ポップ・ポップ・サテライト その4

「ぴぴーん。ピヨはセルフで不死鳥の羽根を使った。ピヨが復活した。ぴぴーん。ピヨは不死鳥の羽根を使った」


「サカモトがふっかつした!」


「なんで!?」


 説明しよう! 以前にも少しだけ紹介があった通り、ピヨは第11銀河の希少種族『ファルネクス』の1羽なのだ!

 ファルネクスは我らが超進化生命体・あざらしをも上回る桁外れの生命力を内包しており、事実上の不老不死の種族として知られている! また、時と場合によってはその溢れんばかりの生命力を分けてくれたりするとの伝説がある!

 しかし、不老不死の実現を目論む輩は宇宙中に掃いて捨てるほど居た! 近年は密猟者によって乱獲の憂き目に遭い、元々あまり子供を産めない種族であることも重なって絶滅の危機に瀕している!

 捕獲されたファルネクスがどんな風に扱われるかはよくわかってないけど、本来は不死のはずの彼らでさえ死んでしまうのだから、どんな酷い環境に置かれているかなんて想像したくもないね!



――――――――――――――――――――――――――――――



「ゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマ!!」


「クマクマクマクマクマッ、ぐ……!? クマァッ……く、うぅっ……!!」


「ゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマ!!」


 ―――ここに来て。

 まだ、速くなるのか。まだ、強くなるのか。まだ、重くなるのか、この拳が!?

 オリジナルであるブリオンの装甲にこそ劣れど、並みのアザラシの攻撃ならば100発受けてもダメージを通さない最上級品の対海豹特殊防弾装甲服アンチ・ゴマフ・タクティカル・アーマーが、シュレッダーで裁断される紙切れの如く引き千切られる。

 あの陸王・ゼドゲウスの竜鱗にすら傷痕を残したこの爪が、ヒレの1枚も奪うことが出来ない。


「ゴマッ!!」


「がぁ!?」


 顎下から一閃。視界が激しく明滅し、張り詰めていた神経の糸が強引に寸断される音がした。


「ゴマ!」


「ごふっ」


 緩んだ鳩尾へ真っ直ぐに左ストレート。正面からの不意打ちにも等しい剛撃が、俺の肉体を内側から蹂躙する。あまりの衝撃に一瞬だけ意識が復旧し、また即座に混濁状態へと引き戻される。


「ゴマアァアァァ!!」


「うごあァッ……!」


 辛うじて認識できたのは、奴が後転に近い動作から、全身のバネを使って飛び跳ねた瞬間。大地から飛翔して、両後ヒレを用いた全霊の蹴り上げ。

 どれだけ甘く見積もっても800㎏以上、奴と俺の間には厳然たる体重差があるはずだった。

 だが現実はどうだ。俺の身体は10mほども宙へ浮き、何秒間も空に留まってから思い出したかのように重力に掴まった。そして落下していく先には当然、俺をスーパーボールめいて空へと放り出した張本人がいる。


「無駄無駄無駄無駄ァァァッ」


 ついさっきまで膠着していた戦況に対する鬱憤を吐き出すかの如く、地獄の暴走特急が疾走し始めた。

 殴打。殴打。ひたすらに殴打。致命の剛力を秘めたヒレの連打が、外皮と筋肉を貫いて内臓の奥深くにまで浸透してくる。


「ゴママママァ!! MOFUUUUUUUN! キェアアアアアアアアァァァァアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!」


 もはや痛みすら曖昧になり、俺は徐々に拉げ崩れていく自分の四肢を、どこか現実感の得られない視線で見つめていた。

 アリュゾホート・マグサリナス・ゴマ=ゴマフの攻勢はいよいよもって最高潮を迎え、尚も回転数を上げる拳撃の嵐が暴れ狂う。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ゴマ無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ゴマ無駄ゴマ無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ゴマゴマゴマゴマゴマゴマ無駄無駄ゴマゴマ無駄無駄無駄無駄ゴマゴマゴマゴマゴマゴマゴマGOOOMAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――――!!」


「クッマーアアアアァアァァアアアアアアアア」


「―――ゴマアァッ!!」


 完璧な角度で叩き込まれたフィニッシュブローが、胸板を突き破って心臓へと直撃する。発揮されたパワーは打撃の瞬間に収まり切らず、さらなる破壊力となって五体を駆け巡り、俺の全身をズタズタに切り裂いてからようやく虚空へと拡散していった。

 もはや血液が噴き出していない部位を探すのも難しい。真紅にまみれた視界を躍る、生白い石の欠片のようなものが、折れ砕けた自分の牙だと気付くのにしばらくかかった。


(あぁ…………。これは……死んだな)


 ……そういえば。自分の血を見るのは、一体いつぶりだっただろうか。

 記憶にある限り、喧嘩の類で後れを取ったことは生涯一度も――まさに今この時を除けば――無い。

 軍人となって戦いが日常に変化してからもそれは同じだ。いま戦っている、否、もはや勝者となった白皙の魔獣と同じ、あのアザラシどもに対してすらそうだった。

 奏星弓を手にしてからは、些細な生傷ひとつ作らぬまま、ただ返り血ばかりを浴びてきた。


(でも、やっと逝ける。母さん、父さん……ベアッカ……。……みんなの下へ)


 ようやく。

 ようやくだ。

 最強種に列せられたけものの中でも――携える神器の性質ゆえに――俺こそが誰よりも多くの悲鳴を聞き、誰よりも多くの命を奪ってきたという、諦観にも似た自負がある。

 そうまでして得たかったものは何だったのか。しかし結局のところ、俺が心の底で本当に求めていた平穏ものは、この広大な第11銀河アニマルバースのどこにもありはしなかった。

 けれど、そんな現実に煩悶する日々ももう終わる。俺の眼前にて猛る鮮血の救世主サオシュヤント、悪夢の具現が終わらせてくれる。


「……僕の勝ちだ。我が海豹生に現れた、そして我が同胞らの歴史と共に在った、天敵よ」


 ―――そう。そうだ。

 この時を待っていた。



――――――――――――――――――――――――――――――



 とうに割れ裂けた筋肉が、千々に断たれた神経が、ぴくりと動いた。

 太陽が落ちる。どこまでも広がる地平線の向こう側へ沈んでいく。血のように紅い夕焼けが、静穏なる夜の帳に覆い隠されていく。一番星が、昇り来る。

 奏星弓の弦が弾かれた。


「さらばだ……」


 これは、ゴマが殊更に臆病だったわけでも、あるいは驕慢だったわけでもない。

 先刻の一撃において、ゴマは自身の手がグリスの命脈を止めたことを確信している。その程度も見て取れないほど殺戮者として未熟ではない。

 ただ、この強く賢いシロクマの戦士が、何らかの秘策を用意していないとも限らない。地形と状況を利用したベアトラップ、あるいは伏兵……そういったものに対処すべく、残心の構えを怠らなかった。あくまでもそれだけのこと。

 比類なき強敵へのとどめを焦る内心を抑え込み、薄く警戒の色を滲ませながら、ゆっくりとグリスへと近づいていくゴマ。

 そしてグリスには、そのわずかな猶予で充分だった。


「―――――グオアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!」


 天地を震わせる咆哮と共に、五体砕け散ったはずのシロクマが跳ね起きた。

 グリスの脳波と拍動が一定基準値を下回ると同時に、脊椎にインプラントされたナノマシン・ジェネレータが起動。ナノマシンは事前にプログラミングされた指令オーダーに従い、破損した筋肉と神経系を流体金属と光ファイバーに置換、辛うじて輪郭を残していた骨格へと絡みついてグリスの肉体を再構成する。

 闘志、死してなお尽き果てず。己の命をも薪と焚べた無我の境地。ゴマ=ゴマフの超自然的直感すら欺いて、男は自らの責務を全うすべく戦闘を続行する。


「何だとっ……!? クソ、何故動ける!? 何が……お前を、そこまで駆り立てる……!!」


 答える声はない。グリス・ナヌラーク・ポラベラムは既に死亡している。

 生体組織と機械部品がごちゃ混ぜになった身体を動かしているのは、生前に焼き込まれた仮初めの意識に過ぎない。グリスの脳髄は、今やただナノマシンと肉体を繋ぐ情報処理端末としてしか機能しておらず、そこにあった命の真髄とでも呼ぶべきパーツはとうに霧散している。

 だが、万力の如きパワーでゴマを締め上げて離さないそれには、かつて1頭のシロクマだったモノには、確かに偉大なる最強種の遺志が息づいていた。


 ……俺は。


 グリスが仕掛けた極限の賭けは成功した。然らば、これより先に必要となるのは、不滅の悪魔すら殺害し得る絶対の暴力である。

 ―――七星神器セブンス・クェイサーが一角、奏星弓『セニキス=ミラオリス』の真価は、物質的な矢の無きままに光の矢を生み出すこと


 俺は、もう負けない。もう逃げない。何も取りこぼさない。


 抱きすくめるようにしてゴマの総身を押さえつける中、機を見た屍の熊グリスは左腕を宙に掲げた。手首のホルダーに取り付けられたセニキス=ミラオリスから、一条の閃光が遥か上空へと向けて解き放たれる。

 バロライテの乾いた大気に映し出される、満天の星空。明るく、暗く、それぞれの煌めきで存在を主張する星々の中で、一際巨大に輝くものが2つある。

 片方は、バロライテの麗しき衛星・フィフィスフィムスであり―――もう片方は、恐るべきことに


 どんな逆境も覆せるほど強くなってやる。どんな敵も倒せるほど強くなってやる! 

 この俺が居る限り、どんな悲しみも銀河から打ち払ってやる!!

 もう誰も苦しみの中で死なせたりしない! シロクマ族の未来は、俺が守る!!


 奏弓『セニキス』と星弓『ミラオリス』。

 照準器の役割を持つ弓型のデバイス・セニキスによって指定した領域を、一個の小惑星に匹敵する全長を誇る超々巨大衛星砲・ミラオリスの熱線を以て跡形もなく吹き飛ばす戦略兵器。

 天より降り来たり、何人たりとも逃れ得ぬ流星の一射。それが奏星弓セニキス=ミラオリスの正体である。


「ぬおおおぉぉぉぉぉ!! ヤメロー! ヤメロー!」


 奏星弓の完全解放攻撃は、最悪の事態を想定して準備しておいたグリスの最終手段だ。

 出力の加減などは一切考慮していない。事前の試算によれば、バロライテを貫くとはいかないまでも、惑星の全質量の8%を蒸発させ、環境に不可逆的な破壊の爪痕を刻み込む。


 ここで消え去れッ、アリュゾホート・マグサリナス・ゴマ=ゴマフ―――――!!


 ―――七星の最強種、『壊乱』。

 シロクマ=シャチ連邦共和国・宇宙航空軍ガレオルニス星系方面総督。華麗なる無敗の貴公子。奏星弓『セニキス=ミラオリス』の担い手。

 不死戦奴エインヘリアル、グリス・ナヌラーク・ポラベラム。


「ふんぬらばあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「グギャルルルルルオオオオォォオオオオオオオォォォオオオオ!!」


 砲火が奔った。光の柱が突き立つ。

 大気を炙り、雲を燃やし、飛ぶ鳥を塵に還して、地上へ。

 呑まれる。失せる。滅ぶ。終わる。徐々に近付いてくる焦熱の凝塊に、バロライテに生きとし生けるすべての命が目を覆った。


 ただ1匹、この小さなあざらしを除いて。




――――――――――――――――――――――――――――――




「そうか。コイツ、もう死んで……。…それなら!」


 生命のクリスタル、ユニバース・ジーンを3つ取り出す。うち1つには自身の、1つには先刻討ち果たした剣聖とその愛刀の魂が込められており、もう1つは未だ白紙ブランクの状態だ。

 ゴマは迷わなかった。グリスに押さえつけられる中で、ほんの一瞬だけ拘束が緩んだ隙を突いて、ゴマフライザー神器アルヴディアスを構え。


〈Standby〉


 高らかに宣言する。


「あざらし!」


〈GOMA〉


「シャチ!」


SHACHIMITSU鯱光


「……シロクマ!!」


〈―――――G……Rr…―――……E―……――ASE ,―――Combination!!〉


 ゴマフライザーは、担い手が誼を通じた者から力を借り受けるか、敵対した者を打倒して力を奪うことで、その属性を宿したユニバース・ジーンを作出する。

 であるならば、既にグリスの力を、ゴマフライザーにて振るうことが可能なのは自明の理だった。やや反応が鈍かったのは、本来であれば最強種の魂とセットであり、同時に吸収されるはずだったセニキス=ミラオリスが今なお稼働状態にあるからか。

 いずれにせよ、ゴマがやるべきことは変わらない。


「唸れ白波、北海の颶風!」


〈Get Ready?〉


「ゴマモルフォーゼェーっ!!」


 アザラシ、シャチ、シロクマ。

 自然界における天敵。数多の同胞の命を奪ってきた、憎むべき怨敵たる彼らの力を、それでもゴマは受け入れた。

 あざらしは弱く、彼らは強く。何百年の淘汰を、何世代の進化を経ても、その関係は容易く変わりはしない。海に生きると定められた動物でありながら、それでも海はあざらしのものでは有り得なかった。


〈Gomaph-Lize〉


 だから、もし、あざらしがシャチとシロクマを制することができたなら。

 それはまさしく、極圏の海を支配する、絶対的頂点捕食者の誕生に他ならない。


A ferocious凶猛なる maelstrom渦潮が slashes through大海原を the ocean切り裂く! PRIMITIVE PALEプリミティブ・ペイル!!〉


 紺碧の波濤が巻き起こる。それは冷気を湛えてゴマを取り囲むと、たちまち氷雪の結晶を作り出し、やがて極寒の竜巻となって炸裂した。

 ―――――象牙色の体毛が逆立ち、そこへ黒い流線型の紋様が浮かび上がる。電子回路めいて幾重にも分岐するライン・パターンは、最新鋭のステルス機能を備えた巡洋艦にも似通っていた。

 四肢たるヒレは平時の丸みを捨て去って、限りなく水の抵抗を漸減する鋭利な三日月型に。頭頂と喉元に生えた低い鶏冠とさかは、体躯の半ばから大きく迫り出して、それぞれ背鰭と腹鰭を形成している。

 吹雪を纏って降り立ったゴマ=ゴマフが右手に携えるのは、かつてヤルダモによって蒐集された神器の一つにして、銀河最強の剣聖が振るった鬼神の一太刀。


「僕に阿修羅神刀流は使えんが! 剣聖の愛刀、伊達ではないッ!」


 刹那、銀の軌跡が七つ瞬いた。

 零子刀『ヤルルカーン』―――またの名を、鵜羽麒麟村宗。絶対切断の因果を生む魔剣であり、刀の形をした祟り神。

 本来は艶めかしいまでに秀麗な太刀である神器だが、今はゴマフライザーへの吸収を経て、現在の所有者に相応しい姿へと打ち直されている。

 雪華の白とさざなみの蒼に染め上げられた、鯨包丁めいて長大かつ分厚い刀身。未来的な意匠に彩られた片刃のロングソードは、生来とはかけ離れた姿と化していたが、しかし刃に宿る殺戮の業には欠片の曇りもなかった。


「オォッ、オオォ……!?」


 当代無双の武練を誇る阿修羅神刀斎には遠く及ばずとも、超進化生命体あざらしの膂力と速度で以て振るわれる魔剣がなまくらであるはずもない。

 あれほど強靭だった屍の熊グリスの身体をいとも容易く八つ裂きにし、拘束を逃れたゴマはすぐさま空を仰ぎ見る。

 全天を覆い隠さんばかりに巨大な、炎。あるいは裁きの雷にして、真なる星光の矢。


「―――嗚呼、クソ、すっげぇな。やっぱり凄ぇよ、頂点捕食者おまえらは。けどな」


 シャチやサメのそれと同型に変化したゴマのヒレが、両腕を失ったグリスの鼻先を掴み上げる。迫りくる超巨大熱量に向かって、満身の力を込めて放り投げる。

 アザラシでありながらシロクマの筋力を得たゴマの肉体は、そのような芸当すら可能としていた。


「僕は負けない。何が相手でも!」


 ゴマフライザーを操作。デバイス上部のスイッチを入れ、リミッターを解除する。


〈Over Boost!〉


 右ヒレのヤルルカーンを構え、ゴマは新たな太陽の如く空を占領する破滅の輝きを睨む。

 斬るべき敵を、剋するべき己を終生見つめ続けた剣聖の記憶が、ゴマの操る魔剣に力を与える。鎧を抜き、城壁を抜き、鋼の装甲を抜き、その果てに距離間合いを、空間世界それ自体を斬るに至った、文字通りの神業。

 あざらしたるその身は、どこまで行ってもヤルダモが作り出した道具兵器でしかなく。故に"武"の意義も真髄も知らぬまま―――されど、ゴマにはわかっていた。

 この剣を持っていた男の名前を知っている。己の前に立ちはだかった、一頭のシャチの生き様を覚えている。


「いざや参らん、末世が花道! 素っ首頂戴、斬り捨て御免、我が秘剣をご覧じろ―――」


PRIMITIVE PALEプリミティブ・ペイル,Brinicle Dead Endブライニクル・デッドエンド!!〉


「―――――『無行むぎょう熊狩くまがり』!!」


 宙に浮かんだグリスのしるしへ、一閃。

 振り下ろされた剣撃は2種の神器によって極限まで増幅され、狙い過たず斬るべきすべてを両断した。グリス・ナヌラーク・ポラベラムの頸を、万物を滅却する光の柱を、星の瞬きを大火と成す巨砲・ミラオリスを、悉く刎ね飛ばして呑み込んでいく。

 虚空に引かれた一本の直線。魔剣による斬断を以て因果の整合性は狂い、バロライテの地表を焼き尽くすはずだった熱線は、指向性を失って巨大な爆発を―――しかし、本来想定されていた大破壊に比べれば、拍子抜けするほど矮小な現象しか引き起こさなかった。

 距離も強度も無視した斬撃によって、星弓ミラオリスが上下2つに切り分けられる。ヤルダモの超技術になる衛星砲は即座に機能を失い、大小無数の爆炎を咲かせながら内部機構はらわたを晒していた。


「―――――……、……。……お前、は」


 グリスの亡骸から奏弓セニキスを引き剥がし、戦場を後にするゴマ。

 分断された熱線の残滓が、雨のように降り注ぐ。その威力は元来の何万分の一にも満たない。バロライテ北半球の各地で、ぽつぽつと火の手が上がり始める。

 針葉樹の森と共に燃え朽ちていくグリスの遺骸、死の灰色に濁った目が、ゴマに問いかけたような気がした。


「お前は、どうしてそんなに強いんだ。なぜ戦えるんだ。銀河を敵に回し、七星の最強種すら退けて……一体、どこへ行く? 一体いつまで、戦い続けるつもりなんだ?」


 アリュゾホート・マグサリナス・ゴマ=ゴマフが立ち止まる。

 戦闘の完了と同時にゴマモルフォーゼは解け、常のあざらしの姿へと戻った彼は答える。


「僕が僕である限り、ずっと」


 星降る静かな月夜。揺らめく赤光と煙霧があらゆるものを灼き、あらゆる惨状を覆い隠していく。

 それはグリスが多くを失った日と同じ地獄の具現だったが、あの時よりもずっと穏やかな光景に見えた。

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