ポップ・ポップ・サテライト その2

 グリス・ナヌラーク・ポラベラムは、アニマルバースの最底辺で生まれた。

 彼の母であるグリコは病弱なハイイログマであり、貧民街を牛耳る野盗集団の頭目であった叔母・ベアッカにほとんど養われるような形でしか生きられない熊だった。ベアッカは可能な限りの支援をしてはくれたが、行く当てのない母子2頭ともなると万全には手が回らず、グリスは物心ついた頃にはゴミ漁りと物乞いを日課としていた。

 ベアッカの盗賊団は、その優れた手腕によって尋常の野盗の域に留まらない稼ぎを得ていたが、グリコの命を繋ぐための薬代は高くつき、援助があってなおポラベラム母子の生活は苦しいものだった。


「―――あなたのお父さんはね、凄い熊なのよ」


 そして、赤貧に喘ぐグリスの毎日の中にあった唯一の楽しみこそ、母が毎夜の如く語り聞かせてくれた父の話だった。

 グリスが生まれ育った貧民街は、かつては軍事生産拠点を擁するほどの規模を誇った鉱山の街だった。鉱脈が枯れて獣口の流出が始まる以前、グリコは兵器工廠の警護として赴任してきた若い将校と恋に落ち、しかし急な人事異動によって別れを告げるのも許されない内に引き裂かれてしまったという。

 だが、まだ見ぬ父と若き頃の母は短いながらも濃密で充実した時間を過ごしたようで、グリコはグリスを抱いて眠る度に、彼との逢瀬の思い出をまるで昨日のことのようにつまびらかにした。シロクマ連邦が関わった戦争の噂が貧民街まで流れて来ることもあり、健闘した軍獣の活躍が聞こえてくると、きっと出世した父だと言って痩せた頬を綻ばせていた。


「あなたの毛色と、目元と手の紋様はお父さんから受け継いだもの。だから何も恥ずかしがることなんてないわ。あなたはいつか、立派な熊になる」


 グリスは、ハイイログマにしては異形の特徴を持って生まれた。茶に白っぽいクリーム色が混じった独特の毛色、手や目の周りに浮かぶ焦げ茶の斑紋―――同年代のハイイログマの子らには随分とからかわれたが、それはホッキョクグマであった父の血を継ぐ故の姿形であるとグリコは教えてくれた。

 母が言った通り、グリスの肉体の特異性は年齢を重ねるごとに顕著になっていった。兵士の血によるものか、あるいは雑種強勢とでも呼ぶべきか、彼はいつしか貧民街でも屈指の巨躯と膂力を誇るオスに成長していた。

 穏やかなグリコの性格と屈強な父の体格を共に受け継いだグリスは、いつしか住民たちの多様な頼みに応えては問題を解決する便利屋のような立ち位置に収まり、ベアッカの盗賊団と並ぶ貧民街のヒーローとなっていく。


「ふふ……これはもうすぐ、あたしらの時代は終わりかも知れないさね」


 また、盗賊団の稼業の方もすこぶる快調だった。

 ベアッカには、充分な資産を作った暁には盗賊団を解散し、己を含む数名の幹部の首と『上納金』を以てシロクマ連邦政府に取り入り、グリスを新たな旗頭として街を再興する計画があった。

 盗賊団の構成員は、その日の暮らしのためにやむを得ず盗みを働いたような者が大半であり、再興計画が持ち上がる頃には厳格な規律と義侠心に基づいた活動をこそ旨としていた。即ち、貧者や無辜の者からは決して盗まず、悪徳な商人や貴族からのみ掠奪を行う義賊と化していたのだ。

 彼らは皆、心からベアッカを支持していた。


 すべては順調だった。順調だったのだ。


 ある日、街の再興に向けて少しでも足しになればと、ベアッカと盗賊団は廃棄された鉱山の調査へ赴いていた。

 たかだか数十年の地殻運動で鉱山の状況が変わるはずもない。元より期待の持てる状況でもなく、精錬すれば1tにも満たない鋳塊インゴットになる程度の屑石を見繕って帰ろうとしていた盗賊団は、鉱山の最深部でを発見した―――否、発見してしまった。

 長年に渡り山中に埋没していたことですっかりくすんでしまっていたが、それは何か白い湾曲した物体だった。夜間になるとまるで星の光に反応したかのように仄かな瞬きを放ち、表面を指で撫でれば貴金属めいた涼やかな擦過音を響かせた。


「弓……か……? しかし、それにしては弦が無いぞ……」


 七星神器セブンス・クェイサーが一角。触れられざる腕において宙の色を為すもの―――奏星弓『セニキス=ミラオリス』。

 どうしてその鉱山に埋もれていたのか、故は今や誰にもわからない。ただ一つ判明しているのは、それがグリスの運命を決定づけたという事実だけである。


 アニマルバース唯一の絶滅種にして残虐非道の戦闘民族であり、そして現代では解析不能の超常的な科学技術を有していた古代種族『ヤルダモ』。

 彼らの遺産とされるものは、実用性のない美術品ひとつ取っても法外な金額で取引されており、故にアニマルバース中の勢力がヤルダモの痕跡を探していた。わけても『神器』の名を冠する至宝は、その存在自体が星系間戦争の引き金にもなりかねないほどの価値を持つ。


 シロクマ連邦は神器出現の兆候を見逃さなかった。街は瞬く間に包囲され、住民たちは1匹残らず尋問にかけられた。

 尋問とはいっても、その実は凄惨を極めるに他ならなかった。

 当時といえば、あの『あざらし』の脅威が顕在化し始め、アニマルバース全土が情勢不安に見舞われていた頃合いである。さらに言えば、神器の発見者が――少なくとも大多数の善良な一般シロクマにとっては――悪名高いかの"ベアッカの盗賊団"であったことも、事態の悪化……もとい、セニキス=ミラオリス確保作戦に動員された兵士らのに拍車をかけた。


 街の過去の隆盛を物語る高級建築が燃え朽ちていく最中、グリスは母を背負って家から飛び出していた。

 まだ神器こそ手にしておらずとも、グリスは生まれた時から最強種の器だった。重病人であるグリコを庇いながらというハンデがあってさえ、並みの兵士などグリスの相手にならない。

 貧民街の住民は例外なく生き汚くしたたかだ。気は優しくて力持ちを地で行くグリスさえ例外ではない。街の南端の納屋に、古い軍用バギーを隠してあった。グリコはそれをグリスの父が貧しい我が家に残してくれた唯一の品だと言って憚らなかったが、本当は有事の際に備えてベアッカが用立てておいたものだとグリスは知っている。ただ、どちらにせよ家族の愛情が込められたバギーであることには違いがない。


「……そこのグリズリー!! 止まれ!」


 邪魔だ。だが、もはやいちいち相手をしている余裕は無い。その必要も無かった。ここから納屋まで全力で走れば引き剥がせる。

 背負ったグリコの姿勢を正してしっかと固定し、膝を撓めようとして―――。


「……あなた?」


 グリスの意志に反して、彼の足は動かなかった。

 ごくか細い、けれど確かに喜色の滲む母の声。共に振り返ってみれば、そこに居たのは壮年のホッキョクグマの兵士だった。


「貴様、その鼻……。……まさか……!」


 ホッキョクグマが携えていた小銃を取り落とした。腕をわななかせ、亀のように遅い歩みで近付いてくる。

 男はグリスの肩越しにグリコの顔をまじまじと眺めた後、手を伸ばし、グリスの頬に触れようとして……寸前で引き戻した。


「グリコ……? グリコなのか? じゃあ、この青年は……」


「あぁ、あなた……。やっと……やっと迎えに、来てくれたのですね」


 母は泣いていた。彼女は獣並みには愛を知り、悲しみを知り、笑い、悩み、喜び、泣くこともある熊であったが、それは間違いなく生涯最高の安堵の涙であるとわかった。

 同時に、目の前でひたすら困惑と憔悴を繰り返しながらも、隠し切れぬ感動が全身から伝わってくるこのホッキョクグマ。彼こそが自分の父であると理解するのに、そう時間はかからなかった。


「はい……はい! あなたの息子ですっ、元気な男の子ですよ……! 強く、優しくて、何よりも自慢の息子です……!」


「お前……。……グリコ? ……グリコ! いけないっ」


 父がそう言って背中の母へ駆け寄った途端、グリコの体重が妙に軽くなったように感じた。

 ―――なぜ今まで気付かなかったのか。守り切れたと思っていた母の身体のあちこちに痛々しい弾痕があった。大小無数の擦り傷、火傷もだ。


「グリコ……! グリコ! 私がわかるか!? 私だ!! クマムト・ポラベラムだ!!」


「あなた……白い君。よかった……本当に、よかった……。帰って、来てくれて……グリス、を…………。クマムト……」


「母さんッ!! 母さん…! 駄目だ、死んじゃいけない! こんな…こんなのって…!」


 ……父を、クマムトのことを恨んではいない。

 彼は一発たりともグリスたち母子を撃たなかったし、撃っていたところでただ軍の命令に従ったに過ぎないはずだ。

 軍規とはいつ如何なる場合でも絶対に遵守されるべきものであり、またベアッカから回収したセニキス=ミラオリスに己の手で触れた今は、を世に野放しにしておくべきではないと理解できる。


「ふたりとも……ありがとう。私……とっても、幸せ……だわ―――――」




 炎。


 グリスの内側では、未だに炎が燻っている。

 ポラベラムの姓を与えられ、父が死んで正真正銘すべてを継いだ後も、あの日の炎は消えることがない。

 誰を憎めばいいのかなどわからない。強いて言うなら、今はこの手に携える奏星弓が引き寄せた因果であり、そしてこれを掘り出したベアッカと盗賊団、あるいはこれを創造したヤルダモということになるかも知れないが、いずれを責めたところで過去が変えられるわけではなかった。


 だから、グリス・ナヌラーク・ポラベラムは戦い続けるだろう。

 猛り狂う炎のままに。流れ続ける涙のままに。

 ただ、あの夜に燃え尽きなかったがために―――――。




――――――――――――――――――――――――――――――




「ふははははははははははは!! 死ね死ね死ね死ねぇ!!」


 ゴマ=ゴマフ一行がシロクマ連邦の基地を好き放題に蹂躙しながら練り歩いている。


 この場面に至るまでには、それなり以上の苦労があった。

 まず非合法のルートで以てシロクマ=シャチ連邦共和国・要塞都市バロライテへの超空間宇宙航行を行った私たちだったが、義鯱衆の敗北はとっくにシロクマ軍の関知するところとなっていた。ガレオルニス星系に向けての橋頭保であり、対あざらし戦略における最前線であるバロライテももちろん例外ではない。

 ワープドライブを終えて宇宙港に到着し、出入り口から出発しようとした私たちは、次の瞬間にはシロクマ軍の三個大隊に包囲されていた。機械化歩兵と自動車化歩兵の混成部隊であり、後方からは武装ヘリまで接近して来ている始末だ。

 とはいえ、特記戦力でも何でもないフツーの獣人の集団では――シロクマ連邦軍はライオン王国や大ウサギ民国のそれに並ぶ精強さで知られており、本来ならば恐竜だって駆逐できる絶大な戦力であるはずなのだが――ゴマたちの相手にはならない。

 さすがに正面戦闘で打ち破るには装備も頭数も不十分だったので、ゴマが戦車を投げ飛ばして別の戦車にぶつける荒業で包囲に穴を作り、ウーノが用意していたスモークグレネードをばら撒いて脱出。

 軍警が厳戒態勢を布く街中を駆けずり回ってどうにか隠れ家セーフハウスまで到着した。


 軍警と秘密警察の密な巡回によって、現地の貧民や非合法組織を金で雇っての情報収集、暴動による敵戦力の疲弊という手は限りなく無効化されている。

 それどころか、私たちの人相もS・D・ロンリネスの外見も周知徹底されてしまっているので、街中を歩くことさえ満足に出来ない状態だった。

 ちなみに、ゴマが前回のシャチントンで自動車販売店を襲撃して盗んだエアークラフトバイクは、その辺に乗り捨てていたら戦場ごと阿修羅神刀斎に切り刻まれていたので放棄してきたらしい。


 では、どのようにしてシロクマ軍の基地に侵入したのか?

 答えは簡単だ。真正面から堂々と入場したのである。


 S・D・ロンリネスのトランクは、見かけ上の体積を超える空間を内部に擁した超空間圧縮格納庫となっている。

 中にはジア・ウルテからの出発時に準備し、またネオシャチントンで略奪してきた物資がそれなりに詰まっており、実のところ補給に関する心配は無かった。

 ジャミングや逆探知に警戒しつつ、空撮ドローンを飛ばして張り込むこと3週間。警戒態勢の穴を看破したゴマたちは、1頭のシロクマを首尾よく制圧して捕虜とした。

 シロクマ軍は定期的に巡回ルートや人員配置を更新する徹底ぶりだったが、それがかえって要らぬ不安と不満を生じさせる原因ともなったようで、煙草を吸いに路地裏へと踏み込んで孤立したところを狙われたのだ。

 そして、攫って来た捕虜にどんな尋問もとい拷問をするのかと思えば、


 ―――何これ?


 ―――シロクマの着ぐるみ。かわいいでしょ? 僕ほどじゃないけどね!


 哀れな犠牲者は『どうせ作戦の大枠しか知らされていない下っ端だろうから』という理由で、尋問する価値も無いと切り捨てられてしまったらしい。

 それを見た私が――備蓄に余裕こそあれど貴重な――胃の中身をトイレに流すのを尻目に、ウーノはいそいそとを終え、何食わぬ顔をしてシロクマ軍の巡回ルートへと赴いたのであった。

 潜入作戦の開始後はウーノの独壇場だった。彼はカメレオンらしく演技が上手で、同僚の入れ替わりに気が付いた者はほとんど居なかったらしい。

 シロクマ軍は敵にも身内にも厳格で苛烈であることで有名だが、世間に流布しているイメージほど機械的で融通が利かないわけではない。ましてや、星系単位で言えば本国から離れた僻地であるバロライテならば尚更だ。

 ウーノが目をつけたのは、風紀の引き締めのため、軍隊への流通が限定されている煙草や酒といった嗜好品だ。口八丁と賄賂で物資補給を担う業者をたぶらかし、検品の甘い独自の搬入ルートを押さえたのだ。後は、40㎝大の体長しかないゴマたちが、日々持ち込まれる"秘密の宝箱"に乗ってやって来れば晴れて侵入成功である。


「考えれば考えるほどに杜撰だ……。世の中そんなものと言えばそんなものなのかも知れないけど」


「フフフ。シロクマ軍の名誉のために、ひとつだけお教えしておきましょう」


 何やら携帯端末を操作しながらカメレオン男が話し出す。

 軍用の支給品であるからしてセキュリティは万全のはずだが、この男の頭脳と技術にかかれば多少の改造も容易いのだろう。


「私とピヨさんは、訓練と装備による隠密行動の心得があります。またあなたについても、けものの1匹程度なら保護して行動できる用意をしていました。しかし、ボスだけは話が違う」


「どういうこと?」


「あの方が御身に内包している生命力は、我々とは文字通り桁が違います。身動ぎひとつするだけで莫大なエネルギーの放射が発生する……仮に戦闘機のレーダーにでも探知されようものなら、原子力空母と会敵したように映るでしょうな」


 と、そこまで話したところで、後方から小気味よいエンジン音が聞こえてきた。振り返ればそこには、今やすっかり慣れ親しんでしまったS・D・ロンリネスの黒光りする車体があった。

 自律走行機能か。こんなものいつの間に実装したんだと聞きたいところだけれど、この改造クラシックカーは『マフィア仕様』の一言では説明のつかない異常な高性能を誇るモンスターマシンであるため、恐らく最初から備わっていたのだろう。


「そこで坂本の出番というわけです。彼はね、これまで理論上は想定されつつも存在を実証できていなかった、虚数値の座標に起源を持つ―――つまり、マイナス次元の生命体であり、存在なんです」


「……は?」


「最初は電子機器を狂わせる能力か、特定の状況でのみ作用する反ミーム性を疑っていたんですが……何度調べても計器類に異常は無いし、観測員の脳を掻っ捌いてニューラルネットワークの動作を再検証しても、不自然な点はありませんでしたからね。ちょっとこの端末で彼を映してみてください。あぁカメラはこのアイコンです」


 言われるがままに携帯端末を受け取り、カメラアプリを起動させて、ゴマが仕留めたシロクマの死体を漁る坂本に向けてみる。


「何これ……」


 ―――果たして、そこに移る坂本の姿は、私がいま目の前にしている薄黄色の球体とはまったく異なる様子を示していた。

 機器の誤動作だとしか思えない、白いノイズの塊がスクリーン上で揺らめいている。赤い燐光と灰色の帯がちらつく"それ"は、しかしよくよく見てみれば確かに、坂本が跳んだり跳ねたりするのに合わせて輪郭を変形させていた。


「フフ、面白いでしょう? この他にも、例えば、坂本は電波を使ったレーダーには映りません。それも完璧に。最新鋭の技術水準のレーダーであれば、ステルス戦闘機が相手でも違和感が残るところをです。また、サーモグラフィで見てみれば、分子運動が活発化する……坂本が激しく動くほどに、かえって体温が低下しているように観測されます。私たちが触れてみれば温かいので、生理機能はこちらの宇宙の動物と大差ないようにも思えますが」


「わけわかんない……。……いや、この宇宙の法則に従わないんだから、わけわかんなくて当然なのか」


「えぇ。そしてボスもボスで、先のあざらし戦役で上位者ハイパービーイングを倒して力を奪った結果、高次元生命体への進化を果たしつつあるのですよ。この次元の階差が肝でして」


「高いエネルギーを持つゴマと、マイナス次元の生き物である坂本。この2人でプラマイゼロってわけね」


「ご明察の通り。アニマルバースの流儀を思い出してきたようで何よりだ」


 どうやらここアニマルバースでは、なんとなくうっすらそれらしい道理さえ用意しておけば、どんな荒唐無稽な出来事が起こってもアリらしい。ぬいぐるみめいた謎の動物(?)が自動車を殴り飛ばし、ビームを放って宇宙戦艦を消滅させた辺りで気付くべきだった。

 記憶喪失の身の上だが、私の知っている宇宙はここまで融通の利き過ぎる世界ではなかったように思う。別の宇宙の存在がやって来ているのに今更だけれども……。


「―――みゅ? あっ」


 唐突にゴマが素っ頓狂な声を挙げた。奴の奇行にいちいち構っていたら日が暮れるので、私は何も反応しなかった。

 すると、ゴマは平時は滅多に見ない機敏さで、近くをウロウロしていた坂本とピヨの首元を掴んだ。彼らが文句を言い出すよりも先に、あざらしは2匹を宙へと放り投げる。


「え?」


 というか、どう見ても私たちの方に2匹を寄越してきていた。それも相当な速度で。

 ぶつかると思って咄嗟に腕で身体を庇い、目を瞑ろうとした刹那、珍しく慌てている様子のウーノが見えた。私の記憶が正しければ、彼はすっ飛んできたピヨをキャッチし、坂本の方は再び私へと投げ込んだようだった。

 柔らかいゴムボールのような感触と、それに反してやたら強い反発が、私をビリヤードめいて押し飛ばすと。


「やってくれる」


 遠く離れているはずなのに、ゴマの呟きが聞こえたような気がして―――それから、世界の全てが光に呑まれた。

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