三つ首の怪物 ④

僕が目を覚ましたのは、暗いトンネルの入り口の前だった。


廃墟はいきょの様なトンネルの先は見えず不気味で、思わずその場から離れたい衝動にかられ後ろを見る。


(うわー、マジか・・・)


数メートル先が目視すらままならない。まさに闇。

その中に足を踏み入れようものなら二度と戻っては来れない気がする。そもそもこの先に踏みしめることの出来る地面が存在するのだろうか?


 何かしらを対処しなきゃいけないとパンダが言っていたので、絶対何かが起きるのは間違いない。

ふーっと、ひと呼吸入れ、腹を括り再びトンネルの奥へ視線を向ける。

しかしまあ、暗い。

トンネルの設備としてのライトはあるにはあるが、本当に申し訳程度の数、さらに電気が死にかけていて数秒ごとに元気を失ったかのように消えかけそうなのが不気味さに拍車をかけている。


(あ。そうだ携帯のライトあるじゃん!)


携帯のライト機能を使おうと思い、ポケットに手を突っ込むが、無い。どうやら意識が飛んだ時の装備状態のままらしい。

よく見ると服装はパジャマだし、しっかり紫のミサンガは着いている。

ありがたいことにこの空間では頭が三つにはならないようで、肩の重みは無い。


ペチッ


自分を奮い立たせるように両頬を叩く。


(よし、進もう)


迷ってはいられない。とにかく早く現実に戻らないと・・・

パンダの時間を気にするように言っていたことが気になっているのもあって、トンネルの深い闇の中へと歩を進めた。


脚を動かし続けること十数分くらい


(進んでるのかすらわからないな・・・)


 依然として続く代り映えのしない景色に本当に進んでいるのか? そもそもトンネルに入って正解だったのか? などと心の迷いが生じ始める。 


更に時間が経過・・・


 耳に入ってくるのはザッザっという自分の足音のみ。

この音ばかり聞いていてはおかしくなりそうだ。気分を紛らわすため独り言でも良い、喋ろう。


「あーー!」


少し声を張ってみたが一瞬にしてトンネルの奥へ吸い込まれ消えた。

不思議なことにトンネル特有の反響は無い。

もう一度、今度は叫んでみる


「わっ!!」


今度もまた、音が一瞬で吸い込まれた。まるでされているような感覚になる。

自棄やけになって何度も繰り返し叫ぶ。それは逆効果で、繰り返しているうちに段々自分が出した音がわからなくなってしまってきている。落ち着こう。でたらめに声を出すのはやめだ、今度は歌ってみることにした。


(♪~・・・あれ?)


歌声が聞こえるはずの耳にはザッザッザという足音しか入ってこない。声に出すの忘れたか?いやそんな馬鹿な。


「ーー!!--!!!」


(声が、出ない?落ち着け、パニックになったら終わりだ。もう考えるのはやめよう)


喉がおかしくなったのか耳がおかしくなったのかもわからないまま、取り敢えず脚は動かし続けた。


更に、どれだけ時間が経ったのだろう。

どれだけ進んだのだろう。

この状況下でただの一般人である少年が正気を保っていられる時間は実に短いものだった。


(僕は進んでるのか?何のために?足音すらもわからなくなってしまった。もうほとんど暗闇だ。駄目だ、わからない。トンネルの出口もまだ見えない。)


疲弊ひへいし感覚も狂い、ついには最低限動かしていた脚が止まる。そもそも動いていたのだろうか?

脳も必死に感覚を正そうとフル回転させていたがもう限界だ。


終いには当初の目的すら頭の中から消え、僕は膝から崩れ落ちるように冷たい地面の上に横倒れてしまった。


 その直後、終夜の右腕に着いていたミサンガが青く怪しく光り、その光が終夜の周りを包む・・・。


光が消えた時、そこに終夜の姿は無かった。

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