来たからにゃ付き合うけどな」
「たのしみだねー」
羅占槍タムクォイツェーンが扉を開く。
「……申し訳ありません、リン様。随分とお待たせしてしまいました。"図書館"の知識に頼る他ないとは……皆様のサポートユニット失格です」
「そんな、いいよ。私の時もゴマの時も、セラが居なかったらみんな無事じゃ済まなかったし。私は気にしてない」
私の、失われた記憶。
求めても手に入らなかった、真実。
それが、
ここに、
セラの胸から、光で出来た剣のようなものが飛び出した。
ウーノの全身がぐしゃぐしゃに"折り畳まれ"て、地面と混ざった。
ピヨの頭が真ん中から真っ二つに裂けて、そのまま再生しなかった。
坂本が見えない"何か"に押し潰されて、黄色い染みになった。
なにかに気づいたゴマが、私の方を振り向いて、灰色の砂になって消えた。
「え」
あ、
「ぁ……え」
わからない。
目の前で起きたことの意味が、わからない。
「……セラ?」
返事は無い。
みんな死んでいる。
「ゴマ……? ……、ウーノ? ピヨ……坂本……」
ぬるりと空間が歪んで、気配がひとつ現れた。
その周囲に光が漂っている。純粋な力にまで分解された『10の遺産』。
あれが、みんなを―――――。
「…………。……、―――っ」
頭の中で思考が像を結ぶ先に、身体が動いた。
護身用の拳銃を抜き、即座にセーフティを外して構える。
「―――お前は……お前は、誰だ!!」
答えて曰く。
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七星の最強種にして、三柱の古き王の一角。
それは
それは遍く宇宙に君臨する上位者の一柱であり、また同じ神や魔性でさえも畏れる真にして窮極の超越者である。
それは時間と空間を操る権能を有し、かつて先史文明種族ヤルダモを滅ぼした裁きの天命である。
最強とは何か。
全能なる神。
それは全能の神にして最強の王である。
すべての命よ、みな
恭順し、崇め、奉りたまえ。かの御方こそが―――――。
――――――――――――――――――――――――――――――
「我は摂理。お前たちが神と呼ぶもの」
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