4 初めての共同作業
安藤さんと二人で部屋の整理をしていると、あっという間に日が暮れていた。
「ふぅ~、安藤さん、お疲れさま」
「そんな、松尾さんこそ」
「さてと、夕ご飯の支度でもするか」
「あ、じゃあ、オムライス作ります」
「やったー」
俺が手を掲げると、安藤さんはニコッと笑ってくれる。
「どうする? 俺も手伝って良い?」
「じゃあ……松尾さんはケチャップライスをお願いします」
「良いね。二人で共同作業だ」
「へっ?」
安藤さんは目を丸くした。
「あ、ごめん。俺、何か変なこと言ったかな?」
「いえ、何でもないです……」
安藤さんは少し顔をうつむけてしまう。
「あ、じゃあ、お野菜を刻みます。松尾さんは、フライパンで炒めるのを担当して下さい」
「分かったよ」
俺はニコっと笑う。
安藤さんはまな板の上で、次々と野菜を手際よく刻んで行く。
「けど、安藤さんって本当に料理が上手だよね。家事もみんな出来ちゃうし」
俺が何気なく言うと、安藤さんは手を止めた。
「……ずっと、お家で家事を任されていたので」
「それって……親戚のおじさんの家で?」
「はい」
「そっか……安藤さんは、本当にがんばり屋さんだね」
俺が言うと、また安藤さんの目に涙が浮かぶ。
「大丈夫?」
「あ、はい。玉ねぎがちょっと……」
そんな風に言い訳をする彼女がいじらしくて、俺はじっと見守る。
「はい、出来ました」
「じゃあ、俺がケチャップライスを炒めるよ」
さほど料理上手じゃない俺でも、それくらいは出来る。
「わっ、すごい。重いフライパンを軽々と。松尾さんって、力持ちなんですね」
「まあ、高校まで運動部だったからね」
「何部だったんですか?」
「野球部だよ。一応、レギュラーだったかな」
「すごいです。あの……モテました?」
「ん? まあ、エースの奴はモテていたけど。俺はそうでもないかな」
「そ、そうですか……」
なぜか、彼女は少しホッとしたような顔をする。
「もしかして、野球が好きなの?」
「へっ? あ、えっと……そうですね」
「じゃあ、今度2人で息抜きにキャッチボールでもする?」
「あ、でも、私はそんなに運動が出来る訳じゃ……」
「そっか。まあ、気が向いたら言ってよ」
安藤さんはコクリと頷く。
そうこう言っている内に、ケチャップライスが完成した。
「じゃあ、安藤さん。お願いします」
「はい」
俺がバトンタッチすると、安藤さんはフライパンいっぱいに卵を広げる。
そこに俺が作ったケチャップライスを投入する。
そして、まるで魔法のように、トントン、クルクル、と。
あっという間に、卵でケチャップライスを包んでしまった。
「完成です」
「わー、すごい。安藤さん、見事なお手前だよ」
「そ、そんな、照れちゃいます」
安藤さんは頬を赤らめる。
「あ、松尾さん。先に配膳とかお願い出来ますか?」
「うん、分かった」
俺は絶対に美味いであろうオムライスを食せることにウキウキしながら、テーブルを拭いてスプーンを用意する。
そして、安藤さんがオムライスを運んで来た。
「お待たせしました」
コト、と置かれる。
「やった~……ん?」
見ると、オムライスにケチャップで文字が書かれていた。
『マツオさん、ありがとうございます』
俺はハッとして目の前の安藤さんを見た。
彼女は心底照れ臭そうに、赤面する顔をうつむけていた。
「安藤さん」
俺が呼ぶと、彼女は顔を上げる。
「俺の方こそ、ありがとう」
そう言うと、彼女はまた目が潤む。
けど、ニコリと笑ってくれた。
「さあ、食べようか」
「はい」
そして、俺と安藤さんは、二人で仲良く美味しいオムライスをいただいた。
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