2話 I know.
あれは中学校の卒業式から数日後のこと
高校入学を控えた僕を「話がある」と、父さんが呼び出した。普段とは違う、やけに険しい表情が自然と緊張させたのを覚えている。
「こんな夜遅くにどうしたの、父さん。話なら普通に家とかでいいじゃん、ていうかこれどこ向かってる?」
「さあな」
「えー・・・」
率直な疑問を言葉にして投げかけたけれど、適当な対応をされてしまった。
時刻は丁度24時。
今、僕がいるのは父さんの運転する車の助手席、ではなく運転席の後部座席。
目的地も謎。座る位置までも指定された、何故助手席じゃだめなんだろう?
疑問を乗せて車は夜道を進む。
「高校でうまくやっていけそうか?」などの当たり障りのない質疑応答を小一時間程つづけたあたりだったろうか?ふう、と一呼吸置き、父さんは話を切り出した。
「なあ
「・・・は?」
表情だけではなく、その場が凍り付いたような気がした。
付き合う前のムズムズする甘酸っぱい男女問答と思わせるような内容の問いかけに、ふざけているのかと思ったのだが口調や声のトーンからしてそうではないらしい。
「そんなの父さん以外になにがあるんだよ」
即答する
「そうか。それもそうだな、俺はお前にとって父さんだよ」
「うん。え、本当に何」
なにやら嬉しかったのか、少しだけ父さんの声にいつもらしさが戻った。でもなぜだろう、依然としてバックミラーをのぞいて見える父さんの表情は険しい。まるでなにかを覚悟しているような感じだ。
そこで僕も疑問をぶつけようと思ったのだが、話を振る前に「将来は何になりたい?」とか当たり障りのない会話に戻されてしまった。
時刻は深夜1時半
車を走らせて相当時間が経ったが、行先はわからなくなっていくばかりだ。この道の先はもうどこにつながっているのかさえも分からない。
ただただ不気味な暗いトンネルの中に入った矢先、急に車が停まる。
故障の類ではなく、父さんの意思による停止みたいだ。
ちょっと待ってろと言い残し、僕の返事を聞く前に降りてトランクの中を漁り始めた。
「ここら辺だったか・・・あぁ、あった」
手に取ったのは、小型の四角い機械の様なもので緑のランプが点いている。それをどうするのだと思えば、そのまま車の進行方向数十メートル先に置き、運転席に戻ってきた。僕の父親は本当に何をやっているんだろう。
「後で説明する。今は急ぐぞ」
「え、うん」
何やら急ぎらしい
数十メートルほどバックし、父さんはアクセルを踏む。
進行先にあるのは先ほど捨てたと思われる小さな機械。それをわざと
機械が潰れランプが消えたのを確認した父さんは、またアクセルを踏んだ。車が進みだした直後、僕は轢いた機械が気になって後ろの窓から覗いた。
ぼんやり見えたのは警報を表すような赤いランプ、激しく点滅している。
どうやら一発で完全に壊すことはできなかったらしい。これは父さんに伝えたほうがいいのだろうか?
まあ、壊すことが理由ならもう放っておいてもじき壊れるだろうしそれは良いだろう。
それよりも僕は目的が知りたい。車に乗ってからというもの、父さんは家でもできるような内容の話しかしていないし、謎の機械を壊しただけでまだ僕を連れてきた意味が考えられない。
「そろそろ本当に教えてくれない?」
「ま、流石にそうなるよな。何の説明も無しに連れ出されて、わけがわからん機械一緒に轢いただけだもんな」
一呼吸置き、父さんが話し始めた
「まず、さっき轢いたあれ。発信と盗聴器だ」
「ごめん父さんうまく聞き取れなかったみたい、もう一回お願い」
最近耳掃除したはずなのに、上手く聞き取れなかった。時間的に眠気が出てきたのかもしれない。
「さっき轢いたのは、発信機兼盗聴器だ。聞き間違えてたか?」
「いや・・・間違えてなかった」
「すぐ理解はできないだろうが、取り敢えず続けて聞いてくれ」
「わかった」
既に混乱しかかった頭をなんとかリセットし再度耳を傾けた、
「よし、じゃあ続きだ。発信機を仕掛けられていたっていうのは言ったから次は・・・」
一通り話を聞いた僕はどんな反応をしたらいいのかがわからなかった。語られた内容は全て嘘のようで、とても信じられるものではない。
取り敢えず頭で整理する時間をもらう。
まず、さっきの発信機は都市の決まりですべての車につけられていること。
その理由は主に、怪異因子というものについて親が子に喋ってしまわないか監視するためであること。喋った場合や発信機にダメージが入った場合即時に特殊部隊が来て場合によっては殺されるらしい。その他にも都市の人間についてや、その怪異因子について話されたのだがふと思い出してしまった。
この話がもし本当なのだとしたら・・・まずいかもしれない
「父さん、さっきの発信機完全に壊れてなかった!」
そう、一発で壊してしまえば気づくまでにまだ時間が稼げたりするかもしれないが完全には壊れず激しくランプが点滅していたのだ
「そうか、やっぱ完全には駄目だったか。わかった」
父さんは焦る素振りは無く、車を走らせ続けた
そもそも一発で壊せたとしても特殊部隊が来るのは確定だ。父さんは何がしたいんだろうか?え、もしかしてうち反社だったの?
盗聴器で都市の秘密を僕に言ったことはバレないにしろ、怪しまれるのは確実。
会話もなく5分ほど走ったころだった。
「父さん、今の」
「ああ、来たな」
遠くのほうから微かにサイレン音が聞こえ始める。それも複数。
事態は僕が思ったより深刻らしい。
音が聞こえ始めてから車のスピードが速くなる。
時刻は深夜2時少し前
依然として車は走り続けている、サイレンは先ほどよりも大きくなっている。
そろそろ限界か、そうつぶやいた父さんは突如車をサイレン音の方向へ走らせ始めた。
「え、いいの?逃げてたんじゃないの?」
質問せずにはいられなかった。捕まればきっと、きっと殺されるはずだ。殺されないにしてもそれなりの罰は与えられるだろう。僕の質問に父さんは答えない。
次に父さんが口を開いたのはサイレン音がもうすぐそこまで来た頃だった。
「さっきの話、忘れんなよ。あと母さんを頼んだ。・・・自由に生きろ終夜、俺は家族を愛してる。お前は自慢の息子だ」
「おいっ、それってどういうっ!」
最後まで発言することは許されなった。
猛スピードの車は特殊部隊らしき車の直前で木にぶつかる。
感じたことのない衝撃に思わず目を閉じる、そこからの記憶はない。
最後、父さんが優しく微笑んでいたのは気のせいだろうか?
残った特殊部隊が見たのは、異常なほどきれいに前半分だけが大破した車だった。車中に居た気絶した少年と、今にも息を引き取っていないとおかしいくらいの姿の男性を引き出し、救急車へ回した。その男性の後ろポケット中からは携帯のアラーム音が聞こえた、回収した者によると2時に鳴るよう設定してあったみたいだ。
衝撃で意識を失い病院へ搬送された僕は、数日後目を覚ました。
大事なものを守るかのように車の後部座席に衝撃を和らげる改造をされていたらしく、体にそこまでの大きな怪我はなかった。
聞いた話によれば父さんは、もう救急車に乗る時点で死亡は確定していたそうだ。
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