4話 遭遇、パンダとイカ

 更に数日ベットに拘束され続け、流石にスマホゲームも退屈になってきたころ。

ようやく明日の昼には家に帰ってもいいという許しを得た。


 朝にまた採血をするらしい。こんなにする必要があるのかと聞いてみたら、「本当に患者が大切で慎重なだけなんだ、ごめんね」とのことだ。

恐らくは嘘なんだと思う。というか、怪異因子とか何も知らない人でも疑う量と回数の採血だったんですけどね、これ。


 採血しまくりで気分は悪いが、何はともあれ家に帰れるというのはありがたい。監視カメラ等が家にもあると知ったせいで100パーセント安心できるようになるわけではないけど。


いつも通りスマホを触ったり荷物をまとめたりしながら時間を潰した。やはり明日帰れると思うとなんだか時間が早く進んでいくように感じた。


 夜、就寝時間になったということで消灯された。いつもならすっと寝れるのだがなぜか落ち着かない。というか、だんだん頭が痛くなってきた。

痛みは引くことなく寧ろ強くなる一方で、ナースコールを押そうと思ったのだが、そのせいで明日帰れなくなるのは嫌だったので布団に潜り包まって頑張って耐える・・・耐える。


やばい、割れる無理だ痛い死ぬかもしれない、ああ駄目だ耐えれそうにない。今にも割れそうだ。もうだめだ。割れる割れる割れる割れる

観念し、ナースコールのある方向へ手を伸ばす。だがナースコールに手が届くことはなかった。


 刹那、何かが歪んだ感覚を覚え、気持ち悪さで被っていた布団をひっぺがえす。

さっきまで暗かったはずの病室は電気がついていて、目の前には・・・パンダ。


え、パンダ?


頭痛も一瞬忘れるくらいに戸惑うが、さらに激しくなった痛みが僕を襲う


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「あーあー可哀そうに。ほら、これ飲みなよ」


優しい声のパンダは僕の口に無理やり錠剤のような何かを押し込んだ。


「ほら、早く飲み込んで」


何も考える余裕がなく、言われるがままにゴクリと飲み込んだ。

瞬間、痛みが一瞬にして増幅する。痛いだなんて生易しい。形容出来ない。本能的にただ叫び、痛みを紛らわせようとする。


「うああああああああ゛あ゛あ゛ああああああああああ!あああああ

がああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああ!ああああ゛あ゛あ゛あ゛ああ!」

「さすがに五月蠅い!口抑えたいけどな。ちょっと手伝ってよ」

「はあ、そんな奴気絶させちゃえばいいんすよ!全くお人好しというかなんというか」


突如として現れたもう1つの声と手が加わったことにより声は完全に押さえ込まれた。


 口を押えられ暫くすると、先ほどまでの痛みが嘘のようで全く痛くない。寧ろ心地がいいくらいだ。抑えられていた口が解放されると、次第に思考が冷静になって周りも見えてくる。

冷静になればなるほど周りの状況が冷静ではいられない状況であることが分かった。なにせ


「え、パンダっ!!それにイカ?!なんで!!!!」


相手はパンダだったことを思い出したからだ。しかも気づけばイカまで増えている。顔だけパンダとイカのマスクを被っているといったほうが正しい。背丈からしてパンダが女性でイカが男だろう。


「いちいちリアクションが騒がしいんだよお前は!それよりもなんか言うことぐらいあんだろ!」


騒ぐ僕をイカマスクが小突く。


「あ!なんでパンダとイカをチョイスしたんですか?」

「そーいうこっちゃねーんだよ!頭痛のことだよ!」


今度は結構強めにどつかれた。暴力イカ、怖い。

確かに、頭痛を止めてくれたのがこの変態達パンダさんとイカさんなら感謝しなくちゃいけない。


「あ、ありがとうございました。おかげで家に帰れそうです」

「なんだ、言えるんじゃねーか」

「構わないよ、これが俺らの仕事みたいなものだからね。因みにこのパンダは好きなだけ」


パンダの人は優しそうだ。


「さ、時間もないし始めようか」


パンっと手を叩き話の流れを断つと、机に置いてあった鏡を持ってきた。


「時間がないってどういうことですか?」

「そのままの意味だよ。君が死ぬか死なないかってこと」


そういって、近くにあった手鏡を僕に向ける。


「な、んですか。これ・・・」

「びっくりした?」


愕然とする。これは現実なんだろうか? 確かに頭痛が治ったあたりから、少し肩あたりが重いとかは感じていた。けどこんなことってあるのかよ。


「これを元に戻さないと君は家に帰る前によ」

「気張って行けよボウズ。いや、」


鏡に映る僕の両肩にはそれぞれ1つずつ、。どちらも目をつぶっていて生気は感じられない。気持ち悪い、こんなの正気の沙汰じゃない。


「ボウズよりのほうがお似合いだな》」


決め顔の(マスクの上から出よくわからないが)イカが言った。何故かこの人は愉しそうだ。


「ケル、ベロス・・・」


その例えは言い得て妙で、鏡に映る僕の両肩にはそれぞれ1つずつ、人の首から上が生えていた。

は目を閉じ、現在生気は感じられない。質感は人そのもの。顔は、よく見なくてもわかる。



ケルベロスってソシャゲとかだとかっこいいのに・・・はっきり言わなくても気持ち悪い。

そもそもあれは犬だから許されてるんだなと思う。人間で、しかも自分の首が3つとか・・・無理。


不意に、もし戻すことができなかったらと考えてしまう。


 まず、病院の人に見つかり次第通報。そしたらきっとあの特殊部隊が僕を処分しにくる。そしたら母さんも危険に晒してしまうかもしれない。父さんとのことも無駄になってしまう。


「嫌だ、死にたくない」


恐怖からか発した声は小さく、震えていた。

このままじゃダメだ、なんとかしなくては。

僕は自由に生きなきゃいけないんだ!


深呼吸をする。


心を出来るだけ落ち着かせろ、落ち着かせて・・・

そしたらとりあえず引っ込むかもしれない。


よし、だいぶ正気に戻ってきたぞ。


手鏡を顔の位置まで上げる 

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