35 未来を誓うクリスマス

 パラ、パラ、と雪が降る。


 季節はすっかり12月だ。


「ひより、寒くしてないかな?」


 俺は部屋にいない彼女のことを想って呟く。


 その時、LINEが届いた。


 蛯名からだった。


『ひよたん、かわゆすぎ~!』


 そんなメッセージと共に、蛯名がひよりをぎゅっと抱きしめる写真が送られて来た。


『ほどほどにしておけよ? 俺のひよりなんだから』


 少し誇張するようにメッセージを返す。


 すると、またすぐに返信が来て。


『秀次のLINE見て、ひよたん絶賛照れまくり中♡』


 また写真が載っていて。


 確かに、ひよりが照れたように頬をあからめて、でもカメラ目線に上目遣いをしていた。


 それがグッと来てしまう。


「早く会いたいな……」


 今、ひよりは蛯名のアパートに泊まっていた。


 その理由は……クリスマス。


 ひよりは俺へのプレゼントを作ってくれると言った。


 それは当日の楽しみにしておきたいという、彼女なりのサプライズ心によるもの。


 俺は今からそのクリスマスが楽しみで仕方なかった。




      ◇




 そして、迎えた当日。


 俺はひよりと待ち合わせする、駅前の巨大ツリーの前に来ていた。


 既に、周りでは多くのカップルがお互いに寄り添って、見つめ合っている。


 そんな光景を見て、ああ、俺も早く、なんて思ってしまう。


 俺も、すっかり色ボケ男になってしまったものだ。


「……ひ、秀次さん」


 久しぶりにそばで聞いた彼女の声に、俺は振り向く。


「ひより……」


 そこにいた彼女は、いつもよりおめかしをしていた。


「……可愛いな。今日はまた一段と」


「ほ、本当ですか? 翔子ちゃんが、手伝ってくれて……」


「そっか」


 俺が微笑んで頭を撫でると、ひよりも照れたように微笑んだ。


「じゃあ、行こうか。店はもう予約してあるんだ」


「はい、秀次さん」


 そう言って、ひよりは何だかモジモジとしている。


 だから、俺はスッと、自分の腕を差し出す。


 ひよりは嬉しそうに微笑んで、ぎゅっと抱き付いた。


 そして、二人でクリスマスの夜を歩き始めた。




      ◇




 予約したレストランは、俺も初めての所だったから、少し緊張した。


 けど、ひよりと何気ない会話をするだけで、その一瞬、一瞬が、宝物へと変わって行く。


「美味しいな、ひより」


「はい、秀次さん」


 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので。


 胃袋と心を満たした俺とひよりはレストランを後にした。



「……私、夢みたいです」


 ひよりが言う。


「まさか、私がこんな風に、大好きな人と……クリスマスを一緒に過ごせるなんて……初めてのことだから」


「俺もだよ、ひより」


 俺が微笑むと、ひよりも微笑んでくれる。


「あ、あの、秀次さん」


「ん?」


 ひよりが後ろ手に何かを持って、モジモジとしている。


「こ、これ、クリスマスプレゼント……です」


 俺は差し出された紙袋を受け取る。


「ありがとう、ひより。ずっと、楽しみにしていたんだ。開けても良い?」


「ど、どうぞ」


 ひよりは照れながら言う。


 俺はドキドキしながら、その紙袋を開けた。


「あっ……マフラー」


 俺が言うと、ひよりは頷く。


「あ、ありきたりかもしれないですけど……」


「何を言っているんだよ、ひより。こんな素敵なマフラーが作れるなんて……すごいよ。ありがとう」


 俺が笑って言うと、ひよりはホッとしたように微笑む。


「早速、巻いて良いかな?」


「あっ」


「どうした?」


「わ、私が、巻いてあげたいです」


 そんなことを言ってくれるひよりがいじらしくて、俺はつい笑ってしまう。


「じゃあ、お願い」


 俺はひよりにマフラーを渡して、身を屈める。


 ひよりが俺の首にマフラーを巻いてくれた。


「……どう? 似合う?」


「は、はい……素敵すぎます」


「バ、バカ。照れるんだよ」


 俺はつい、そっぽを向いてしまう。


「……ありがとう、ひより。すごく嬉しいよ」


「私も、嬉しいです」


「じゃあ、俺からもプレゼント、渡して良いかな?」


「えっ?」


 小さく目を丸くするひよりに微笑みかけて、俺はポケットから小箱を取り出す。


 それをパカッと開いた。


「……指輪」


「うん。そんな高価な物じゃないけど……二人分あるんだ」


「じゃ、じゃあ、秀次さんとの……」


「いつか、本物をあげるまで、待っていてくれるか?」


 俺が言うと、ひよりは目の端に涙を浮かべる。


「いつまでも、待ちます」


 涙を浮かべて微笑むひよりを、俺は抱き締めた。


「……もう一軒、予約してあるんだ」


「えっ?」


「……ホテル」


「あっ……はい」




      ◇




 付き合ってから、ひよりとは何度かしていた。


 けど、今日は今までになく……お互いの気持ちが昂るのを感じた。


「……ひより、大丈夫だったか?」


「……はい。すごく……良かったです」


「……そ、そうか」


 ひよりは布団の中で、俺にきゅっと抱き付く。


「あっ……」


「どうしました?」


「いや、前に小柴が言っていたけど……確かに、成長したなって」


「秀次さん、エッチです……」


「わ、悪い……でも、俺だって男だからさ。好きな子に対しては、そんな目で見ちゃうよ」


「じゃ、じゃあ……もっと、私のこと、エッチな目で見て良いですよ?」


「ひ、ひより……」


 俺たちは見つめ合うと、キスをした。


「……秀次さんのたくましい体に抱かれていると……すごくドキドキします。繋がっている時も……きゃっ」


「は、恥ずかしいから、あまり言うな」


「ご、ごめんなさい……」


 俺たちはお互いに赤面する。


「あ、そうだ。ひより、年末年始なんだけどさ……一緒に、俺の実家に来てくれないかな?」


「えっ?」


「ほら、前はひよりの家族に会ったから、今度は……な?」


 俺が言うと、


「……会いたいです、秀次さんのご家族に」


「本当か?」


「もちろんです」


「じゃ、じゃあさ……俺の嫁って、紹介しても良い?」


「あ、あううぅ~……」


 ひよりは真っ赤になった頬を押さえて、悶えるように首を振った。


「……しょ、紹介して下さい」


「ありがとう、ひより」


 そして、俺とひよりはお互いに優しく抱き締め合った。







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