18 海でバーベキュー!
「で、秀次。あの後、安藤ちゃんとはどうなったんだよ?」
晩ごはん&宴会が済んだ後。
男だけで部屋に集まっていた。
「え?」
「とぼけた顔すんなよ。バッチリ、決めたのか?」
「そうそう、教えてくれよ」
修也と伸和をはじめ、男どもがニヤケ顔で俺に詰め寄って来る。
「いや、別に……普通に一緒に散歩しただけだよ」
「「はぁ~!?」」
「な、何だよ?」
俺が軽くうろたえると、
「秀次、お前は男らしい奴だと日頃から思っているけど……どうして女に対してはそんな奥手なんだよ!」
「いてっ!」
修也が俺に腕をクロスしながらタックルして来た。
「何するんだよ?」
「せっかく、俺らが気を回してやっているんだぞ?」
「だから、何の話だよ?」
俺は少し苛立って言う。
「まあまあ、落ち着けって。俺ら見守り組はせいぜい、この焦れっぷりを楽しもうじゃないか」
伸和が落ち着いた口調で言う。
「それもそうだな。秀次のへたれっぷりを、せいぜいバカにしておくわ」
「お前ら、本当にムカつくな」
「こっちの方がムカつくわ!」
なぜか修也がキレた。
「ちくしょう、ちょっとモテるからって、良い気になりやがって~……」
「え? 別に俺はそんなモテてないぞ?」
「お前らぁ! ありったけの酒を持ってこーい! 秀次にぶちこめ~!」
「「「おおおおおおおおおおおぉ!」」」
アホ男子どもが謎の一致団結を見せる。
「おい、お前ら、静かにしろって!」
とりあえず、俺は叱った。
◇
「ねえねえ、ひよりちゃん。あの後、松尾くんとはどうなったの?」
「えっ?」
楽しかった晩ごはんと宴会の後。
女子だけで部屋に集まっていた。
「あ、あの後って?」
「ほら、松尾くんと二人きりで、お散歩に行ったでしょ?」
「手はつないだ?」
「ちゅーはした?」
「そして、告白……きゃー!」
みんなが、楽しそうにハシャいでいる。
「こらこら、君たち、落ち着きたまえ」
翔子ちゃんが制する。
「で、ひよたん。結局、どうなったんだい?」
「ど、どうって……ただ、一緒に歩いただけだよ?」
私が言うと、みんなが目に見えて落胆したようにため息を漏らす。
「まあ、何となく分かっていたけど……秀次のへたれめ~!」
「そうだ、そうだ~!」
「普段は男らしいくせに~!」
「ていうか、松尾くんの体、すごくなかった?」
「ねぇ~。前にも見たことあったけど、やっぱり他の男子とは鍛え方が違うよね」
「高校まで野球部だったんだっけ?」
「そうそう。レギュラーだったらしいよ」
「何それ、絶対にモテるじゃん」
「こら、君たち」
翔子ちゃんがまたみんなを制す。
「「「あっ……」」」
みんなの気遣うような視線が、私に向けられる。
「ごめんね、ひよたん」
「そ、そんな、気にしないで」
私は慌てて手を振って言う。
「松尾さんが、素敵な人だってこと、私はよく分かっているから……」
そう言う私の口元は、きっと綻んでいた。
「ねえねえ、ていうかさ。あのバカコンビに聞いたんだけど。ひよりちゃんって、松尾くんと同棲しているんでしょ?」
「ど、同居だよ」
「何でそうなったの?」
「あ、それ私も気になっていた~」
「教えて~」
みんなが言う。
私は少し躊躇しつつも、
「実は……」
みんなに、自分の身の上の話をした。
「……と、言う訳なの」
すると、部屋の中がシーン、と静まり返った。
「あっ、ご、ごめんなさい。私のせいでせっかくの盛り上がりを台無しにして……」
「ひよたーん!」
「きゃっ」
翔子ちゃんが抱き付いて来た。
けど、今までとは違った。
嫌らしく、私の体を触って来ない。
ただ純粋に、抱き締めてくれていた。
「辛かったね、よくがんばったね……」
翔子ちゃんは涙をこぼしながら言う。
他のみんなも、泣いてくれていた。
「……うん、ありがとう」
私もまた、涙がこぼれる。
「これはもう、絶対に秀次にひよたんを幸せにしてもらわないと」
「そうだ、そうだ~!」
「男を見せろ、松尾ぉ~!」
「お前は強い男だ~!」
「でも、恋に関してはへたれ~!」
そう言って、みんな笑う。
「大丈夫だって。秀次は、ちゃんと決める男だって、私は信じているから」
翔子ちゃんはそう言って、私に微笑む。
「そうだろ、ひよたん?」
「え、えと、その、あの……」
「もう~、どこまでも可愛い奴なんだ~!」
「や、やめて~!」
こうして、楽しい夜は更けて行った。
◇
俺のとなりで、トントンと小気味の良い音が鳴っている。
「はぁ~。ひよたん、本当に良きお嫁さんだね~。マジでエプロン姿が半端なく似合っているよ~!」
蛯名が言う。
「ていうか、お前がわざわざ用意したんだろうが」
「ふふ~ん。ていうか、普段からひよたんにエプロンを着させているんでしょ?」
「そ、それは……まあ、そうだけど」
「秀次は、ずっと安藤ちゃんのエプロン姿を見てニヤけていたぜ~!」
修也が言う。
「え~、松尾くんのムッツリスケベ~!」
「何でだよ!」
茶化す女子に文句を言うと、きゃ~、と楽しそうなリアクションをされる。
「ていうか、ひよりちゃん、料理マジで上手くない?」
「包丁さばきがすごーい」
「そ、そんなことは……」
安藤さんはすっかり照れて顔をうつむける。
「ほらほら、君たち~。ラブラブ夫婦の邪魔はしないの」
蛯名が言う。
「おい、蛯名。だから、俺たちは……」
「ほらほら、秀次。早く二人で愛の共同作業に励みなさーい」
「全く、お前らは……」
「ま、松尾さん。野菜を炒めて下さい」
「ん、分かった」
俺は安藤さんが刻んだ野菜を炒める。
その様子を、他の連中がひたすら、ニヤケながら見ていたけど、もはや無視だ。
そんなこんなで……
「わ~、美味しそう~!」
グリルの上では、ジュージューと肉が焼けている。
「青い空、青い海、そしてきれいなビーチ。こんな所でバーベキューが出来るなんて、最高だぜ」
「だな」
修也と伸和が言う。
そう、俺たちは今、海でバーベキューをしていた。
それ用のスペースがちゃんと設けられているのだ。
ちなみに、水着じゃなくて、Tシャツの短パンとかそんな格好だ。
「ほれほれ、肉を食え~!」
「「「いただきまーす!」」」
そして、みんなは紙皿に肉を載せて食べる。
「「「美味しい~!」」」
同時に叫ぶ。
「ほいほい、ラブラブ夫婦にもおすそわけ~」
そう言って、蛯名が俺と安藤さんに肉を食わせる。
「うん、美味いな」
「美味しい」
「あ~、ていうか、こっちのカレーもすごく美味しそう~!」
「もう、出来たよ」
「マジ? じゃあ、私が一番乗りだ~!」
蛯名が言うと、安藤さんは皿にごはんを盛り、カレーをよそう。
「どうぞ、翔子ちゃん」
「ありがとー! ではでは~……」
蛯名は意気揚々と、安藤さんお手製のカレーを食べる。
パクッ、と。
すると、なぜか固まった。
「おい、どうした?」
「ご、ごめんなさい。もしかして、美味しくなかった?」
俺と安藤さんが不安げに尋ねるも、
「……ごめん。美味すぎて、ちょっと気絶していた」
「何だ、そりゃ」
「え~! ひよたんのカレー、めっちゃ美味いんだけど~!」
「「「マジ!?」」」
すると、みんながこぞってやって来る。
「カレー屋さん、カレー屋さん、俺にもカレーを下さいな!」
「修也、うるせえ!」
そんな風に俺が叱りつつも、みんなにカレーが行きわたり、
「「「マジで美味しいいいいいいい~ぃ!」」」
そんな元気な声が響き渡る。
「だってさ、安藤さん」
「う、嬉しいです……」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「おい、アレ見ろよ」
すると、何やらビーチが少しザワついた。
「うわ、めっちゃスタイル良いな~」
「きれ~い」
「ていうか、あの人って……」
その騒ぎの中心に俺たちは目を向ける。
「「うおっ、
アホ二人が叫ぶ。
「えっ、マリナちゃん!?」
「マジマジ~?」
「どこどこ~?」
女子たちが反応する。
「なあ、それって誰だ?」
俺が問いかけると、
「超人気のモデルだよ~!」
「あたしらと同じ歳で、同じ大学2年生なんだよ~!」
「それであの超絶モデル体型とか、ヤッバ!」
「髪もきれいすぎ~!」
女子たちは尚も興奮している。
俺は視界に、その人物を捕えた。
スラッと背が高く、サラサラのロングヘアーはとてもきれいだと思った。
確かに、一般の女子とは少し違うオーラを放っていた。
彼女は恐らく、水着の上からTシャツを着ていた。
それでも、他の水着姿の女子たちよりも、多くの視線を集めている。
「……あら、とても良い匂い」
神月マリナは言う。
「楽しそうなバーベキューね」
そして、微笑む。
サングラスをかけながらも、柔らかさが伝わる。
「きゃ~! マリナちゃんが話してかけて来た~!」
「ヤバイ、ヤバイ!」
「しゃ、写真、撮っても良いかな~?」
女子たちはすっかり興奮してしまっている。
男子たちも、鼻の下を伸ばしっぱなしだ。
「このカレー、誰が作ったのかしら?」
「この子でーす!」
女子が安藤さんを指差して言う。
俺はふと、となりに立つ安藤さんを見た。
彼女は先ほどまでの笑顔が消えて、なぜか怯えるように震えていた。
「安藤さん? どうした?」
俺が問いかけた時、
「あら、誰かと思ったら……ひよりじゃない」
神月マリナは言う。
「「「えっ?」」」
その一言に、みんなが目を丸くする。
俺はハッとして、その女を見た。
「あんた、まさか……」
彼女は俺を一瞥して、ニヤリと笑う。
「神月マリナっていうのは、芸名なの。私の本名は……」
瞬間、彼女の口の形が、悪魔のように裂けたかに見えた。
「――安藤マリナ」
そう告げられると、彼女が震えた。
そして、俺は確信する。
「……そうか、あんたが……安藤さんを苦しめていたのか」
俺はとなりで震える彼女を見て、そう言った。
「あら、随分と人聞きの悪いことを言うのね。私は家族として、ひよりを可愛がったのよ? 同じ歳だけど、私よりもちっこくて、ちんちくりんだから。妹みたいに、色々とコキ使ってあげたの」
ニコリ、と笑って神月マリナ……いや、安藤マリナは言った。
「お前……」
俺は震える安藤さんの背中に触れながら、奴を鋭く睨んだ。
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