22 遊園地はドキドキが止まらない

 今日は、ひよりと遊園地に来ていた。


「暑くないか、ひより?」


「はい、平気です」


 麦わら帽子に純白のワンピース。


 絵にかいたような美女が、俺の隣を歩いている。


「人が多いから、はぐれないように……手つなごうか」


「秀次さん……」


 ひよりは照れながらも、差し出した俺の手にそっと触れてくれる。


 俺は彼女の繊細な手を優しく握った。


「じゃあ、行こう」


 ひよりはコクリと頷いてくれた。




      ◇




 夏と言えば、やはり……


「……お、お化け屋敷」


 ひよりはそれを前にして、軽く震えていた。


「あ、やっぱりやめておこうか?」


 俺が言う。


 けど、ひよりは小さく首を横に振った。


「じゃあ、行こうか」


「……はい」


 そして、俺はひよりと一緒にお化け屋敷に入る。


 中に入ると急に、シンと静まり返る。


 暑さは消え失せるけど、代わりに不気味さが這い寄って来た。


「ひより、大丈夫か?」


 俺はとなりで震える彼女に声をかける。


「は、はい、平気で……」


『キシャアアアアアアアアアアアアアアァ!』


「きゃああああああああああぁ!」


 ひよりの悲鳴が響き渡る。


 そして、ひよりは俺の腕に抱き付いた。


「ひより?」


「……ご、ごめんなさい……やっぱり、怖くて」


 俺は震える彼女を見て、頭を撫でてやる。


「安心しろ、俺がそばにいる」


「秀次さん……このまま、ぎゅってしてて良いですか?」


「お、おう」


 俺は少し動揺しながら頷く。


 それから、ひよりと一緒にお化け屋敷を進んで行く。


 正直、俺はあまりお化けを怖いと思わないから、平気だ。


 でも……


「……うううぅ」


 怯えながら俺に腕に抱き付くひより。


 そして、俺の腕に押し付けられる……柔らかい物。


 ふに、ふに、と小ぶりだけど、すごく愛らしい。


 って、俺は何を考えているんだ!


「お、落ち着け、俺……」


「ひ、秀次さんも、怖いんですか?」


「えっ? あ、ああ、怖いね……理性を失いそうな自分が」


 ひよりは小首をかしげる。


 そのまま、二人で何とかお化け屋敷を抜けた。


「はぁ~……まあ、楽しかったな」


「はい……ドキドキしました」


「ひ、ひより……次、コーヒーカップにでも乗るか?」


「や、やりたいです」


 ひよりは頷く。


「よし、行こう」




      ◇




 それから、色々なアトラクションを楽しんで、俺たちはお昼ご飯を食べていた。


「けど、あれだな」


「どうしました?」


「ひよりって、食べ方もきれいだよな」


「あ、ありがとうございます。


「だから、ナプキンなしでも、ワンピース汚さないかもな」


「で、でも……心配なので、つけておきます」


 ひよりはナプキンを巻いた状態でそう言った。


 ちなみに、いま彼女が食べているのは、夏のトマトソースのパスタだ。


 俺はスタミナ満点のハンバーグ。


「なあ、ひより」


「はい?」


 ちゅるん、とパスタをすすったひよりがこちらを見た。


「ちょっと、ハンバーグも食べてみない?」


「え、良いんですか?」


「もちろん」


 俺は笑いながら、ハンバーグを一口大に切る。


「ほら」


 そして、ひよりの口元に運ぶ。


「あっ……」


「お食べ」


「い、いだきます」


 ひよりは、パクッと食べた。


 すぐ、手で口元を隠す。


「どう?」


「……お、おいひいです」


 なぜか赤面しながら言う。


「ひ、秀次さん。お返しさせて下さい」


「ん?」


 ひよりはクルクル、とパスタを巻く。


「あうぅ~、こんな事なら、箸を使う料理にしておけば良かった……」


「ひより?」


「な、何でもないです」


 フォークにパスタを巻き終えたひよりは、


「ひ、秀次さん」


「ん?」


「は、はい……あーん」


 ひよりがそう言ってくれるので、俺は急に恥ずかしくなった。


 パスタを口に含む。


「ご、ごめんなさい、やっぱり食べづらいですか?」


「んっ……」


 俺は上手いことフォークから一口大のパスタを引き抜くと、ゆっくりと咀嚼する。


「……美味しいよ、ありがとう」


「秀次さん……優しい」


「普通だよ。ほら、もう一口、ハンバーグ食べるか?」


「あ、それ貸して下さい」


 ひよりは俺からハンバーグを差したフォークを取ると、


「は、はい。あーん」


「あ、あーん」


 俺も乗っかって、またあーん、とされてしまう。


「……秀次さん、可愛いです」


「バ、バカ野郎。俺は男だぞ? 可愛いのは、お前だろ」


「はううぅ~……」


 ひよりは湯気を出しそうなくらいに真っ赤になった。




      ◇




 ランチを終えた後も、二人でアトラクションを楽しみ……


「そろそろ、日が暮れて来たな」


 俺は言う。


「最後に、何か乗る?」


「じゃ、じゃあ……アレが良いです」


 ひよりが指を差したのは、観覧車だった。


「良いね、乗ろうか」


「はい」


 ひよりは俺の腕に抱き付く。


 不意打ちでドキリとした。


 それから、二人で観覧車に乗る。


 向かい合う形で座った。


「何か、ドキドキしますね」


「そう?」


「はい。観覧車に乗るのなんて、初めてだから……」


 ひよりは少しだけ、切なそうに微笑む。


「じゃあ、これからは俺と一緒に……たくさん、初めてを経験しような」


「秀次さん……」


 ひよりは微笑んだまま、俺を見つめる。


「……あっ」


「ん、どうした?」


「い、いえ、何でもないです」


 なぜか慌てるひよりを見て、俺は首をかしげる。


 それからしばらく、二人でゆっくりと、観覧車からの風景を楽しんでいた。


「あの、秀次さん」


「どうした、ひより?」


「えっと、その……となりに行っても良いですか?」


「えっ?」


「ダ、ダメですか?」


「いや、そんなことはないよ」


「じゃ、じゃあ……」


 ひよりは立ち上がって、俺のとなりにやって来た。


 そして、腰を下ろす。


 しばし、無言の時が続いた。


 ヤバい、何で俺はこんなに、ドキドキしているんだ?


 と、その時。


 ひよりが、俺の手に触れて来た。


 ドキッとした直後、そのまま俺に寄りかかって来る。


「ひ、ひより?」


「……私、幸せです」


 ひよりは言う。


「大好きな人と一緒に、観覧車に乗れるなんて……夢みたいです」


 その目から、涙がつつー、と流れる。


「ごめんなさい……私、泣いてばかりで」


「良いよ、いくらでも泣いて」


 俺はきゅっと、ひよりの手を握った。


「秀次さん……あったかい」


「ひよりも、あったかいよ」


「嬉しいです……」


 気付けば、俺とひよりは見つめ合っていた。


 何て、可愛いんだろう。


 そう思ったら。


 俺はひよりと、二度目のキスをしていた。


 今度は、初めての時よりも、少し長めに。


 やがて、ゆっくりと離れる。


「……嬉しい」


「……俺もだよ、ひより」


「……秀次さん……大好き」


「俺だって……大好きだ」


 俺とひよりは、夕日に照らされるゴンドラの中で、お互いに抱き締め合った。







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