5話 三つ首の怪物
「うへぇ気持ち悪っ」
やっぱまだついてた。
せめて慣れようと何度も鏡の中を覗いては、渋い顔を繰り返す。無理だ。異様な自分の姿に吐き気すら込み上げてきた
「どうしましょう?」
「死ぬ気で戻すしかないんじゃない?」
「まぁ、それはそうなんですけど」
至極当然の返事をされたが、肝心の戻し方がわからないので行動に移せる訳がない。
今更だけど、あれだけ大きな声で叫んでいたのにナースさんすらも来ないし、どうなっているんだか。状況的にはとても助かっているんだが。
にしても、意味ありげに「始めよう」とか言うものだからなにかあるのかと思っていたが、パンダもイカも僕をじーっと見ているだけで何も動く気配がない。しょうがなく、自力で何とかならないか再び鏡に目を移し数分頭を悩ませていると、パンダがニタニタしながら(本当にそうかは知らない)話しかけてきた。
「取引、しよっか?」
「はい?」
なんだか嫌な予感がして聞き返してしまった。
「聞こえてたでしょ?取引だよ。取引。君にその力のことをレクチャーする代わりにこちらの言うこと聞いてくんない?」
此処のまま殺されるのは嫌だ。
選択肢はあってないようなもので、すぐ答える。
「僕は・・・何をすればいいですか?」
「お、話が早いね。そういう子は好みだよ」
「え、あ、ありっがとうございます?」
声が裏返る。
今まで恋愛の“れ”の字すら引っかからない人生を歩んできた僕にとって、こういう何気ない一言が大ダメージを与えてしまうのだ。どうしよう、パンダに告白されちまった。
「そう照れないでくれよ、少年。」
「て、照れてないですよ!」
そう
「取引の内容は、まだ先の話になるとは思うんだけどね。君のその力が必要になる時が来たら、力を貸してほしいんだ」
「こんな三つ首が「力」で、「必要」・・・ですか?」
正直な話、ただ頭首が三つに増えるというだけで何の力になれるのか疑問ではあったが、助けてもらう恩返しとしては妥当だろう。
「うん、必要だよ。その時になったら迎えに行くからよろしく。じゃあ切符作るからちょっと待ってて」
「ああはい、ん?切符?」
話がトントン拍子に進む中、切符という単語に疑問を持った僕の隣にイカがやってきた。
「じゃ、発券するからなくすなよ」
そう言ったイカは、ポケットから10円玉を取り出し、少しマスクを上げ、口へと運んだかと思えばゴクンっと一飲みした。そして僕の心臓あたりを指で押し、呟く。
「発券完了」
一瞬身体中が静電気に包まれたかの様な感覚に陥ったが、特に僕に変わったことは無し。・・・10円玉って消化するのかな?
「硬貨を飲み込ん・・・え、ここでマジックですか?」
「じゃねーよ。確かに切符は発券した、お前行きの切符をな」
「あ、あー・・・」
『なるほど、見た目で気づくべきだった。こじらせちゃってんだ、この人。なんだか少し可哀そうだな。これ、乗ってあげたほうがいいかな?』
「あ?だれがこじらせてるだぁ??」
不味い、また思っても言わないようにしていたことが勝手に。っていうか今回で分かったぞ、さっき勝手に喋ったのも横の頭だ!
ていうか目とか閉じてたじゃん!なんで余計な時に喋るんだよ!
「そういえば頭が増えて困ってるんだよな、願い通りに一つに戻してやるよ。」
『あ、駄目だイカってらっしゃる。』
「あ、またコラッ。え、あのどうするおつも「こうやって物理的になぁ!!」いやあああ」
ぎちぎちと嫌な音を出し握られた拳が頭に向けられたところでパンッと手を叩く音がした。動きを止め音のほうへ振り向く、パンダだ。
「時間がないってさ、言ったじゃん?」
「「すみませんでした」」
静かに怒気を放つパンダにイカと僕は謝るしかなかった。
「さて、今ので分かった通り、僕らは
どうやら、父さんが言っていた怪異因子が発現した人のことを「怪異能力者」というらしい。安直だ。
こうして、能力を制御しよう講座が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます