おままごと ②

「はぁっ、はぁっ・・・」


息を切らし脚を止めることを許されず、ただただ三つ首の化け物目前の恐怖から逃げること数分。今この瞬間生きていることが奇跡だ。


 ジャングルジムをぐるぐるする事により牽制を続けてはいるが、普段から運動していない僕なんかはいますぐにも捕まるだろう。


 必死に逃げながらも化け物を召還した少女を目の端で見ると、ブランコで退屈そうに時間を潰している。

畜生、悔しいが絵になるじゃないか。


「おにいちゃん逃げてないで戦ってよ!」

「無、理!!」


しびれを切らしたのか少女がお餅のように頬を膨らませ声をかけてきたが、真面目に返答している余裕もなく、声を荒げながら言葉を返す。


 アクションシーンや英雄譚えいゆうたんに憧れを抱く、勇者気質主人公タイプの奴ならテンション高々と立ち向かっていくのだろうが、ただでさえ体力テスト評価がぎりっぎりBの僕は逃げるしかできない。

加えれば、逃げるのすらもう辛い。

一応武器の代わりになりそうなものを動きながら探してはみるものの、遊具以外本当に何もないみたいだ。見つけたとしても戦闘ができるかといえばNO、そんな経験あるわけない。アニメとか見て憧れを抱いていた時期もある(今もたまにある)がいざ現実になるとこうも勇気がいるものとは思わなかった。


「もういいよ、つまんない」


 少女の一声で化け物は咆哮を上げ、ジャングルジムの下のほうを掴む。


(おい、まさか)


悪い予感が的中。

化け物はジャングルジムを地中から大根のように

結果僕と化け物を隔てるものは無くなってしまった。ぐるぐるできない。


「うっそお!!?」


怪力に驚きながらもとにかく遮蔽物がある方向へと走る。

化け物はジャングルジムを投げる構えをとった。


滑り台の後ろへ逃げ込み、化け物の方向を向くと物凄い勢いでジャングルジムが飛んできている。


「何が何でもおかしいだろ!」


滑り台に空飛ぶジャングルジムが激突する。


鈍い大きな音と同時に滑り台は潰れジャングルジムと同化した。


もし滑り台がクッションになってくれなかったら命はなかった。


(・・・死ぬかと思った)


今日でどれだけ死ぬ思いをしなくちゃいけないんだろう。

また横目で少女のほうを見ると先程とは打って変わりらんらんと目を輝かせている。


「それ!そういうの!!」


映画監督を彷彿とさせる少女は声を張り上げる。


 ふと、足元に転がったジャングルジムの破片を見つける。

かなりの衝撃でバラバラになったそれは、まるで一つ一つが武器のようだ。


(これなら少しは戦えるかもしれない!!)


片手に手頃のサイズの棒状破片を持ち、手始めに化け物へと投擲してみた。


「くらえっ」


化け物との距離は30m程。すっかり武器を手に入れ勇気も振り絞ったことでほんのり俺のうちに潜む勇者が出て浮かれていたのかもしれない。


僕は忘れていた。


体力テスト、ハンドボール投げですら21mが最高記録であったことを。


当然破片は化け物の数m手前で落ちた。


「あっ・・・」


自分に対して投擲攻撃を受けたと認識したであろう化け物は、再び咆哮を上げ、僕が投げた破片を拾い上げ、僕の数倍ものスピードで投げ返してきた。


「え」


反応が遅れ、気づいたころには破片が僕を通過していた。いや、



ワンテンポ遅れて溢れ出す血液は僕を中心に小さな水たまりを作る。


「うわああああああああああぁああぁあ」


痛みなんて通り越し叫び、叫ぶ。



化け物もそれを見るなり咆哮を上げ、一歩一歩大きな足で終夜に近づいていく。

目前に迫る化け物に終夜は、ただただ目を見開き死を待つのみだった。

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