16 すごく可愛いね

 潮の香りにくすぐられると、自然とテンションが上がってしまう。


「「「ひゃっほーい!」」」


 修也、伸和、蛯名のアホ3人が大声を上げて、真っ先に海へと向って行く。


「おい、お前ら! まずはホテルにチェックインをしなきゃだろうが!」


 俺が声を張り上げて言うと、


「「「ふぁ~い……」」」


 3人はトボトボと戻って来る。


「松尾くん、先生みた~い」


「それな~」


「ウケル~」


 女子たちが俺をからかって来る。


「あ、でも違うか。松尾くんはひよりちゃんの旦那さまだもんね~?」


「なっ、そ、それは……」


 俺はチラッ、と安藤さんを見た。


 彼女は頬を赤らめて、顔をうつむけていた。


「……い、言わないでくれよ」


 俺もまた、顔が火照った状態でうつむいてしまう。


「やだもう、この二人ラブラブなんですけど~!」


「ちょっと、あまり茶化したらダメでしょ?」


「あ~、私も恋がした~い!」


 女子たちが盛り上がっていると、


「何々、どしたの?」


 こちらに戻って来た3人が食い付く。


「今ね、松尾くんとひよりちゃんがすっごくラブラブしていたからさ~」


「いや、そんな……」


「秀次よ」


 修也が俺の肩に手を置く。


「今からでもホテルの部屋、安藤ちゃんと二人きりで取って良いんだぜ?」


「バ、バカ野郎! そんなこと出来るか!」


「でもさ~、お前ら同棲してんじゃん」


「同棲って……同居だよ」


「てか、秀次。さっきから、顔がまっかっか。安藤ちゃんもね」


 伸和がクスクスと手で口元を押さえながら笑う。


「うるさいよ、バカ」


「では、二人とも。誓いのキスを」


 蛯名がまた言うと、みんながドッと笑った。


「あー、もう! いい加減にしてくれ! 安藤さんにも迷惑だろうが!」


 俺は声を張り上げて言う。


「……め、迷惑じゃないです」


 安藤さんが、声を発した。


「え?」


 みんなの視線を受けて、とても恥ずかしそうにしながらも。


 彼女は、ジッと俺のことを見つめていた。


 ドキリとしてしまう。


「……ホ、ホテルに入ろうか」


「は、はい」


 俺と安藤さんは頷き合う。


 そして、他の連中はひたすらニヤニヤしていた。




      ◇




 サクッ、と砂浜を踏み締めた。


「「じょーし、じょーし、女子の水着が見たいのだ~♪」」


 また修也と伸和のアホコンビが言っている。


「お前ら、あまりハメを外し過ぎるなよ」


「そんな固いこと言うなって、秀次」


「ていうか、お前の腹筋かたっ!」


 アホ2人はなぜか俺の腹筋に興奮してパンチして来た。


「やめろ、お前ら」


「ちょっと、男子ぃ~? 何をホモっちゃってんの~!」


 蛯名の声が聞えたと思ったら、


「「うほっ!」」


 アホコンビを始め、男どもが目を丸くして、鼻息を荒くする。


 水着姿の女子たちがやって来た。


 みんな一様に、キラキラと輝いている。


「「よっしゃあああああああああああぁ!」」


 アホ共の叫び声が響き渡る。


「おい、お前ら。俺たち以外にも人がいるんだから、あまり騒ぐな」


「秀次、紳士ぶってんじゃねえよ。女子の水着姿を見て興奮しないなんて、お前ち◯こついてんのか!」


「ついてるよ、バカ」


 俺はため息を漏らす。


「……ま、松尾さん」


 その声に、俺は顔を向ける。


「あっ……」


 ぽろっと、俺の口から声が漏れる。


 すぐそばに水着姿の安藤さんがやって来た。


 俺は買い物には同行したけど、


『どんな水着かは当日の楽しみね! 絶対、秀次が気に入るよ!』


 と、蛯名が言ったから、俺は今日この瞬間まで、安藤さんがどんな水着を着るのか分からなかった。


 そして、いま目の前にいる彼女は、薄めのピンク色のビキニを纏っている。


 愛らしい。


 真っ先に浮かんだのが、この一言。


 やはり照れ臭いのか、モジモジとしている姿もいじらしい。


「……ど、どうですか? 私、大して、胸とか大きくないし、スタイルも良くないですけど」


「そ、そんなことないよ。あの、何て言うか……すごく可愛いね」


「へっ? あ、ありがとうございます……」


 俺と安藤さんは、またお互いに赤面して顔をうつむけてしまう。


 ふと、みんなの方を見ると、何かすごくニヤニヤしていた。


「やーん! ひよたん、私の見たて通りにかわゆい~!」


 蛯名が駆け寄って来て、安藤さんを抱き締めた。


「あ、ありがとう、翔子ちゃん」


「おい、蛯名」


「ふふ、分かっているよ。これくらいのスキンシップ、許しておくれ」


 蛯名はくすっと笑って、安藤さんから離れる。


「全く……けどまあ、サンキュな。安藤さんに、可愛い水着を選んでくれて」


「問題ないよ。ひよたんは元が可愛いから、水着を選ぶのもすごく楽しかった。ちゃんと、夏芽ちゃんにもお礼を言っておくんだよ? 何なら、あたしが直接言ってあげようか?」


「それはやめておけ。お前、嫌われているから」


「ガーン!」


 蛯名はスタイルの良い体を折り曲げてへこむ。


 大きな胸が重力でゆさっとしたので、俺はサッと目を逸らす。


「あっ、秀次。いま、私のおっぱい見たっしょ?」


「わ、悪い」


「素直に謝るなんて、偉いね」


「バ、バカ野郎……」


 俺はふと、安藤さんの方に目が行く。


 彼女は何やら、両手で自分の胸に触れて、小さく頬を膨らませていた。


「大丈夫だよ、ひよたん。秀次は、女子をそこだけで判断しないから」


 蛯名が安藤さんの華奢な肩に触れて言うと、


「ほ、本当に?」


「うん。友達の私が保証するよ」


 蛯名がニッと笑うと、安藤さんは少し安心したように笑う。


「おーい、お前ら! ビーチバレーやろうぜ~!」


「早く来いよ~!」


 修也と伸和が言う。


「ああ、いま行く。安藤さんも、行こう」


 俺が微笑んで言うと、


「はい」


 彼女もまた、微笑んでくれた。







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