おままごと ③

 化け物がゆっくりと終夜の胴を大きな右手で握り、徐々に空中へと上げていく。

体全体を圧迫され、流れる血液が行き場をなくしていく、このまま握り潰されれば水風船の様になってしまう。

あまりの痛み目がうつろとなり、血が昇ったりしているのが原因なのか視界も少し赤くなっている様に感じる。

されるがままの終夜は呻き声うめきごえを上げることすらできなくなった。 


もうだめだ


終夜はただ身を運命に委ね、脱力する。

それは完全なる無抵抗の証。敗北を認めた証。

降伏状態だ。


しかし待っていたのは意外な結末だった。


キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン



 突如、どこからともなく鐘の音チャイムが響き渡る。

茜色に染まった空に重なる音は、どこか子供のころに意識をしていた門限「17時のチャイム」を連想させる。


「合格だよ、おにいちゃん。いや、


鐘の音が鳴り終わると、少女はそう呟き終夜の前まで近づいてきたが、意識がなさそうなのを確認し即座に大声で叫んだ。


「いつまで眠ってるの!!起きて!!!」


化け物に持ち上げられたままの終夜に声をかける。


「ん、んん・・・?」

「寝ぼけないの!!」


キーンとするような高い声に意識を覚醒させた終夜が発した第一声は素っ頓狂なものだった。


「へぁっ!?どういう状況!」

「もー、見たままだよ」

「見たままって・・・僕は負けたのか?」


終夜がそう思うのも無理はない。

現状空中で握りしめられているのだから。


「そもそもこれ勝ち負けとかじゃないし、私たちはただ遊んでほしかったの。バイバイの時間まで、全力で」

「文字通り過ぎる・・・」


確かに、少女の口からなんて言われていなかった。


「でも、ジャングルジム投げてきたりしたじゃん。あれは?」

「あれはこの子なりのキャッチボールだよ」


軽く人が死ぬキャッチボールがあることを知った。


「じゃあ、僕が破片投げてそれを投げ返したのも・・・」

「キャッチボール。今までの人は投げ返される前に終わってたから嬉しそうに叫んでたよね!」

「えぇ・・・。じゃあ、じゃあこの現状は?」

「うれしいの感情表現で抱き上げてるだけじゃない?」


なんということだ。この子証言によると本当に遊んでいただけらしい。


「嬉しいのはわかるけどもう話してあげてね」


そう言った少女は化け物にそっと手を触れる。瞬間ボヤっとした光に包まれ化け物は消えた。当然僕も地上に足がつく。というか自分があれほどの怪我で動ける方に驚き......


「あ、怪我が治ってる!」


正直怪我というより致命傷だったのだが、身体を見ればきれいに治っていた。


「当たり前じゃん、ここは夢のような空間なんだから」

「そうか、夢か」

「うん。じゃあこれから宜しくね。ご主人」


最後のほうに何か不自然な単語が聞こえた気がする。


「ご主人?」

「そうだよ!もともと私の力を使えるようにこんなところまで来たんでしょ?」

「そう、だけど」

「私の出した課題もクリアできたんだし、これから私はあなたに尽くさせてもらいます!」

「あぁ、そういう感じなんだ・・・」


フンス!っといった感じに両手を腰に当てて僕を見つめる。可愛いだなんて思ってしまった。


「じゃあ、これから宜しくな。えっと、三つ首の化け物?」

「レディにむかって化け物とか失礼じゃない!?私にはちゃーんと花子って名前があるの!!」

「わ、わかった。宜しく、花子!」

「うん!!」


花子は満面の笑みで頷くが、花子って別の怪異の名前じゃね?

そう思ったが満面の笑みのこの子に言うのは野暮だろう。

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