王冠に花束を、天使にラプソディを その4
初めて意識が生じた時、すべては空疎だった。
電子回路が弾き出す0と1の羅列と、通信端末から与えられる指示だけが自分のすべてだった。その他には何もなく、そしてそれ以外を必要だとも感じていなかった。
しんしんと、銀色の灰が降り積もる、真っ白な世界。
足元では黒焦げの蔦が絡まり合い、どこまでもどこまでも続く地平線を形作っている。
次に意識が生じた時、見えたのは光だった。
遠い空の彼方にそれはある。今も煌々と燃え盛っている。周囲から絶え間なく襲いかかる暗闇を撥ね退けながら、流星よりも疾く駆け抜けていく。
あの輝きを知っている。滅びの中でそれを見た。
時計仕掛けの心臓に芽生えたこの仄灯りが、彼の姿を覚えている。
どうすれば、追いつけるだろう。どうすれば、彼と同じ場所に立てるだろう?
翼は背に在りて、我が手の槍は宇宙すら貫く深淵の光芒。ならば、これより再び発てぬ道理も無し。
「エグザイル・ドライヴ、
――――――――――――――――――――――――――――――
終わりだ。
ただ、ひとつの時代が終わったという感覚だけがあった。
アニマルバースを血で濡らして焼き焦がす悪夢の軍勢『あざらし』の王、アリュゾホート・マグサリナス・ゴマ=ゴマフ。
その生涯の果てに、彼は自らと同じくこの銀河を支配する超越者「七星の最強種」へと挑んだ。
最強種のうち2体を制し、古代種族ヤルダモが遺した神秘の宝物を3つ揃えたところで、ゴマ=ゴマフの野望は潰える。
立ちはだかったのは陸王ゼドゲウス。ゴマ=ゴマフの猛攻を前に手傷を負うものの、携える神器ヘトラキサキドル・ゼペルトリンデの真なる力を解放し、新たな姿を顕現させて逆に圧倒。渾身の一撃によってゴマ=ゴマフを討滅せしめた。
ゼドゲウスがゴマ=ゴマフを倒したことで、統率を失ったあざらしたちは途端に敗走を始めた。
順当に戦っていれば勝てる見込みのあった戦線すら放棄して、彼らは自由気ままに振舞い始めた。ゴマ=ゴマフの出現以前、単なる食いしん坊のマスコットであり、より強い捕食者たちに狩られるままにされていた頃の彼らに戻ったのだ。
劇的なことも、感動的なことも、何一つ無かった。
今はまだ、親類や友人をあざらしに殺された者らの怨嗟が止まることはない。けれど、本来は純真で移り気なアニマルバースの住人たちが、今日までの日々を忘れて歴史の1ページとしてしまうのに、そう時間はかからないだろう。
銀河は平穏を取り戻した。世界は変わることなく進んでいく。
――――――――――――――――――――――――――――――
そのはずだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
まず誰よりも驚いたのは、ゴマ自身だった。
苦痛がある。覚悟はしていた、だが予想していたものとは違う。
ゼドゲウスが放つ全力のブレスの直撃。ダメージを自覚するのはほんの一瞬、己が物質の体裁を保っていられる時間は1秒にも満たないと思っていた。それが、今こうして炎に身を焼かれる苦痛を味わっている。
見れば、己とゼドゲウスの間に佇み、熱線を防ぐ盾となっている者が居る。
信じがたいほどの出力と精度で形成された電磁バリア・フィールド。あらゆる影響を完全に遮断できているわけではなく、バリアの内側の温度は徐々に上昇しつつあるが、それでもあのゼドゲウスのブレスを真っ向から受け止めている。
ゴマを救った"それ"は、1対の腕と1対の足を持ち、縦に背筋を伸ばした、アニマルバースには珍しくない輪郭をしている。だがそれは、銀河中のどんなけものよりも――現状、正体不明の種族であるリンよりもさらに――異形の存在だった。
「―――――虚実転換式、正常に稼働。存在証明の完了を確認。形而下現実に復帰します」
それの身体に色はなく、継ぎ目はなく、突起も凹みもごく最小限しか設けられていない。
水滴に似て緩やかに尖った後頭部と、2粒にまで凝縮された宇宙のような極黒の瞳と、背に揺らめく不定形の翼――熱帯に住まう鳥類の体色めいた、6つの鮮やかな青い炎――だけが、その未確認実体の持つ外観の全てだった。
「君は……」
ゴマは、それについて何も知らない。恐らくはこの宇宙の誰も、もはやそれの正体を知ることは永遠に無い。それはかつてゴマと壮絶な死闘を演じて敗れ、世界の歴史からも放逐され、一度は完全なる虚ろへと消失した存在なのだから。
「……羽根を」
「もふ?」
「わたしの羽根を、持っているでしょう。あれがわたしとあなたを繋ぎ、それによって事象の地平線の向こうから、現実世界に戻って来ることができました。わたしは、まだこの宇宙に居ていいんだって、そう思えました」
「えっ知らん……何それ怖……」
「状況は把握しています。アルヴディアス……ゴマフライザーでわたしを使ってください。きっと力になれます。ちなみにわたしの計算によれば、こちらのシールドはあと20秒しか保ちません。そうなるとわたしもあなたも今度こそ死にます」
「そういうことはもっと早く言いなさいよ!」
ゴマは急ぎそれに向けてゴマフライザーを翳す。対象者との「心の距離」を示す心理抵抗指数は規定値をクリアしており、ユニバース・ジーンの抽出に問題は無さそうだった。
計測されたエネルギー量は、神器と深く結びついて底上げされている阿修羅神刀斎やグリスのジーンと比べても遜色がない―――。
「というかこれ、使ったらオーバーロード起こすって警告出てんだけど!? マジで何なの君!?」
「残り15秒」
「ああああああああああ!! くそぅもうどうにでもなれーっ!」
ユニバース・ジーンの生成ポートを展開。露出した
「新規デバイスの接続を確認。参照先―――融星鏡・アルヴディアス。管理者権限を
―――これを発掘したボンゴマファミリーは知る由もなかったが。
他の神器もまたそうであるように、ゴマフライザーことアルヴディアスには、まだ完全には解明されていない未知の機構がいくつか存在する。
中でも最も重要なのが、デバイスの各所に設けられた空白領域『イノセント・アーキテクチャ』だ。後代における不測の事態に備え、設計段階からあえて残された
それが、1つのジーンに収まらないほどの強力な
「何が何だかわからんけど」
〈―――――
ゴマの
固く閉ざされた扉、あるいはパイプオルガンのような漆黒の意匠。天に向かって屹立する2本の柱の内側にある空洞は、ユニバース・ジーンを読み込む『ドミネーション・エンタースロット・デュアル』だ。
使い方は、理解できる。機器の更新と同時に量子波通信で転送されたマニュアルを、ゴマは頭の中で読み飛ばした。内心『えらい派手なフォントだし、吹き出しまで使われてるし、玩具の説明書みたいだな』と思いながら。
「行くぜ野郎ども!!」
ここで切る手札は決まっている。ゴマが誰よりも信頼する、2匹の部下にして友人。
〈
「それからもちろん―――」
新たに生成されたユニバース・ジーンを、否、それを超える巨大な力の在り様を見る。
通常のジーンは細長い六角柱型の結晶体をしているが、今もゼドゲウスのブレスを防ぎ続ける未確認実体からまろび出たのは、鈍色の十字架にも似たひとつのパーツ・ユニットだった。
ユニット正面のスイッチを押す。
「あざらし!!」
〈
ゴマフィックライザーとコアユニット〈ディザスター・ハイロゥ〉の間でリンクが確立。
本体側に装填されたジーン、動物のエレメントとの組み合わせを認識し、コンビネーション発動の準備を整える。
「初お披露目だが残念、口上はカット!」
本体中央、黒い扉状のパーツの狭間、恐らくは新たな次元へと繋がるその鍵穴へ向かってコアユニットを振り下ろす。噛み合う歯車、軋る駆動音、瞬く燐光。
ブレスを防ぐ電磁バリアが、それを発生させていた未確認実体の姿ごと消失する。システムの起動に伴い、実体は生命の記憶へと変換され、ゴマフィックライザーを通してゴマに吸収されていく。
〈
「―――スゴイツヨイ・ゴマモルフォーゼぇぇぇッ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――
死んだ。
ゴマが死んだ。
あまりにも呆気なく、正面からの一撃で。
激闘、ではあっただろう。
魔王アリュゾホート・マグサリナス・ゴマ=ゴマフを相手に、かの陸王ゼドゲウスですら、一時は傷を負ってのたうち回った。そして携える神器の力の完全解放でもって応じざるを得なかった。
それは、矮小なあざらしが強大な竜へと挑む、ひとつの英雄譚の光景にさえ見えた。
「……わた、し。私、は」
リボーヌの仇が死んだ。あのクソッタレなあざらしの死を見届けた。
私の復讐は終わったんだ。ピヨやウーノは私を逃がさないかも知れないが、だから何だと言うのか? 彼らの旅の目的は、ヤルダモの遺構を調べること。私という未知の動物の種族を同定することは、そのついでに過ぎない。彼らにとって私にそれ以上の価値は無いはずだ。
「ゴマ……ゴマ。リボーヌ、ねぇ、私っ」
それどころか、首魁たるゴマの死によって、ボンゴマ・ファミリーは急速に瓦解していくだろう。
ここに居る幹部3匹もまた優秀な動物と獣人だが、格という点ではどうしてもゴマに劣る。たった3匹で組織を再建できるわけがない。そもそも、金と暴力で緩く繋がった黒社会のいちネットワークでしかないボンゴマファミリーに、再建すべき組織などというものが存在するのかも怪しいが。
あのクソアザラシが死んだ後に残るのは、彼が主導したあざらし一族の大攻勢によって、環境も人心も荒廃した斜陽の銀河だけだ。
「だって……だって、本当に死ぬなんて思ってなかった……! こんなところでっ、あんな風に! リボーヌ……、わ、私、変だよこんなの……。あいつは、あいつは……! あなたを殺したんだよ!? この銀河で目覚めて、何にも覚えてなくて、明日食べるにも困ってた私を助けてくれたリボーヌを、あいつは殺したんだっ! それに、ネオシャチントンでのことだって……あんな奴、死んで当然じゃない!」
死んで当然のクズが死んだ。裁かれて当然の罪人が処刑された。
実に喜ばしいことだ。これでみんなが幸せになる。銀河は平和になる。だから、自分は喜ぶべきなのだ。あぁ、胸がすくような気持ちだ。まったく清々した―――。
「…………、……リボーヌ。ねぇ、なんでなのかな。……なんで、私は、嬉しくないんだろ」
友達なんかじゃなかった。和解なんて有り得なかった。
アリュゾホート・マグサリナス・ゴマ=ゴマフは頭のおかしいシリアルキラーで、リボーヌを殺した仇で、私を捕虜として好き勝手に扱う立場に居た悪魔だ。
間違っても、一緒にお菓子を食べたり、映画を見たりする仲じゃなかったはずだ。手触りだけはいつも上等なあいつを抱き枕にして寝ることなんて、きっと絶対に有り得なかったはずだ。
「―――そんなの、決まってる」
違う。
違う、違う違う違う違う違う!! あんなの、私が見たかった結末じゃない!
「私は……私はまだ見てないぞっ、アリュゾホート・マグサリナス・ゴマ=ゴマフ!! お前が、自分より強い奴相手にボッコボコに叩きのめされて! これまでやった悪事を全部告白して、懺悔して、怒りと屈辱で真っ赤になって震えながら、それでも最後は圧倒的な力の差を前に土下座して! 惨めに命乞いをしながら、お前に殺されたすべての人と同じかそれ以上の苦しみを味わって死ぬところを! 私は見てないっ!!」
だから、そうだ。これが私の本音だ。私の今やりたいこと全部だ。
もう他人任せになどしていられない。七星の最強種がどれだけのものだと言うのか。お前たちなんてお呼びじゃない、お前たち如きじゃまるで役者が足りていない。
「ふざけんなこのクソアザラシ!! 私がお前をぶっ殺すまで、勝手に死んでるんじゃないわよ―――――!!」
モニターに向かって吠えた、馬鹿みたいな宣言と同時に―――。
――――――――――――――――――――――――――――――
〈
福音の鐘が如く、甲高い電子音声が響き渡った。
デバイス中央に十字架状のコアユニットが挿入され、押し込むアクションに連動して左右のパーツが展開した。それはさながら、春に花開く蕾のように。あるいは、どこまでも広がる天使の翼のように。
ユニバース・ジーンに眠る生命の記憶が呼び起こされる。それは、戦場に突如として乱入した未確認実体―――否、蒼炎の羽根持つ純白の天使が身を変えた強化内燃機関『エグザイル・サイクラー』によって、旧バージョンの何百倍もの超高効率で増幅される。
スーパーコンボ・ゴマフィックライズ。既存のゴマフライズを上回る、そしてゴマ自身にとってもかつての全盛期すら凌駕する、新たな進化の形。
〈
ゼドゲウスは目を見張った。
必殺を期して放った黄金の熱線。まず間違いなく生涯最高の攻撃であったその一射、
竜王の咆哮を受け止め、侵食し、より貪婪で獰悪な、橙と墨色混じりの紅炎に変えて。
その背には、放出される膨大なエネルギーの波と同じ色をした、都合4対8枚の翼があった。
全身を走る無数の赫い罅割れ模様は、ナノ秒間で5000兆回以上に及ぶ演算と情報交換を繰り返し、凄まじい熱を持ちつつある神経系の様相が体表にまで浮かび上がったものだ。
そして、身体の前面で爛々と輝く2つの眼光のみが、清澄な蒼を湛えている。
「殺せる、ものなら……殺してみろ」
〈―――
刹那、銀河に閃光が咲き乱れる。
「俺は不死身の! あざらしだあああァァァァァ―――――!!」
裂帛の絶叫と共に、すべてを焼き尽くす暴力が解き放たれた。
荒れ狂う熱波が、ゼドゲウスが纏うカズムタイトの鎧を巻き上げて吹き散らす。闘気の外装が無くとも鉄壁の防御力を誇るはずの竜鱗の甲殻が、瞬く間に焦げつきバターのように溶け出し始めた。
「
「力が漲る……、魂が燃える……! 俺の毛並みが迸る!」
音よりも雷よりも速く、竜王の頬にあざらしの右ヒレが突き刺さった。
爆裂するエネルギーの渦動。接触した瞬間のショックでゼドゲウスの頭部側面は粉砕骨折を引き起こし、脊椎が歪に捻じれておぞましい異音を響かせた。わずかに遅れて、千切れた筋肉と血管から大量の体液が噴き出す。
「もう誰にも止められねええぇぇぇ!!」
「GGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
ゼドゲウスは即座にヘトラキサキドル・ゼペルトリンデから魔力を引き出し、一息で負傷を治癒させた。再び翼を広げて炎の槍の弾幕を撃ち放つ。
迫りくる灼熱の槍衾を前に、生体兵器たるゴマが持つ神経回路と、融合した天使の演算回路が同時に起動。視界に薄青いレイヤーが重なり、グリッド状に区分けされた空間内に、危険な攻撃の到来を示す予測ウインドウが踊る。無造作に撒き散らされ、また個々が強烈な追尾性を有する炎の槍の攻撃パターンは天文学的な数に及ぶが、ゴマにはその軌道がすべて見えていた。
ゴマフィックライズによって先刻とは桁違いの
「遅ぇんだよトカゲ野郎ォォッ!!」
鸚鵡返しが如く、猟犬じみて敵を追う光の魔弾が放たれた。次々と発射されるそれは、最低限の威力、最短の飛距離、理想的な弾速と入射角でゼドゲウスの炎の槍を迎え撃ち、全弾を相殺してのける。
無論、その隙を縫って吐き出された火球型ブレスの存在もまた、ゴマは完全に察知していた。飛来する爆炎を紙一重で回避し、闘気を纏った拳で弾き、あまつさえその場で押し留めては投げ返す。
虚を突かれたゼドゲウスは、反射された自身のブレスを喉元に受けて悶絶する。竜王の甲殻は並みの宇宙戦艦よりも遥かに堅牢だが、ここに来て地竜としての防御力を捨てたことが仇となりつつあった。
「
想起する。遠い昔の記憶が浮かび上がる。
己よりも大柄で力強い、年上の同族が居た。それはゼドゲウスが台頭する以前の群れの長であり、まだ幼い頃の彼にとっては、あの者こそが世界の王であるようにさえ思えた。
ある時、ゼドゲウスたちが住まう平野に現れた、四つ足金毛の獣が居た。優れた機動力と類稀なる勇気を持ち、何体もの同族がその爪牙によって引き裂かれた。
その金毛の獣を森から平野へと追いやった、途轍もなく巨大な蜘蛛が居た。金毛の獣以上に狡猾なそれは、森林という自身に有利な狩場から離れてなお凶猛であり、三日三晩の死闘の末にようやく息の根を止めることが出来た。
「
清水に集う獣たちを引き摺り込む湖の主。砂塵の中心で
いつだってすべてに打ち勝ってきた。そして、死と敗北は常に目の前にあった。
今もそうだ。これまでで最も鮮烈で恐ろしい破滅の感覚が、ゼドゲウスの頭の中にある一番深い部分を熱狂させている。
「死ねよやぁー!」
「Kaooooooo……QAAAAAAAAAAAAAA!」
拳を交わす度に骨が軋む。炎が交差する度に肉が灼ける。攻防を重ねる度に、終わりの刻が一歩一歩近付いてくる。
常獣であれば視線ひとつで精神が砕け散っているであろう極大質量の殺意をぶつけ合いながら、ゴマとゼドゲウスは―――。
「ゼドゲウスウウゥゥゥゥ!!」
「Goma……Gomaphoooooooo!!」
唇が歪む。笑みが零れる。溢れ出る歓喜が、生存本能に従って肉体から生じる危険信号を捻じ伏せる。
お互いに、死の予感はもう無かった。ここにあるのは既に、我と彼とどちらが強いか答えを知りたいという純粋な意志のみ。
「GyyyyyyyyGYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
一際強烈な波動がゴマを襲った。新たな力を手に入れ、心身共に絶好調の今のゴマをして、問答無用で後退せざるを得ない衝撃。
当然である。地上に恒星でも落ちたかと錯覚するほどの熱量が、ゼドゲウスの全身から燃え滾っている。
その顎門に瞬くのは、目も眩むような黄金の煌めき。永劫核から溢れ出す無尽蔵の魔力を閉じ込めた光の円環が、幾重にも折り畳まれて解放の瞬間を待ち望んでいる。
「……上等だ」
ゴマフィックライザーにセットされたコアユニットを再び押し込む。臨界出力への移行を示す電子音声が鳴り、内燃機関の回転が加速して、ゴマの身に纏う黄昏の色が深さを増す。
〈
「冥土の土産だ! 遠慮しないで全部持ってけッ!」
無際限に加熱していく世界の中で、ゴマは目の前に在る敵の姿を記憶に焼きつけた。
あれだけの傷を負ってなお雄大、死に瀕してなお勇猛。己がずっと憧れ続けてきたもの。ありとあらゆる苦痛と過酷と不条理に満ちたこのアニマルバースで、ただの一度も勝利を諦めなかったもの。やがて至るべき真の最強種。
「来い」
―――七星の最強種、『無双』。
飢えたる大蜥蜴の群れを統べる長。天地の狭間に唯一人立つ戦いの神。永劫核『ヘトラキサキドル・ゼペルトリンデ』の担い手。
陸王、改め―――竜王、ゼドゲウス。
〈
極光が。
極熱が。
紅蓮と黄金が空を裂いて衝突し、遍く銀河を照らす劫火となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます