8 ナンパ、かっこ悪いよ
コンビニ店員は色々とやることがある。
レジ打ちはもちろん。
品出し、フェイスアップ、廃棄チェック、フライヤーの仕込み、ポットのお湯補充、ゴミ出し、etc……
最近のコンビニは初心者でも分かりやすいようにシステム化されているから、仕事はさほど難しくないけど。
色々と大変なバイトではある。
「安藤さん。俺がフライヤーをやっとくから、レジをお願い出来るかな?」
「はい」
安藤さんは笑顔で頷いてくれる。
ここ最近、彼女は前よりも笑ってくれるようになった。
元から、このバイト先では笑っていたけど。
振り返ると、どこか作り物っぽいというか、ぎこちなかった。
けど、今もう自然な笑顔を見せてくれる。
俺はフライヤー室に入って作業をしながらそんなことを考えていた。
「しかしまあ、小柴がいないとスムーズだなぁ。安藤さんと二人きりだとやりやすい」
なんて、我ながらひどいことを言ってしまう。
もしこのセリフが小柴の耳に入ったら、また『鬼畜ぅ~!』とか言われてしまうのだろうか。
「よし、アメドは揚げたから、あとはチキンだな」
ひと区切りついたので、俺はフライヤー室から顔を覗かせてジの様子を伺う。
うん、さほど混んではいない……ん?
何やら二人の男性客がレジの前にずっといて、安藤さんに話しかけている。
「ねえねえ、君。可愛いね~。俺らと遊ばない?」
「あの、すみません。バイト中なので……」
「じゃあ、バイト終わってから行こうよ~」
ああいう輩は、まあよくいる。
コンビニでバイトしている女子って、何か魅力的に見えたりするし。
おっさんとか、よく手を握ったりするからな。
みっともねえ真似しやがって。
「ご、ごめんなさい、その……」
「良いじゃん。ねえ、行こうよ~」
ナンパ客が安藤さんの手に触れようとした。
「お客様、失礼します」
「あ?」
俺が割って入ると、ナンパ客は睨みつけてきた。
「申し訳ありませんが、業務の妨げになりますのでそういった行為はお止めください」
「んだよ、テメェは? この子の彼氏か?」
「いえ、ただのバイト仲間です」
「だったら、すっこんでろよ!」
ナンパ客がレジ台を蹴ると、安藤さんがビクッとした。
俺はそんな彼女の背中にそっと触れながら、
「お客様、そのような行為はおやめ下さい」
「うるせえよ!」
「店内にはいくつも防犯カメラがございます。こちらが本気になれば、いくつかの罪でお客様を警察に突き出すことも可能です」
俺はそう言って、胸に提げた防犯ブザーに触れる。
「幸いこのコンビニ、交番が近いんですよね」
すると、それまで威勢の良かったナンパ客たちの顔がサッと青ざめる。
「ちっ、行くぞ」
そして、スタコラと去って行った。
「全く、仕方のない奴らだ」
俺は肩をすくめる。
「あ、あの、松尾さん」
安藤さんが言う。
「助けてくれて、ありがとうございます」
まだ少し震えている彼女を見て、
「当たり前のことをしただけだよ。それに、ムカついたから」
「えっ?」
「あいつら、安藤さんに気安く触れようとしたからさ。ムカついちゃったんだ」
「ま、松尾さん……」
安藤さんは顔をうつむけてしまう。
「ちょうど、いま空いているし。少し休憩して来なよ」
「だ、大丈夫です」
「いや、でも……」
顔を上げた安藤さんの顔は、笑みを浮かべつつも、先ほどよりも引き締まって見えた。
「じゃあ、もう少しがんばろうか」
「はい」
やっぱり、彼女の笑顔は可愛いと思った。
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