3話 人ならざる因子

 あの事件後。

大号泣していた母さんも少しだけだが落ち着き、父さんの葬儀が行われた。

僕ももちろん出席、というわけにもいかずにまだ大事をもって入院中だ。でもさすがに毎日同じ部屋の中は疲れるし飽きる。何より病人食がまずいのなんの、塩味しかしない。因みに入院してからというもの定期的に問診・血液検査をされているのだがこれがまた異常に多い。そんなこまめにしなくても何も変わらないだろうとは思うのだが、やはり父さんが言っていたが気になるんだろうか?

枕の下に隠していたメモ帳を開きペンを持つ。


怪異因子かいいいんしかぁ」


ぼそりと思わず口に出てしまったことにハッとしすぐさま周りを見渡す。よかった、誰も周りにはいなさそうだ。

 目を覚ました時には病院のベッドの上、目を覚ましたことに気づいた母さんは泣きながらよかったと抱き着いてきた。母さんに色々聞いたり話したいことがあったのだが、周りに家族以外の人間がいたらまずいと思い、まだ何も詳しい話はできていない。それでも父さんからの情報をなんとか形にして残しておかないと忘れてしまいそうだと思い、危険だとわかっていてもメモに残しておくことにした。最低限ばれないように最初と最後のページを避けた真ん中あたりのページから書いている。

 今現在思い出して書けている内容は・・・


・この都市は怪異因子を持ったとされる人間(赤子も含め)が集められ、都市の外から出れないようになっている。


・怪異因子が発現すると国としても厄介なため即刻裏部隊による殺処分となる。


・怪異因子には大体25歳を超えたあたりで発現していないことを条件に殺戮衝動を急激に高める別の因子へと変化する特性を持っている。


・親は皆、本当の親だとは限らない


・発信機や盗聴器は車だけでなく各家庭、都市の公共施設には必ずと言って良いほどついている。


この5つだがまだ他にあった気がするが、思い出せない。


 内容を振り返ってみて、父さんが最後に言った「自由に生きろ」というのは不可能な気がする。まず、怪異因子が発現したことを知られれば殺され、発現しなくても殺戮衝動が高まり結局抑止として裏部隊に殺されるのだから。


 眉間にしわを作りながらももう一度メモを見直す。するとあることに気が付いた。


これ、おかしくないか?父さんはもちろん、母さんも25歳以上なのは確実で、この都市に居るのに殺されてはいない。発現して見逃されたというわけではないだろうし。そもそも僕ら家族はこの都市出身じゃないのか?それとも・・・


メモの4つ目に目を向ける


本当の親とは限らない、か。もしそうだとしても僕にとっては大事な家族であることに変わりはないからいいんだけど。


ふと空を見る。今日は天気がいい、父さんはきっと天国に行けたんじゃないかな。

僕、父さんの自慢の息子だからさ、父さんのことは悲しいけど泣かなかったよ。母さん守れるくらい強い男になるからさ、上から見守っててよ。どうか、安らかに。


母さんが持ってきてくれた手鏡を持つ。映るのは誰かに殴られたのかっていうくらい赤く腫れあがった目、きっと気絶した拍子にどこかにぶつけたんだろう。父さん似の男前が台無しだ。

例え、この腫れが引いても心が完全に晴れることはない。父さんが死ななきゃいけなかった理由を理解するまでは。

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