三つ首の怪物 ⑥

(なんだ、この光は)


 ミサンガの発する怪しい光。まじまじと見ていると、なんだか吸い込まれそうだ。

暫く光を眺めていると、ミサンガを着けている腕の中に光が吸い込まれていき、腕一面に古い文字の様なものが浮かび始めた。


(痛みは無いけど、文字の雰囲気からして呪いみたいだな・・・もしかして不味い?)


 状況が理解できず、文字が広がるのを抑えようと右腕の付け根辺りを握って抑えてみたが浸食の勢いは止まらない。

気が付けば、右腕にとどまらず左腕、ついには全身に文字が刻まれた。まるで耳なし芳一みみなしほういちだ。


そのまま、何もなく数秒が過ぎる。取り敢えず死にはしないっぽいと安堵した直後だった。


(いっ?!)


心臓が焼けるように熱い。吐く息も熱を帯びている。

鼓動はどんどん早くなっていく。

体中に刻まれた文字が、ジュッと焼き鏝やきごて音を出して皮膚の中に消えていく。


(熱い、痛い、息が苦しい、一体何が起こってる!?)


何もわからないまま、とにかく耐え続ける。

やがて、体中の文字が全て体の中へと消えた。


 心臓も熱くないし、息も普通だ。皮膚も何事もなかったように元通り。よかったと胸をなでおろし、首を一回し・・・。


(ん?この感覚・・・)


首が回しにくいというか、両肩にすごい覚えのある異物感。そう、怪異能力だ。この空間にきてから治まっていたのでもうここでは出ないものだとばかり思っていたが、ここにきて再発するとは思っていなかった。


(あーこの自分の両頬が当たる感覚、やっぱり気持ち悪い)


またも右腕のミサンガが光りだす。


(また光ったってことは痛いのが来る!!)


思わず体を強張らせるが、痛みの類は来なかった。よく見れば今度の光はだ。


 さっきとは違う光にまた別の緊張が走る。

そのまま数十秒、あまりに何もないので不思議に思い辺りをきょろきょろと暗闇を見渡すと、自分の下に鳥居が出来ていた。向きとしてはおかしく、倒れている状態で、鳥居の中は何か時空の裂け目の様なものが渦巻いていて今にも吸い込まれてしまいそうな感覚になってくる。

更に不思議なことにその鳥居はだんだん大きくなっていっている気がする。


(なんだろうあれ。だんだん大きくなっていってないか?)


違った。鳥居が大きくなっているんじゃない、

流れ的にあの中に行くのが正しいのかもしれないが、未知故に怖い。


恐怖とは関係なしに気づけばもう目前。


 元々この空間での体の動かし方がわからないままふわふわしているだけだった僕は、何も抵抗ができないまま鳥居に吸い込まれていった。

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